企業の賞味期限表示を改善した!食品シェアアプリの元祖 ヒュッゲの国デンマークのTooGoodToGo
飲食店などの閉店間際、まだ売れていないものを、定価よりも安くして、スマートフォンのアプリケーションを通して消費者が購入できるシステムがある。日本でも、TABETE(タベテ)やReduce GO(リデュース・ゴー)をはじめとして、多くのアプリが開発され、登場している。
その草分け的存在が、デンマークのToo Good To Go(トゥー・グッド・トゥー・ゴー)だ。日本語に訳すと「捨てるには良すぎる」だろうか。2012年、ドイツの国民運動でも、キャッチコピーとして(ドイツ語で)使われたことがあった。
デンマークは、国連の世界幸福度ランキングの最新ランキングでは2位。これまでに何度も1位を取っている国だ(2012、2013、2016)。SDGsの最新の世界ランキングでも1位になった。
デンマーク・コペンハーゲンにあるToo Good To Goのオフィスを取材した。
世界12カ国へ広がり、3年半で1600万食の食品ロスを削減
デンマークで精力的に食品ロスを減らす活動をしているセリーナ・ユール(Selina Juul)が、Too Good To Goのマーケティング責任者のニコライン(Nicoline Koch Rasmussen)を紹介してくれた。ニコラインとターニャ(Tanja Andersen)が取材に応じてくれた。
ーはじめまして。
Nicoline Koch Rasmussen(以下、ニコライン)とTanja Andersen(以下、ターニャ):はじめまして。よろしくお願いします。
ーこれまでどれくらいの食品ロスを減らしたのでしょうか?
ターニャ:約1,600万食(16,863,176食)です。
ーこれは、いつから今日までの累計でしょうか?
ニコライン:私たちが創業したのは、2016年の1月です。創業してから今日(2019年7月10日)まで、3年半の合計です。
ー今、何カ国に広がっていますか?
ターニャ:12カ国を対象としています。最近では、ポーランドも加わりました。
対象レストランが消費者宅の近くにあることが重要 それを確認してからサービスを開始する
ターニャ:消費者のそばに対象レストランがあるのは重要です。ポーランドで立ち上げる前に、レストランと話し合いしました。なぜなら、アプリを使った人が、近くに全然レストランがなくて行くまでに時間がかかる・・・となると、Too Good To Goから離れてしまうからです。
Too Good To Goは、オーストリア・ベルギー・デンマーク・フランス・ドイツ・イタリア・ノルウェー・ポーランド・スペイン・スイス・オランダ・イギリスの合計12カ国で展開している。
ーその12カ国は、全部同じブランド名ですか?「Too Good To Go」という名前?
ニコライン:はい、そうです。12カ国、全部同じブランド名。私たちは、短期間に、さまざまな地域へこのサービスを拡大していきました。それは私たちの戦略です。1カ所だけで食品ロスが発生しているわけではない。他の国でも起こっている現象だからです。
ー日本では、Too Good To Goを参考に「TABETE」というアプリが開発されたんですが、ご存じですか?
ニコライン・ターニャ:知らなかったです。
スタートは5人の男性だった
Too Good To Goは、イギリス人のJamie Crummie氏やChris Wilson氏がデンマークで始めたと聞いている。
ー日本ではレストランを対象にしたサービスが多いんですが、デンマークでは加工食品も対象にしているんですね。創業してからの簡単な歴史を教えていただけますか?
ニコライン:ビュッフェ式のレストランで、5人の若者が食事をしていました。何の問題もないご飯が捨てられていくというのを見たときに、このToo Good To Goを立ち上げよう、と発案したわけです。
そのレストランに「毎日捨てられる食事に困っているのではないですか?私たちがなんとかして解決してあげます」と働きかけました。それと同じようなことを別のレストランにも持ちかけていったわけです。
支払いはお店の人がスマホを操作して完了
ー支払いはどんなふうにするのですか?
ニコライン:たとえば、これはお寿司屋さんの事例です。消費者としてアプリを開けると、いろいろなメニューが出てきます。クリックすると、詳細な説明が出てきます。アプリを通して申し込みます。お店でこの画面を見せます。お店の人がスワイプ(スマホ操作)するとレシートが出てきて支払い完了、という流れです。
チョコレートが着ている洋服(パッケージ)が古くて捨てられる
ー飲食店以外の加工食品としては、どんな食べ物が販売されるのですか?
