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英建設業、人手不足深刻 -ポルトガルから高額雇用も

小林恭子ジャーナリスト

英国で熟練の建設作業員の不足状態が続いている。人材派遣会社マンパワー社による約2000社を対象とした最近の調査によると、大手建設業者は雇用不足を補うために破格の賃金を提供したり、国外から人材を採用している。ロンドンの大手建設業者のうちで3社に1社が熟練作業員を確保できないために、工事の受注をあきらめているというから深刻だ。

英国の通りを歩くと、茶色のレンガ造りの家や建物が多い。レンガと英国の建設業は切っても切れない関係だ。ところがこのレンガ作りを担当する作業員が足りないのだという。通常、レンガ職人の賃金は週給500ポンド(約9万2000円)が相場だ。しかし、最近は週給1000ポンドまで払う必要があり、しかもポルトガルなど欧州連合(EU)内の他国から人を見つけざるを得なくなっている。

2014年は新規雇用が過去40年来最高の水準で増加しており、今年もこれが続く見込みだ。特に投資が大きく期待できるのがエネルギー業界だ。ロンドンのほかにはイングランド地方北東部での雇用増が見込まれているが、この地域は主として顧客サービス部門での大型雇用が期待されている。

イングランド北東部といえば、従来、ロンドンを含む南部が好況を享受する一方で、足を引っ張る存在と見られてきた。しかし、事情は変わったようだ。「顧客サービス部門が拡大することで、北東部に楽観主義が広がっている。大手企業の大型雇用が鍵を握っている」(マンパワー社幹部)。

地域・地方政府省は、建設業界の雇用需要の増大は政府の住宅建設支援政策が功を奏したと現状を分析する。2013年では23万件の新規住宅建築用の許可が下りており、住宅建設着工数も2014年は過去7年で最高となったという。

雇用需要の増大や建設業の好況は良いニュースには違いないが、国外から高額で作業員を雇用することで、住宅価格そのものや物価がますます上がってしまう可能性がある。

英国では住宅は「城」に例えられる。自分の城を持ってはじめて、一人前。多くの人が自分の家を持ちたがる。しかし、住宅価格がますます上がれば、ますます家を持つ夢は「遠い夢」になってしまうのである。

(「週刊エコノミスト」ワールド・ウオッチコラムの筆者担当分に補足しました。)

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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