希少なお茶が楽しめる表参道の日本茶専門店「伍」五感で癒される大人のお茶時間
タスクに追われるあわただしい毎日。
どこか静かな場所でほっとひと息つきたい。
そんな時に訪れたい隠れ家的な日本茶専門店が表参道にあります。
たった5席のお店はお茶室のようにお茶の香りがふわっと漂う。
本当は秘密にしておきたいお店ですが、いろいろなものを抱えて奔走する人の癒しの時間になれば、と師走のこの時期にご紹介します。
表参道の喧騒から一本入るとそこは…
人が行きかう表参道の交差点。
そこから一本入った静かな露地をまっすぐ行くと、ひっそりとたたずむ白い壁の建物が見えてきます。
うっかりすると通り過ぎそうになるくらいの佇まい。
扉にかかる「伍(いつ)」の字が目印です。
「伍」さんを知ったのは、先日取材で訪れた日本茶のイベント会場。
お茶を選ぶ人の中に独特のオーラを放つ方を見つけ、思わず「何者ですか?」と声をかけたのがきっかけです。
突然のことに驚かれたようでしたが(いきなりですみません)、表参道でお茶のお店をしていてこの日は日本茶のセミナーを受けに来られたとのこと。
お店について詳しく聞いていると、なんとなく既視感が。
そのお店、テレビに出られていませんでしたか?と尋ねると、以前に日本茶特集の番組で紹介されたとのこと(それ、見てました!)。
その後、ぜひお店に伺いたいと改めてご連絡したのでした。
茶室のような落ち着いた「伍」の店内
お店を訪れ、扉を開けて靴を脱ぎ少し急な階段を上っていくと、カウンターに5席のみの素敵な空間が。
店主の玉井さんが静かに、そしてにこやかに出迎えてくれます。
カウンターの奥には茶釜が据えられ、ゆったりとした時間が流れています。
メニューを開くとたくさんの種類のお茶が。
産地や品種から選べる煎茶、玉露、抹茶、そして香りに特徴のある萎凋(いちょう)茶や和紅茶、ブレンド茶などもあります。
店主の玉井さんが生産者の元を訪れるなどしてリサーチする中で「これは!」と思うものを実際に淹れてみて吟味し、季節に合わせたメニューを提案しているのだそう(2,3ヵ月でメニューを変えているそうです)。
そんな厳選された茶葉の特徴を最大限に活かすのが、玉井さんがセレクトする作家物の器。
美しいデザインであることとおいしくお茶がいれられる実用性、つまり「用と美」を兼ね備えた器なのです。
見ても美しく、実際に器にも触れ、お茶の香りにも癒される時間。
初めてでも楽しめる日本茶の数々
玉井さんに茶葉をどうやってセレクトしているのか伺ってみました。
初めて日本茶に触れる人にもおいしさや特徴がわかりやすく、日本茶に詳しい人でも楽しめるものを季節に合わせて選んでいるそう。
たくさんのメニューにどれにしようか迷いますが、2人から3人なら「比較」コースにすると2種類の茶葉を選ぶことができ、それぞれ三煎目くらいまで楽しめるとのこと。
友人と2人だったので「比較」コースにし、「カストル」と「C8H9NO2」を選択。
見慣れぬ名前にわくわくしながらお茶がはいるのを待ちます。
「カストル」銀木犀(ぎんもくせい)と金萱(きんせん)
カストルはふたご座の1つの恒星の名前。
同じくふたご座の対となる星ポルックスより光が弱いそうで、ポルックスが金木犀(きんもくせい)ならカストルは銀木犀というお洒落な意味合いのネーミング。
このようにころころした形状の金萱(きんせん)という半発酵茶の茶葉に銀木犀の花がブレンドされています。
銀木犀は珍しく、香りは金木犀に比べると淡くほのかな香りなのだそう。
こちらはマットな質感の木下和美さん作の器での提供。
黄金色のお茶の色が心も軽くしてくれます。
ほのかな甘いお花の香りと、優しい口当たりのミルキーなお茶の香り。
「癒し×おいしい」そんなイメージのお茶です。
秋ということで、色づいた葉を茶托代わりにあしらうセンスの良さ。
おもてなしってこういうことですね。
萎凋茶「C8H9NO2」アントラニル酸メチル
メニューになぜ化学式?と気になった私たち。
玉井さんに伺うと、香りの成分であるアントラニル酸メチルの化学式で、この萎凋茶に多く含まれるそう。
インド由来の品種で香気に特徴のある「静印雑131」を使った萎凋茶とのこと。
※萎凋茶とは、生のお茶の葉をしおれさせる(萎凋する)ことにより花や柑橘のような香りが生成され、それを加工した茶葉のことです。
こちらはガラス作家の田村悠さんの耐熱ガラスの急須での提供です。
ギャラリーで作品を鑑賞しているような至福のひととき。
温めた茶器に茶葉を入れ、蓋を開けた時のふわっと漂う香りも楽しませてくれます。これがまた癒しに。
フルーティーな香りが優しく、青さの中に香ばしさとふくよかさのある萎凋茶。
少しずつ湯温を上げて三煎目までしっかり楽しめます。
こちらのペースを見て、二煎目、三煎目まで丁寧に淹れてくださるのがまた心地よい時間となっています。
玉露「きらり31」
お隣の席の方に「ここの玉露は格別!」とおすすめいただき、それならばぜひと追加でもう1種類注文することにしました。
福岡八女産の「きらり31」の玉露は私もまだ飲んだことがない珍しいもの。
近年登録された品種「きらり31」は煎茶などでは時々見かけるようになりましたが、玉露はまだまだ希少なのだとか。
酒器の片口で玉露を淹れます。斬新ですね!
