中国で羽生選手と人気を二分するフリースタイルスキー中国代表、谷愛凌選手の“完璧ぶり”
2月8日、フリースタイルスキー女子ビッグエア決勝で、中国の谷愛凌(グー・アイリン、Ailing Gu)選手が金メダルを獲得した。
同日、中国の検索サイトのホットワードランキングを見ると、「日本の羽生結弦選手が氷の穴にハマった」というニュースとともに、谷選手の優勝が上位を独占。SNSでも谷選手の優勝を褒めたたえる投稿が相次いでいた。
日本ではその名前があまり知られていない谷愛凌(グー・アイリン)選手だが、中国では今回の冬季五輪をきっかけに、一躍「ときの人」となっている。
ウインタースポーツがあまり盛んではなく、今大会でも注目選手は少ないとされている中国だが、なぜ、谷選手だけは突出して人気があるのだろうか。
母は中国人、父はアメリカ人
谷選手は2003年、アメリカ・サンフランシスコ生まれの18歳。母親は中国人、父親はアメリカ人だ。母親の谷燕氏は北京出身。北京大学で化学工学を学んだのち、アメリカに留学。スタンフォード大学で学んだ。
母親はアメリカ人の男性と結婚。この男性はハーバード大学出身というエリート。2人の間に生まれたのが谷選手で、3歳のとき、スキー指導者の経験があった母親のもとでスキーを始めた。
たちまち頭角を現し、9歳のときに全米ジュニア選手権で優勝。その後も数々の選手権で優勝し、15歳のときには、すでに家に50枚ものメダルがあったという。
幼い頃から「天才少女」といわれ、学校の成績はオールA。スキーのほか、ピアノ、バレエ、バスケットボール、サッカー、乗馬、サーフィンなどでも優れた能力を発揮していた。
中国メディアによると、母親は谷選手に最初にスキーを学ばせたが、他にもっと興味があるものがあれば、そちらで才能が開花した可能性もある、と話している。
子どもの頃は毎年冬になると、クルマで往復8時間の距離にある場所まで練習に出かけ、その車内で宿題をしたり読書したりしていたという。
中国語もペラペラ
生まれも育ちもアメリカの谷選手だが、中国語もペラペラだ。その理由は、幼い頃から毎年、学校が夏休みになると、母親に連れられて北京に帰省し、夏休み期間中、ずっと中国語と中国の伝統文化を学んでいたから。母親は「中国人」としてのアイデンティティを彼女に植えつけようとしたそうだ。
この点が中国人の心をくすぐったのか、アメリカ生まれでも、「中国語が話せる」「中国文化をきちんと理解している」と、中国人の間で高く評価されている。
また、北京市内にある「数学オリンピックのための塾」に通っていたこともある。母親曰く「中国での10日間(の勉強)はアメリカの1年間(の勉強)に匹敵する」。
そうした勉強の甲斐あって、中国語も流暢に話せるようになり、英語と中国語のバイリンガルになるほか、学業の成績もトップをキープした。
15歳のときには母親のススメで中国国籍を取得。おそらく北京冬季五輪を見据えてのことだろう。中国メディアの報道には「中国籍になることで、政府から多額の資金援助が約束された」とある。
中国籍になって以降も世界選手権などで11個の金メダル、2個の銀メダル、3個の銅メダルを獲得し、文字通り、中国に“貢献”した。
学問も継続し、1600点満点のSAT(大学進学適性試験)で1580点を取り、母親と同じスタンフォード大学に合格した。今シーズンが終わったら進学する予定だ。
まったく非の打ちどころのない、あまりの“完璧ぶり”に、今のナショナリズムが高まっている中国では「特権階級の子弟でしょう?」との批判が起きてもおかしくないように感じるが、実際はその逆で、「かわいい」「天才少女」「中国のアイドルのようだ」「こんな娘を持ちたい」と、大変な人気となっている。
有名企業の広告などに多数起用
背景にあるとも考えられるのが、数々の企業広告への出演やスポンサー契約だ。現在、「中国移動通信」「中国銀行」「蒙牛」「安踏」(ANTA)など中国を代表する有名企業と提携しており、北京在住の知人によれば、「駅やオフィスビルなどでよく彼女の広告や宣伝写真を見かける」という。
また、その美貌とスタイルを活かしてファッションモデルとしても活躍しており、雑誌『VOGUE』や『ELLE』の中国語版などの表紙も飾っている。
つまり、国家を挙げて彼女を応援しているということだ。
冒頭でも触れたように、今回の北京冬季五輪で目玉となる選手が少ない中国チーム。そんな中国チームにとって、彼女は「期待の星」となった。目下のところ、その役割は十分に果たしているといえるだろう。