若き茶人が発信する茶道の魅力!国内外のセレブにも茶道を紹介する岡田宗凱さんの「茶事」へ
「茶道には興味はあるけど、なんだか敷居が高くて…」
「昔少し習ってたんだけど、もう忘れてしまって…」
そんな話をよく耳にします。
確かに、伝統とか格式とか、家元制度とか…敷居が高く感じてしまうのも否めません。
でもこの楽しさや魅力を知ると、世界がちょっと違って見えてくるのではないかと思うのです。
先日、茶道表千家講師である若き茶人、岡田宗凱(そうがい)さんの「茶事(ちゃじ)」にお招きいただき、お話を伺ってきました。
宗凱さんは国内外のセレブの方々にも茶道を紹介したり、気負わず茶道に触れられるお茶会も多数開催されています。
さて、どんな世界が広がっているのでしょう!
「茶事」への誘い
茶道が花嫁修業の一つだったのは、ひと昔もふた昔も前の話。
今は男性も教養と精神性を身につけようと、茶道の門を叩く人も多からずいます。
そもそも昔は茶道は武家のたしなみの一つであり、男性中心の文化でした。
その精神性は海外でも注目されており、今では外国人茶道家も世界中で活躍しています。
しかし日本国内では茶道は敷居が高いと思う方も多く、その魅力を伝える場が少ないな…と思っていた折、ある方のご紹介で若き茶人である岡田宗凱(そうがい)さんにお目にかかることができました。
「世界茶会」を主宰し国内外でご活躍されている宗凱さんが開く日本文化の総合芸術とも言われる茶道への扉。
伝統と革新の謎解きを楽しむ茶事を体験してきました!
「茶事」とは?
茶道をたしなむ者からすると、茶道の集大成ともいえる「茶事」は特別な会。
茶道のゴールは「茶事を開くこと」とも言われ、お客様をもてなすことに全ての学びを総動員して全身全霊でお客様をお迎えする。そんなイメージがあります。
茶事とお茶会は違います。
「お茶会」は茶事の一部分を切り取ったものです。
亭主、つまりホスト役のお点前を拝見しつつ和菓子と抹茶をいただき、掛け軸や茶花、お道具を拝見するのがお茶会です。
茶事というのは、釜の湯を沸かすための炭を組む(炉の中に火がおこるように作法通りに炭を置く)炭点前から始まり、茶懐石、主菓子をいただきます。
その後、茶事のメインとなる濃茶(こいちゃ)、そして干菓子をいただいた後、最後に薄茶(うすちゃ)をいただきます。
※泡が立った抹茶は薄茶です。濃茶は水分量は少なくとろみのあるペースト状。
亭主側は茶事のテーマを決め、それに合う道具を揃え、趣向をこらした席を設けます。
濃茶はフォーマル、薄茶はカジュアルに楽しみます。
お茶会が一席約40分なのに対し、茶事は3,4時間かかります。
茶事はマナーもいろいろとあるため、参加する側としてもお茶会より敷居が高く感じられるもの…。
しかし、宗凱さんはそれをひらりと飛び越えた伝統と革新の楽しみを気軽に体験できる茶事を毎月季節に応じたテーマで開いています。
全ては「茶事」から始まる
宗凱さん曰く、
とのこと。
これは目から鱗でした。
「木を見て森を見ず」ではなく、先に全体像の「森(集大成である茶事)」を見てから、細部である「木(日々のお稽古)」を一つ一つ理解して身につけていく。
つまり、今自分がどこにいるのか立ち位置が分かったうえで、お稽古をすると「今何をやっているのか、何のためにやっているのかがわかる」ということです。
ただ闇雲にお稽古をしたとしても、目標がわからないままなんとなく月日だけが過ぎてしまいます。
これは茶道だけでなく、ビジネスや日常生活にも言えること。
私も師である茶道の先生から、「日常がお稽古。日常の中に茶道の心がある」と教わってきました。
これからは何事にも明確な目標をしっかり持って精進せねば!と胸に刻んだ次第です。
茶事は茶人による「謎解き」を楽しむエンターテインメント
茶事では掛け軸の禅語や画、茶道具の鑑賞、茶花など亭主からの謎かけのようなテーマを読み取り、亭主との心の対話を楽しみます。
「謎解き」しつつ、その場の全員でその想いを共有するのが醍醐味なのです。
今回の茶事はどんなストーリーが広がっているのか、ワクワクしながら訪問しました。
清められた「露地」
門を入ったところから、もう茶事は始まっています。
きれいに掃き清められ打ち水された露地(ろじ)を歩く際には、心も清らかになるように感じます。
堅苦しいと思われる茶道ですが、一番大切なのは亭主の「おもてなしの心」とそれを受け取る客とのコミュニケーションだと思います。
誰しもこの露地をゆっくり進むと、何か感じ取れるものがあるのではないでしょうか。
待合(まちあい)には温かく過ごせるように火鉢が置かれ、白湯をご準備くださっています。
白湯をいただきながらふと見ると、掛物(かけもの)が。
普段なら禅語や画が掛けられることが多いので、こちらも禅語かしら…?と読もうとするとどうも読めない。
あれ?この黄色は…どこかで見たような!
