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改めてMLB挑戦希望を明言した有原航平と西川遥輝を待ち受けるあまりに不透明なオフシーズン

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
改めてMLB挑戦の意志を明確にした日本ハムの有原航平投手(筆者撮影)

【改めてMLB挑戦の意志を明確にした有原投手&西川選手】

 日本の主要スポーツ紙が報じたところでは、今シーズンの全日程を終了した日本ハムの有原航平投手と西川遥輝選手は取材に応じ、以前から表明していたMLB挑戦について、それぞれが改めてその意志が強いことを明確にしている。

 両選手ともまだ海外FA権を取得しておらず、今オフにMLB挑戦を実現するためには、チームの承諾を得た上でポスティング・システムによる移籍を目指す方法しかない。

 そのためには今年のポスティング・システムの申請期日である12月12日までに、チームを説得できるかにかかっている。まずは両選手と日本ハムの今後の話し合いに注目が集まるところだ。

【例年以上にシビアなMLBのオフシーズン】

 ただ日本ハムを説得でき、晴れてMLB挑戦が認められたとしても、両選手を取り巻く環境は相当に厳しいものになっている。

 すでに本欄でも数度にわたり報告しているが、新型コロナウイルスの影響でMLB、各チームともに大幅減収を余儀なくされた2020年シーズンを受け、多くのチームが予算削減に動いており、今年のオフシーズンは例年以上にシビアに推移している。

 ワールドシリーズ終了5日後となる11月1日午後から、本格的にFA選手との契約交渉が解禁になっている。例年なら大物FA選手の獲得を目指し、各チームによる激しい契約交渉が行われている時期なのだが、今年は米メディアからは全くと言っていいほど、契約交渉に関する報道が出てこない。

 実際11月1日以降から9日現在までで、MLB全体でメジャー契約に合意した例は、ブルージェイズがロビー・レイ投手と結んだ年俸800万ドル(約8.4億円)の1年契約だけしかない。

 他にも契約合意に達した選手は数人にいるが、すべてマイナー契約ばかり。自分が知る限り、ここまで低調なスタートを切ったオフはなかったように記憶している。

【まずは予算削減に動いているMLB各チーム】

 すでにカージナルスの編成部門の責任者、ジョン・モゼリアク球団社長はシーズン終了後に実施されたオンライン会見で、「年俸総額は間違いなく削減されるだろう」との見通しを示している。この状況は他チームもほぼ同様の状況に置かれている。

 現在はチーム内の年俸総額を如何に削減していくかを検討している段階で、まだFA市場にどれだけの予算を割けるのかも明確になっていない。そのためFA市場が低調に陥っていると考えられる。

 もし有原投手、西川選手がポスティング・システムを利用してMLB移籍を目指す場合、FA選手と同様の扱いを受けることになる。つまりFA市場が低迷な状況が続けば続くほど、大量のFA選手が未契約のままに置かれるため、その分両選手の契約交渉もスムーズにいかなくなる可能性が生じてくるのだ。

 しかもポスティング・システムを利用した場合、契約交渉期間は30日間に限定されており、他の選手よりもさらに不利になってしまうのだ。

【ポスティング・システムによる余剰経費発生もネック】

 またポスティング・システムを利用した選手を獲得した場合、当該チームは前所属先のNPBチームに「契約解除料(以前は入札金)」を支払わなければならず、選手に支払う年俸とは別の費用を用意しなければならなくなる。

 この契約解除料は合意した契約総額によって変動していくもので、契約総額が大きくなればなるほど高額になる方式だ。

 例えば昨オフにポスティング・システムを利用してレイズと契約した筒香嘉智選手のケースでは、契約総額は2年契約の1200万ドル(約12.6億円)だった。ここでは契約総額が2500万ドル(約26.3億円)以内だったので、総額の20%にあたる240万ドル(約2.5億円)がDeNAに支払われている。

 もし筒香選手が2500万ドルを超える契約を結んでいたなら、レイズはさらに高額契約解除料を支払うことになっていた。

 つまりチームはポスティング・システム利用の選手を獲得する場合、選手の年俸プラス契約解除料を含めて獲得資金として予算を用意することになるため、有原投手や西川選手と同程度の評価を受けているFA選手よりも、年俸が低く見積もられることになる。

 また契約期間が長くなればその分だけ契約総額も高くなるため、チームとして長期契約にも手を出しにくい面もあるのだ。

 有原投手、西川選手にとっては不運としか言いようがないが、MLBは誰も想像できなかった危機的状況の中でオフシーズンを迎えている。ポスティング・システムを利用してMLB移籍を目指すNPB選手にとって、通常のFA選手以上に先が見通せない状況になっていると言っていい。

 果たして両選手は、どんな決断を下すことになるのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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