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大谷翔平は二刀流と決別すべき時を迎えたのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今季2度目の登板後に右腕違和感でMRI検査を受けた大谷翔平選手(写真:代表撮影/USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【2度目の登板後に飛び込んできた衝撃ニュース】

 エンゼルスの大谷翔平選手が、大きなアクシデントに見舞われた。

 現地時間の8月2日、本拠地で行われたアストロズ戦で今シーズン2度目の登板に臨み、2回に5四球を与え2つの押し出しで2失点を許し、途中交代する結果に終わった。

 その投球内容以上に人々を驚嘆させたのが、試合後になって、大谷選手が右腕に違和感を訴えたためMRI検査を受けたという情報がもたらされたことだ。

 現時点では検査結果待ちという状態だが、MRI検査を受けたということは大谷選手の右腕に何らかの異常が起こったことは明らかだ。

 どんな結果が出たとしても、このままローテーションに残り投げ続けるのは考えにくい。投手としてしばらくの間はシャットダウン(投手としての活動を休止)される可能性が高く、短縮シーズンで行われている今シーズン中の復帰はかなり難しいと予想される。

【試合中に見られた明らかな球速減退】

 実は試合中から、気になる兆候が確認されていた。

 1回は強力アストロズ打線を3者凡退に抑えるとともに、球速も速球に関しては90マイル台中盤(150キロ台中盤)を計測するなど、上々の立ち上がりを見せていた。

 しかし2回に入ると、ワンアウトも奪えずに降板した前回の投球同様に、突如制球を乱し始めた。3四球で無死満塁になった後、2三振を奪い2アウトまでこぎ着けたが、そこからさらに2四球を与え押し出しで2失点され、交代が告げられた。

 この制球の乱れとは別に、途中から明らかに球威も落ち始め、最後の方は球速が80マイル台後半(140キロ台後半)にまで下がっていた。

【指揮官は「疲労によるものでは」】

 試合後に行われたマドン監督のオンライン会見でも、米メディアからその点を確認すべく質問が及び、指揮官は「前回より身体的に明らかに良くなっている」と評価して上で、以下のように答えている。

 「詳しくは分からないが、自分は疲労からくるものだと考えている。あの時点(無死満塁)で窮地を乗り切ろうと頑張って投球しようとしていたので、その影響があったのかと思う。いずれにせよミッキー(・キャラウェイ投手コーチ)と話し、原因を解明する必要があるだろう」

 マドン監督の発言からも明らかなように、この時点で彼は、大谷選手のMRI検査について知らされていなかったようだ。だがマドン監督も、球速減退をしっかり認識していた。

【難しくなった投手としての完全復活】

 繰り返しになるが、検査結果がでていない時点で大谷選手の今後について語るのは難しい。ただし今シーズンのうちに投手としてマウンドに立つのは、かなり厳しい状況になったことだけは間違いない。

 そもそも異常事態で迎えた今シーズンの環境下で、投手として復帰するのはかなりリスクがあった。トミージョン手術を受けてから十分な期間(約1年10ヶ月)が経過したとはいえ、結局紅白戦に3試合登板しただけでシーズンを迎えることになった。

 本来ならマイナーリーグで4、5試合のリハビリ登板を行い、徐々に強度を上げていくべきところなのに、模擬試合程度の登板を経ていきなり本番を迎えたのだ。ジョギングからいきなりダッシュに切り替えたようなもので、身体的負担は相当にあったはずだ。

 とにかく今は重症でないことを祈るしかない。

【二刀流継続を見直すべき時に】

 もちろん二刀流をしている上での負担もあっただろう。もし投手に専念していたら、復帰登板までのアプローチも違っていたはずだ。それだけ二刀流は調整においても難しいものなのだ。

 すでに二刀流を見直すべきとの声は、球界からも上がり始めている。ESPNのベテラン記者のティム・カージアン記者は不甲斐なかった復帰登板の後に、以下のように話している。

 「彼(大谷選手)が好調な時は、90マイル台後半(150キロ台後半)の速球とスプリットを投げていたが、前回の登板では球速はそこまで達していないし、スプリットも投げていない。改めてトミージョン手術からの復帰が簡単ではないことが理解できる。

 以前ジェイソン・モット(カージナルスなどで通算60セーブを記録するリリーフ投手)から話を聞いたことがあるが、(手術後)2年間は以前の感覚に戻ったが、3年後にはまた良くない状態に戻ったらしい。オオタニは国の期待を一身に受け、ポストシーズンを争うチームの主軸打者を任され、さらに主力投手として投げなければならない。やはり二刀流を続けることの困難さも理解しなくてはならない。

 投手としてケガをすれば、打者を続けながら投手としてリハビリを続けることは本当に大変なことだ。もしこのまま二刀流を続け、これまで通りにはいかないと感じた時点で、どちらか一方に絞る決断を下すべきだと思う」

 大谷選手と度々比較されるベーブ・ルース選手も、ヤンキースに移籍した25歳で打者中心にシフトしてからは、投手として登板したのはわずか5試合に留まっている。

 26歳になった大谷選手も、そろそろ決断すべき時を迎えているのかもしれない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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