講談社、小学館、文藝春秋、新潮社などに見る出版不況の深刻化
小学館が2016年11月に新ビルをオープンさせたことは知られているが、発売中の月刊『創』2月号出版特集で同社の山岸博専務はこう語っている。「免震構造の新ビルが何となく船の形に見えるので、社長は出帆と出版をかけて出版界の荒海に漕ぎ出すと言ってます(笑)」
ダジャレではあるのだが、荒海に漕ぎ出すという気持ちは本音だろう。不況の真っただ中での新ビルオープンに、浮かれていられないということだろう。
実は小学館は昨年、大きな組織改編を行った。
例えば女性誌局を女性メディア局といったふうに改編したのだが、これは紙の雑誌だけでなくデジタルにも対応するべく事業をシフトさせようという狙いだ。これまでの雑誌編集部も今後、整理統合を含めて改編していく方針らしい。『創』2月号で山岸専務はこう語っていた。
「これまで紙の雑誌中心の体制だったのをデジタルにも対応できるように変えていこうというのが基本方針です。同時に紙の雑誌は赤字のものも多いので慎重に将来性を検討して休刊も考えていきます。2016年は『小学二年生』と『Ane Can』が休刊になりました。現場で働いている人も一生懸命ですからゆっくりやっていきますが、そうやって会社の収支をもう少し安定させる必要があります」
小学館では今後、紙の雑誌の大幅な整理統合が行われ、休刊する雑誌が出て来るというのだ。「現場で働いている人も一生懸命ですからゆっくりやっていきますが」というのは、休刊と目されている編集現場で恐らく編集幹部が反対しており、話し合いが行われているということだろう。
先頃、出版科学研究所が発表した2016年の統計で書籍は10年連続のマイナス、雑誌は19年連続のマイナスといった厳しいデータが示され、出版不況の深刻化が改めて示された。それに対応するため出版各社とも組織改編などの対応を行っているのだが、講談社では2015年春に大規模な組織改編が行われている。小学館も同じような方向をめざさざるをえないということだ。
『週刊文春』が昨年来絶好調の文藝春秋でも、不況の深刻な影響は現れている。2016年は『羊と鋼の森』と『コンビニ人間』という2つの文芸書がいずれも50万部突破というベストセラーになるなど、一見華々しく見えるのだが、内部はそうでもないという。
『創』2月号で同社の飯窪成幸取締役がこう語っている。「50万部の本を2冊も出しながら、単行本部門としてはなんとか目標に到達といった状態です」「各社ともそうでしょうが、文庫の売れ行きが厳しい。スマホの普及とか書店の数、売り場の減少など、原因はいろいろ言われていますが、事態は厳しい」
特定の本や雑誌は売れているのだが、一部の売れるものとそれ以外の売れないものに市場が二極化しており、全体を見ると厳しいというわけだ。文藝春秋は一昨年も『火花』という大ヒットがあったのに同じようなことが言われていた。つまりそれだけ特定の本以外の全体が落ち込んでいるわけだ。
特にこのところの文庫市場の低迷は極めて深刻で、新潮文庫が屋台骨である新潮社でも抜本的対策が叫ばれている。『創』2月号で新潮社の三重博一文庫部長が取材に応じてくれているが、新潮文庫の年間の販売部数を見ると、1990年の4400万部をピークに、2000年には3000万部を割りこみ、2013年には2000万部を割りこんだ。2015年には1600万部を切ったという。ものすごい勢いで落ちているのだ。
三重さんは、かつて新潮新書創刊に関わってヒットを連発した経験があり、不振の文庫立て直しのために昨年、文庫部長に投入された。
出版不況の深刻化はとどまるところを知らない勢いだ。特にこの何年か、書店が次々と廃業に追い込まれていることが深刻な影響を及ぼしている。小学館の新ビルのある神保町の一角には、先頃自己破産した岩波ブックセンターがある。オーナーだった柴田信さんが昨年急逝して店を閉めたのだが、当初は店主急逝で一時閉店とされていたのが、そのまま再開することなく破産となった。
良心的な経営で知られた同書店の廃業は、業界でも重く受け止められたが、閉ざされた店の前には「書物復権」という同書店が掲げていたポスターがいまだに掲げられたままだ。
出版界のこの状況はこれからどうなるのだろうか。