ピカチュウ!!
驚きと興奮につい声をあげてしまいます。
今日の茶事のテーマに何か関係があるのかも?と同席の方々とも笑顔で話し、待つ時間も楽しめます。
席入り後は炭点前と茶懐石を楽しむ
席入りし、床の間を拝見。
師走になるとよく掛けられる禅語「看々臘月尽(みよみよ ろうげつ つく)」が。
「一年を振り返るということですがこれまでの人生も振り返る、師走の静かな時間をすごすこの時期にふさわしいものです」との宗凱さんの解説をうかがいながら自らを省みる時間となりました。
深い…。
炭点前が始まり、利休七則という千利休の教えである「炭は湯のわくように」炭を組んでいく様子を静かに拝見します。
下火から新しく組まれた炭に火が付くと、パチっと炭がはぜる音、そして少しずつ湯が沸き松風とよばれるしゅんしゅんと湧く音が静けさの中に響きます。
お茶室の中だけの研ぎ澄まされた空間と時間を五感で感じるひととき。
自然と厳かな気持ちになります。
炭点前の後、茶懐石が運ばれてきます。
茶懐石は会席料理とは異なり、おいしくお茶を飲むための準備の一つ。
お腹いっぱいにするためではなく、ほどよく満たされる状態にするため、料理の味付けはシンプルで薄味、量は少な目です。
お椀の手触りと口当たりがしっとりなめらかでお料理の味や香り温かさも感じられます。
もしや?と思い宗凱さんに伺うと輪島塗のお椀をご使用とのこと。
伝統工芸品も美術館などで見るだけではなく、やはり使ってこそ良さが実感できるものだと思いました。
こうして凝縮された日本文化の魅力を五感で楽しめる茶事っていいなぁ。
煮物椀の後には焼物、小吸物椀、八寸と続きます。
湯斗(ゆとう)と呼ばれるご飯のおこげを入れたお湯と香の物が出た後には、主菓子が運ばれる。
ここで、一度「中立ち」といい待合へ出て休憩し、音での合図でまた茶室に入ります。
メインの「濃茶(こいちゃ)」をいただく
無事にお湯も沸き、ここでようやく抹茶をいただく準備ができました。
茶事のメインは濃茶をいただくこと。
ここまでの懐石料理などはプロローグです。
濃茶のお点前が厳かな雰囲気の中、静かに始まります。
静寂の中でお湯の沸く音、お湯を注ぐ音、茶筅で濃茶を練る音、濃茶の香りを楽しみます。
自然光の中、お点前を拝見していると、湯気の美しさに心奪われます。
こんなに湯気って美しいんだ…全てに有難い気持ちを感じつつ待つ時間を楽しんでいる自分自身に気づきます。
きびきびと美しい所作を拝見しつつ、ゆっくりと流れる時間を茶室の中で過ごす。
普段は何かに追われているような忙しさ、慌ただしさでも、日常から少しだけ離れて心静かに落ち着く時間。
今こそ必要なものではないでしょうか。
最後に薄茶を
濃茶をいただいた後は、干菓子と薄茶をいただきます。
薄茶になると少しカジュアルな雰囲気になり、亭主も客もリラックスして楽しみます。
ここにくるとそろそろエンディングに近づいてきた気持ちになり、一期一会の大切なこの時間を皆で味わい尽くそうという気持ちになります。
薄茶というのは普段だれもが想像する抹茶で、濃茶に比べて薄く泡のあるものです。
お点前を拝見しながら心を込めて点てられたお茶をゆっくり味わいます。
ちなみに薄茶で用いたこちらの3つのお茶碗は亭主である宗凱さんがそれぞれ違う窯元で自ら作られたもの。
どれも味わいのある面白い形のお茶碗ですが、唯一無二のもので客をもてなす茶人の心が表れています。
テーマを決め、道具を選び、全ての準備から片付けまでも含めての究極のおもてなし。
それが茶事なのです。
ほどよい緊張感の中に見え隠れする遊び心
さて、最初に待合で見たピカチュウの掛物。
