ワクチン同時接種による医療事故に注意 実は接種方法が違う新型コロナワクチンとインフルエンザワクチン
あまり知られていませんが、新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンは、接種方法が異なります。同時接種するときに、われわれ医療従事者もしっかり確認しないと医療事故が起こる可能性があります。
すすめられる同時接種
単独で接種した場合と比較して、有効性や安全性が劣らないことから、新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンの同時接種が可能になっています(図1)。
同時接種しなければならないわけではなく、あくまで「間隔を空けなくても大丈夫」という意味です。2日空けて接種しても、1週間空けて接種しても問題ありません。これまでは13日以上の間隔を空けて接種するよう推奨されていましたが、これが撤廃されただけです。
これで両ワクチンの接種スケジュールが組みやすくなりました。しかし、それぞれのワクチンの予約経路が異なるためか、「結局同時接種できないじゃん」という自治体もチラホラあります。
新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンは接種方法が違う
国際的には、新型コロナワクチンもインフルエンザワクチンも筋肉注射で接種します。
しかしながら、日本では、新型コロナワクチンは筋肉注射、インフルエンザワクチンは皮下注射で接種します。ワクチンには色がついているわけではありませんから、現場では新型コロナワクチンであることを指さし確認してから筋肉注射、同様にインフルエンザワクチンであることを確認してから皮下注射という運用になります(図2)。
両ワクチンの注射方法が違うことから、医療事故が起こるリスクがあります。実は、これまでも新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンの誤接種は全国各地で発生しています。
■参考記事:なぜワクチンの誤接種が起こるのか? 原因と対策は(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20211121-00268846)
インフルエンザワクチンを筋肉注射しても医学的には問題ありませんが、新型コロナワクチンを皮下注射すると、期待されるほど抗体価が上がらなくなったり、皮膚の副反応が出やすくなったりするかもしれません。
日本ではその昔、一部の抗菌薬やステロイドなどを筋肉注射した後に大腿四頭筋短縮症が社会問題となった時代背景があります。これにより、ワクチンの皮下注射が常態化した歴史があります。
しかし、当時問題になったのはワクチンではありません。国際的には筋肉注射でワクチンが投与されているわけですから、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンや髄膜炎菌ワクチンなどを除き、不活化ワクチンを皮下注射し続けているのはやや時代遅れの気がします。
インフルエンザワクチンは筋肉注射へ切り替えを
複数のアンケート調査によると、インフルエンザワクチンの皮下注射と筋肉注射を比較すると、筋肉注射のほうで副反応が少なかったとされています(2,3)。また、皮下注射と筋肉注射ではワクチン接種後の抗体価にも差がないことが示されています(4)。
となると、わざわざ痛い皮下注射を選ぶ必要はありません。国際的な投与法である筋肉注射に統一すればよいと思います。
厚労省等からの通達がなければ、現場としてもインフルエンザワクチンを筋肉注射することが難しいので、検討いただきたいところです。
なお、インフルエンザワクチンを筋肉注射する行為は、推奨される用法外であるため、医薬品副作用被害救済制度の適用に障壁となる可能性があります。何とも歯がゆいですね。
まとめ
今年から新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンの同時接種がすすめられます。
医学的にはインフルエンザワクチンは筋肉注射が可能ですが、現時点のルールではそれぞれ注射法が異なるため、医療事故が起こらないよう各医療機関で注意が必要です。
(参考)
(1) 第33回 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会資料(URL:https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/uploads/6_18.pdf)
(2) 馬嶋健一郎, 他. 日本環境感染学会誌. 2021;36(1):44-52.
(3) Ikeno D, et al. Microbiol Immunol. 2010 Feb;54(2):81-8.
(4) Sanchez L, et al. Hum Vaccin Immunother. 2020 Apr 2;16(4):858-866.