ニコライン:たとえば、このマラブーのチョコレートでしたら、パッケージのブランド基準や戦略が変わって、新しいパッケージデザインになったというときに、これは古い基準のデザインであるがゆえに捨てられます。
2020年まで賞味期限があるのに。何の問題もないチョコレートでも、ただ「着ているお洋服が古い」ということで、捨てられるのです。
ラベルに書いてある醸造所長が変わったから販売できなくなったビール
ー他にもありますか?
ターニャ:このビールは、ラベルに書いてある醸造所長が変わったから売れなくなったものです。ビールのラベルの醸造所長の名前を見つける消費者なんて数%だと思うんですが・・・。ビール会社の醸造所長自身が「前の醸造所長の名前が載っている商品は全部捨ててしまいなさい!」と言って、廃棄される運命になってしまった商品なんです。何の問題もないビールなのに。
ターニャ:他にも、季節食品や、賞味期限が接近したものも、こちらに届きます。以前は、ここの店舗に来て購入しなければならなかったのですが、2019年2月にオンラインショップができてからは、送料を負担すればどこででも購入可能となりました。
協力企業は25,000社近くまで拡大
Too Good To Goは、すでに24,598社ものパートナー企業と連携している。
ニコライン:最初はレストランでしたが、今では協力会社を拡大して、カフェやスーパーマーケットも協力しています。たとえばスーパーでしたら「マジックボックス」と銘打って、野菜や果物、パンなど、袋詰めにして、種類は何かわからない詰め合わせにして安く提供しています。
セブン-イレブンからはサンドウィッチなども提供
ご存じの企業もあるかもしれませんが、私たちのパートナー企業の一部です。
ーセブン-イレブンも食品を提供しているのですね。どんなものを頂いているのですか?
ターニャ:サンドウィッチとか、食べ物のセットとか。私も自分で買ってみたことがあるんです。とても良かったです。飲み物や、チョコレート、ケーキなど、いろいろあります。たとえばパッケージに少しだけ問題があるけど食べ物そのものには問題がないようなもの。商品棚に、定価で置くには難しいものなどです。
ー日本のコンビニには、見切り販売するより捨てたほうが本部が儲かる「コンビニ会計」という仕組みがあります。デンマークではどうですか?
ニコライン:デンマークではそういうシステムじゃないと思うんですが、食品メーカーが、賞味期限が近づいている食品を安くして売ったら、税金を払わなくちゃならない。廃棄したら税金を払わなくてよいという法律があります。
商品によって取り分はまちまち
ーお店とToo Good To Goとの取り分の割合は?
ニコライン:たとえば、パン屋さんが29クローネで今日の売れ残りの袋詰めを売るとします。そのうち、20クローネぐらいはパン屋さんの取り分になります。Too Good To Goは、システムの維持費として9クローネ頂く、など。配分に関しては、契約によって違います。お店側のメリットとしては、以前は廃棄しなくてはならなかった食べ物でお金を稼げるようになる。これが画期的な点です。
飲食店の声
実際にToo Good To Goを使っている企業の声としては、次のようなものがある。
レストラン(日本食OZAKI)
閉店間際に、たくさん残った魚や野菜を捨てていた。だからこそ、完売するのはとても嬉しい。
カフェ
ぴったり売り切れる量を準備するのはとても難しい。Too Good To Goと連携することで、無駄な食品を出すのを防ぐことができる。
スーパーマーケット
Too Good To Goは、シンプルな考えでわかりやすく、日常生活に溶け込みやすい。顧客のみならず、従業員にとっても、よい経験になる。
ホテル
毎日50〜70食を販売。Too Good To Goを知り、すぐ参加を決めた。近隣の学生もビュッフェで余った朝食を受け取っている。
「賞味期限が過ぎても美味しく食べられる」表示 企業を動かした
ー賞味期限についてはどうでしょう。日本では、品質が切れる日付だと勘違いしている人が多くいます。
ニコライン:賞味期限については、私たちはちょっとおかしいと思うので、キャンペーンをやっています。2019年2月、「賞味期限と消費期限の書き方キャンペーン」というのをやったんです。
