[社会人野球日本選手権]試合巧者のNTT東日本が8強へ。来季ドラフト候補の片山楽生が好救援
これを試合巧者というのだろうか。第47回日本選手権、第8日第1試合は、8安打のNTT東日本が12安打の王子を4対2で振り切った。走者を得点圏に進めた5イニングのうち、3イニングを得点に結びつけた。しかも先制のスクイズ以外は、いずれも2死からのタイムリーによる得点。対する王子は、6回の1死満塁を逃すなど8残塁で、NTT東日本の試合巧者ぶりが際だった。
今季、NTT東日本は継投策が基本で、この日のポイントは3対1とリードした6回の守り、1死満塁でリリーフに投入した片山楽生(らいく)の投球だろう。
亀山一平をストレートで空振り三振に取ると、続く代打・神鳥猛琉をショートフライに打ち取り、ピンチを脱した。片山は続く7回も、ストレートとカットボールを軸に力投し、2死一塁で堀誠にマウンドを譲ったが、打者5人を1安打に抑えた。
2021年の都市対抗、TDKとの2回戦。片山は、5回3分の1を1失点と好投し、当時の飯塚智広監督による「高卒ルーキーとしてはNTT史上初」の先発抜擢に応えた。6回1死から同点弾を浴びるまで、1安打無失点という「100点満点」(飯塚監督)の内容だった。
20年の春、白樺学園のエースとして出場するはずだった選抜高校野球大会が中止になった。プロ志望届を提出したがドラフトでの指名はなく、21年春にNTT東日本に入社。だが、
「体力、技術、経験……年齢にしても、ベテランの大竹(飛鳥)さんは僕の倍で、大卒の同期入社にしても4歳上。そういう投手陣ですから"食い込んでやる"どころではありません。土俵の上にいる先輩たちを仰ぎ見ていた」
というほど、レベル差に愕然とした。それはそうだ。高校2年だった19年秋は、北海道を制したものの公式戦の防御率は3.81。出場するはずだったセンバツ32校のエース中、下から数えたほうが早い数字で、高校生を打ち取るのにも四苦八苦だったのだ。だから、
「1年目から、まさか東京ドームで投げるなんて、思ってもみませんでした」
持って生まれた球質のよさがある
だが、名伯楽・安田武一コーチは「持って生まれた球質のよさ」を片山に見て取った(そういえば、『流しのブルペンキャッチャー』安倍昌彦さんも、高校時代の片山をそう絶賛していたっけ)。
二人三脚でフォーム改造に取り組むと、1年目の5月には、公式戦でリリーフ登板するほどの急成長を見せる。二大大会のひとつ・夏開催の日本選手権でも、準決勝の1回を零封し、球速は151キロに達した。都市対抗2次予選では四死球などから打ち込まれたが、その後も場数を踏み、先発の一角に浮上。それが、東京ドームでの好投につながっている。片山は、その大舞台を、
「こっちは高卒1年目、相手はエリート。いい意味で、打たれて当然です。高校では僕が打たれると負けにつながりましたが、社会人では後ろには尻を拭いてくれる先輩たちがいる。そう思うと気が楽になり、自分のピッチングができました」
と振り返る。
安田コーチがいう球質のよさは、本人によると、「ホップ成分が大きいんです」ということらしい。高卒間もないのに、読書が好きなせいか表現力が豊かだ。たとえば、「論理的な思考が好きなんです。同じフォーム、同じリリース、同じ力配分なら、メカニクスとしては同じ球が行くはずです。そういう再現性を高めるため、できるだけ実戦に近づけたフォームを意識したい」などと、理路整然だ。
まだ線が細いが「体の中の強さは変わってきています。強く、速いストレートをコーナーに投げきりたい」と迎えた今季。調子にばらつきがあり、登板機会になかなか恵まれない時期もあったが、8強のかかる大事な場面で結果を出した。
前日、試合を決定づけるホームランを放ったENEOS・度会隆輝は高卒の同期。
「ライバルというより、切磋琢磨する刺激を受けます。でも、負けていられません」
ENEOSとは今季の都市対抗、準決勝で激突した。2対3の敗戦。片山はリリーフで2回3分の2を投げ、1失点で負け投手になったが、度会との対戦は打ち取っている。
この大会でENEOSとの対戦があるとしたら、決勝。誕生日にして3日違い(度会は2002年10月4日、片山は7日)、そしてお互い来年のドラフト有力候補という同級生対決を見てみたい。