現在、東京の麻布台ヒルズギャラリーで開催中の「ポケモン工芸」が以前金沢の国立工芸館で開催されていた際、ディスプレイとして使われていたものを譲り受け掛物にしたのだそう。
ピカチュウ、つまり、光。
クリスマスの星の光。イルミネーションの輝き。ろうそくの灯り。
一年を振り返って「光陰矢の如し」の光。
いろいろな意味を持つ光が今回の茶事のテーマの一つだったようです。
茶道具の中にもキラキラ光るクリスマスのオーナメントを思わせるプラチナと金箔の茶入れを使用していたりと、遊び心を感じました。
光と陰。間接的に入る自然光の中で赤々と見える炭の炎。
茶室は薄暗く、そのためか余計に感性が刺激されます。
陰があるから光や炎がはっきりと見えるのだなぁと茶室の中でお点前を眺めながらしみじみと感じ、静かに自問自答しながらたくさんの気づきを得ることができました。
緊張と緩和、集中とリラックス。
お茶室の中ではそのような様々な空気感が感じられます。
とても貴重な時間を過ごさせていただきました。
茶事での「和」とは
茶事では茶を中心に、おもてなしの精神と客と亭主の対話、お互いに敬い合い「和」「調和」「一体感」を大切にしています。
たとえ初対面であっても、温かい交流が自然と行われる茶室の不思議。
お茶室に入るとみな平等で上下関係ではなく、平らな関係で過ごすことができます。
まさに茶道で大切にしている「和敬清寂」の精神そのもの。
お茶を中心とした和みの輪。
静かで落ち着いた時間がゆっくりと流れています。
日々、スマホやSNSに追われ、休む暇もない日常ですが、外の世界から隔離された茶室という空間で、ただひたすら「お茶をいただく」というゴールに向けて、そこにいる者同士が調和しあい一体感を持って過ごす時間。
こういう時間が持てることが真の贅沢なのではと感じます。
初めての方にも茶事や茶会を通して茶道の魅力を伝える
ブログで茶事やお茶会のマナーを紹介したり、初心者の方にもわかりやすく茶道の魅力を伝えている宗凱さん。
高校時代に茶道に出会い、「将来、世界で活躍したいのなら、茶道のひとつもやっておきなさい」という師匠の言葉がきっかけで始め、今は定期的なお稽古の他に、月に一度初心者のための「茶会ワークショップ」を開催されています。
これまで海外でもお茶会を多数開催していらっしゃり、12月には英語でクリスマス茶会も開催されるそう。
また、Zoomでの「茶の湯一年生」という座学の講座では、初心者のために茶道の魅力をとてもわかりやすく丁寧に伝えています。
私も常日頃から感じている「お茶はもっと自由でいい!でも伝統的なものは大切に」という心にとても共感しました。
若い世代からも支持の厚い宗凱さんのお茶会、興味がある方はぜひ参加してみてください。
非日常にほんの少し没入するだけで、日常がキラリと輝いて見えるかもしれませんよ。
取材協力:岡田宗凱氏(表千家講師)
【岡田宗凱氏 プロフィール】
世界茶会 主宰/表千家 講師
1982年東京都生まれ。茶道との出会いは高校の部活。
表千家の先生から「将来、世界で活躍したいのなら、茶道のひとつもやっておきなさい」のひと言で入部を決める。
以後、学生、社会人となっても稽古を続け、2002年にNYコロンビア大学にて、初めての海外茶会。その後、フランス、ポーランド、チェコでも茶会をし、2007年からは初心者向けの体験ワークショップを毎月、品川で開催。
2011年には著書『茶道美人』を出版。現在も国内外の茶会の他、メディアにも多数出演。また、海外のビッグアーティストや国賓の方へお茶をお出しするなど、活動の幅を広げている。
著書『『茶道美人』』(新人物往来社)
「世界茶会」ホームページ(外部サイト)
ブログ「CHAKAI日記」(外部サイト)
岡田宗凱氏Instagram(外部サイト)