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新型コロナだけではない?! 有原航平の契約から垣間見られる日本人先発投手の評価低下

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ポスティングを利用した選手の中では過去最低の契約になった有原航平投手(筆者撮影)

【第1号は有原投手がレンジャーズ入り】

 今オフはNPBから菅野智之投手、有原航平投手、澤村拓一投手、西川遥輝選手の4選手がMLB入りを模索している。

 澤村投手以外の3人は、すべてポスティング・システムを利用しており、交渉期間が30日に限られている中、3人の中で真っ先にポスティング申請をしていた有原航平投手がレンジャーズと合意に達し、念願のMLB入りを果たしている。

 残る菅野投手、西川選手も交渉期間が迫っており、近日中に大勢が判明することになる。果たしてFA移籍を目指す澤村投手を含め、選手が有原投手に続くことができるのか、注目されるところだ。

 ただ今オフは新型コロナウイルスの影響をもろに受けたMLB各チームが選手補強に慎重な姿勢をみせており、決して楽観できる状況ではない。

【契約内容は年数、金額ともに過去最低】

 MLBが新型コロナウイルスの影響を受けていることは、有原投手の契約内容からも窺い知れることができる。

 MLB公式サイトなどで報じられたところでは、契約内容は50万ドルのインセンティブが含まれているようだが、保証された基本給は2年620万ドル(2012年が260万ドル、2022年が360万ドル)というものだ。

 そこで別表を見てほしい。

(筆者作成)
(筆者作成)

 これまでポスティング・システムを利用してMLB入りを果たした日本人投手の中で、有原投手同様にNPBで先発として活躍してきた投手たちを比較したものだ。有原投手の契約内容は年数、金額ともに過去最低になっているのが分かるだろう。

 契約内容はインセンティブを含まない基本給のみを表示しているが、契約総額が1000万ドルを切ったのは有原投手が初めてだ。また平均年俸額でも、これまで最低だった前田投手をわずかに下回っている。

 ちなみに大谷翔平選手も同じポスティング・システムを利用してMLB入りしているが、彼の場合は現行の統一労働協約により、マイナー契約しか結べなかったという事情があるので、今回は省略している。

【28歳の有原投手に2年契約は短い?】

 確かに他の投手と比較すると、有原投手のNPBでの成績がやや下回っている。だが有原投手以外はすべて高卒選手ばかりなので、差が生じるのは仕方がない。実績そのものは、大きな遜色はないと考えていいはずだ。

 そうした事情を考慮すると、28歳の有原投手に2年契約しか保証しなかったのは、過去の例と照らし合わせても明らかに短い。

 繰り返しになるが、今オフは新型コロナウイルスの影響を受けている。また現在も米国内で新型コロナウイルスの感染が拡大しており、米メディアはMLBが2021年シーズンも短縮シーズンで実施することを模索していると報じているほど、不透明な要素が多いのは確かだ。

 だが新型コロナウイルスは必ず終息に向かい、MLBもいつかは通常を取り戻すことになる。将来を見据えれば、どのチームも長期にわたり先発陣を支えられる投手を確保したいところだ。しかも前田投手のように基本給を抑えて長期契約を結べることになれば、様々な点でチームに多大な利益をもたらすことになる。

 それが2年契約に留まっているということは、新型コロナウイルスの影響だけでなく、有原投手自体があまり評価されていなかったと考えるしかなくなってくる。

【注目される菅野投手の契約内容】

 そこでもう一度、表の投手たちに注目して欲しい。

 これまでポスティング・システムを利用してMLB入りしてきた日本人先発投手の中で、井川慶投手と菊池雄星投手以外は、基本的に移籍1年目からチームの期待通りの活躍をみせている。多少の差はあると思うが、すぐにMLBの環境に順応できていたことを示している。

 井川投手は移籍1年目からマイナーに回り、2年目以降はほぼマイナー生活を強いられ、菊池投手はこの2年間、MLBで投げ続けながら期待通りの投球ができていない。

 MLBでの日本人投手の評価は一定ではなく、これまでも浮き沈みを繰り返している。その基準になっているのがMLB入りしてきた先人の選手たちだ。彼らが活躍すれば評価が上がり、彼らが低迷すれば評価も下がってしまう。

 井川投手の場合ポスティング申請したのが2006年で、後に続いたダルビッシュ有投手、田中将大投手とは年月が離れ、しかも2人とも当時のNPB最強の投手だった。井川投手の影響を受けることもなく、彼らは当時としても大型契約を結び、契約通りの活躍をみせている。

 だが有原投手は、ダルビッシュ投手や田中投手のような突出した存在ではない。彼のMLBでの活躍を予測する上で、どうしても直近でポスティング・システムを利用してMLB入りした、菊池投手が比較対象になってくる。

 しかも菊池投手と有原投手は、現在NPBで主流になっている中6日登板で活躍してきた投手で、彼らの年間最多登板数は菊池投手が26試合、有原投手が25試合に留まっている。中4、5日で投げるMLBへの適応を考えると、菊池投手の現状を見てしまうと、長期契約に二の足を踏んでしまうのは仕方がないのかもしれない。

 有原投手の契約だけを見て、日本人先発投手の評価が落ちていると断じるのは危険だろう。まずはMLBでも有原投手よりも評価が高く、年間最多登板数が28試合と、ダルビッシュ投手や田中投手と変わらない菅野投手が、どんな契約で合意できるのかを見守るべきだと思う。

 ただポスティング・システム利用者として初めて30歳以上の選手だということを考えると、過去のような長期大型契約は難しいのかもしれない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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