兵庫県の作家、光藤佐(みつふじたすく)さんの作品でとても大きく平たい器なのですが、玉露の茶葉を贅沢に9グラムも使うためお湯がまんべんなく茶葉に行き渡るようにこの形の器を採用しているのだそう。
一煎目を一口飲んでみると、強すぎずさらっとしたうま味に口の中で広がる余韻。
とても飲みやすくすうっと入ってくるイメージの玉露です。
まろやかな甘い香りにさわやかさがプラスされた上品な味。
これなら玉露がちょっと苦手な方でも飲めるのではと思います。
三煎目の玉露はしっかりとした緑色でさわやかな苦渋味が気分をすっきりとさせてくれます。
玉露の茶殻も塩でいただけます。
これがまたおいしいのです。大人の味。
和菓子などのお茶請け
和菓子などのお茶請けにも玉井さんのセンスが光ります。
この日は青山の菊家さんの和菓子。
私は栗大福を、友人は黄身しぐれをチョイス。
お茶の煎を重ねた頃合いを見てお菓子を出してくださいます。
「比較」などのコースには季節の水菓子(果物)も。
タイミングよく出してくださるのがまた嬉しい。
お店を始めたきっかけ
元々は花屋さんで働いていたという玉井さん。
華道や茶道の日本文化の経験を経て、2018年に日本茶専門店を開業。
「伍」という店名は、「人」が「五」人はいれるお店で、「ご」といえば「ご縁」「五感」ともつながる、という意味で名付けられたのだそう。
まさにそれを感じるお店でした。
木のぬくもりを感じる店内、落ち着いた照明とさりげなく飾られたお花。
友人と一緒に訪れるもよし、一人でほっとひと息つくもよし、静かな時間が流れていきます。
玉井さんがお茶をいれる丁寧な所作は武者小路千家の茶道の経験者ならでは。
釜のお湯が沸く音、柄杓からお湯が注がれる音。
抹茶を点てる音、ふわっと漂う抹茶の香り。
これは、この感覚は、まさにお茶室。
五感が研ぎ澄まされるような感覚を覚えます。
お茶の香りと味に集中しつつ、ほっと癒されるひととき。
こういう時間、大切ですね。
12月からお茶とお酒も
冬至のイベントとして、12月21日から23日までの3日間、18:00〜21:00はお茶だけではなくお酒のメニューの提供もあるのだそう。
和紅茶×ブランデーなど、興味深いメニューが予定されているそうですよ。
詳しくは「裏伍」のインスタグラム(外部サイト)をチェックしてみてくださいね。
エピローグ
ついつい長居したくなる居心地の良さ。
玉井さんの美意識と味覚のセンスが感じられる店内。
ゆるやかでほっとする雰囲気は玉井さんのおもてなしの心がそこかしこにあらわれているからなのでしょう。
お店を出るともう薄暗くなっていて、非日常の空間から出て我に返り。
そして雑踏の中へ。また日常に戻っていく。
また、頑張ろう。そしてまたここに来よう。
と気持ちを新たに一歩前に踏み出すのでした。
【伍】
東京都港区南青山3-14-4 2F
(表参道駅A4出口から徒歩4分)
【営業時間】
・12:00〜19:00(ほぼ)
・月に数回、お酒のご提供のある金・土は21:00(ほぼ)まで
→裏伍のInstagram参照
【店休】
・月曜定休
臨時休業などは下記Instagramで都度ご確認ください
【Instagram】
・伍(日本茶)
https://www.instagram.com/itsu.omotesando/
・裏伍(お茶とお酒)
https://www.instagram.com/ura.itsu/
※ご予約・お問い合わせ等はInstagramのDMにて
2024年7月に更新した情報です