まずは、デンマークの食糧庁に確認をとって、表現についてお墨付きを頂いてから、ユニリーバのような企業に対し、提言をしました。賞味期限と書いてあるところの横に、「多くの場合、その後もおいしく食べられます」というような記述を並列するよう、働き掛けをしたんです。
最終的に15の食品メーカーと話し合いをしました。ユニリーバや(ビールの)カールスバーグ、オーガニックのブランド(食品・シャンプー・乳液などの化粧品)、アーラという酪農協会も、賞味期限と消費期限の書き方に配慮すると約束してくれました。次の生産からは、「賞味期限過ぎても美味しく食べられますよ」という文言を添えることになります。
2019年6月、ティーセという、小規模な農場のオーガニックの牛乳が、初めて掲載してくれました。牛乳パックの1面を使って。
このロゴやイラストも私たちが提供したんです。目で見て、においを嗅いで、味を確かめてみて、食べていいか、それともいけないかというのを判断しましょう、と書いたんです。
ニコライン:この「ベストファー(BEDST FOR)」というのが賞味期限です。賞味期限の表示を変えるとなるとEUの判断を待たなくてはいけません。賞味期限のところには何も書いてはいけないので、表示のそばに入れているんです。EUレベルで変えて欲しいという働き掛けも私たちはしています。ですが、それは何年もかかることなので、こういった解決法にしています。デンマークでこれを始めたんですが、その後、他の国でもこういったキャンペーンが始まっています。
賞味期限については、私たちはおかしいと思うので、キャンペーンをしています。それから、さっき申し上げたおかしな法律(捨てたら税金を払わないでいい)というのに関しても、規則を変えてもらう、正しい状態にしてもらうことも啓発していきたいと思っています。
ー私も賞味期限については、おかしいと思っています。
ニコライン:ある調査では、賞味期限を誤解している人が多いという結果があります。過ぎたらすぐに捨てなきゃと思う方がいらっしゃる。食糧省も、食品ロス・ストップの活動をしているセリーナさんも、啓発活動を行っています。
ニコライン:セリーナさんは、私たちのキャンペーンに参加して下さってもいます。
法律や決まり、人々の誤解、そういったものを変えないと、食品ロスというのはなくならないと思っています。
取材を終えて
筆者が食品メーカーの広報を辞めて、フードバンクの広報を務めている時から、社会活動の団体は、活動と並行して、社会をよりよく変えるような政策提言をすべきではないかと考えていた。
メーカーの社員は、自社の食品ロスのことしか知らない。でも、フードバンクの職員は、いわば日本の食品ロスの縮図を見ることができる。複数のメーカーのみならず、複数のスーパーやコンビニ、百貨店、災害備蓄品を提供する企業、農家、個人、などから、大量の食品が運ばれてくるのを、毎日、目にしている。それですら、一部分でしかない。何が要因か。加工食品の場合、寄贈理由の多くは「賞味期限接近」だ。
現場にいる人間は、目の前のことに忙殺されて、社会への発信が手薄になったり、政策提言まで手が回らなかったりする。でも、現場に居る人間でないと知り得ない情報がある。それを元に、社会をよりよく変えるための政策提言をしていくことも、活動団体の重要な役割ではないかと思う。
とは言え、言うは易し、行うは難し。
Too Good To Goが、活動と並行して社会を改革していることに感銘を受けた。彼女たちも、「美味しさの目安」に過ぎない賞味期限のために、販売することができなくなった食品が大量にあることを知り、賞味期限表示の働きかけを企業にしたのだと思う。社会の仕組みを動かす姿勢と意欲を見習いたい。
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注:デンマーク語で使われる文字が、仕様上、入力できないため、ベストファー(BEDST FOR)など、一部「O(オー)」などのアルファベットで代替表記しています。
謝辞
取材に際し、デンマーク語を日本語へ通訳して下さった、ウィンザー庸子氏と、団体の概要を調べて下さった本多将大氏に深く感謝申し上げます。