パリ同時多発テロ -欧州はどうなる?
13日夜、パリで発生した同時多発テロ。欧州は今後、どうなってゆくのだろうか。
英シンクタンク「チャタムハウス」のディレクター、ロビン・ニブレット氏が14日、コメントを発表している。タイトルは「パリへの攻撃は欧州にとって危険な時に発生した」である。
結論を先に紹介すると、今回のテロ後、欧州にやってくる難民・移民の流入を制限する大きな力が働くようになる。また、1月のシャルリ・エブド事件では表現の自由を守るというスローガンのために、欧州諸国は一致団結できたが、今回は国民の命を守るというもっと切羽詰まった課題に直面するため、足並みがそろわなくなる可能性があるという。
同氏は2001年9月11日の米国の大規模同時多発テロの際、ワシントンに滞在していたという。テロ直後、米国内では、アルカイダを捕まえてその息の根を止め、今後2度とあのような攻撃をできないようにしようという強い意志が生まれたという。
今回、パリのテロの後で、フランスや欧州連合(EU)の加盟国はテロを実行したとされる「イスラム国」(IS)に対し、一丸となって同様の討伐意欲を持てるだろうか、もし持てないようであったら、ほかの選択肢はあるのか、とニブレット氏は問いかける。
9・11テロの米国のように、パリのテロ事件の後、フランスの新聞やオランド仏大統領は事件を一種の戦争と捉えた。この流れで行けば、フランス軍によるシリアやイラクにいるISへの攻撃の手を緩めるわけにはいかない。
9・11テロの場合は、国際社会も米国がアルカイダの首謀者オサマ・ビンラディンを捕獲するためにアフガニスタンに武力侵攻することを支援した。
しかし、今回はどうか?ニブレット氏によれば、9.11米テロと11・13仏テロの間には2つの違いがあるという。
一つには、フランスもそしてほかの欧州諸国も軍事介入によるリスクを十分に認識するようになった点がある。2003年のイラク戦争の経験から、軍事介入には限界があることが分かってきた。介入はほとんど功を奏さないという人、あるいは自国自体が攻撃される可能性があると指摘する人も出ている。
アルカイダの場合、欧州に散在する「セル」集団はISの場合よりはるかに小さい。一方、シリアに行ってISの戦闘に参加し、トレーニングを受けて欧州に戻ってきた若者たちは域内にかなり存在している。ISに軍事行動を行えば、自国へのリスクが高くなるーーとなると、欧州政府の間で統一戦線をはることが難しくなってくる。
2つめの違いは、今回のテロは繁華街への攻撃によって市民を殺害するという典型的なテロで、その目的は欧州諸国から何らかの反撃を引き出すためであった、という点だ。欧州社会を分断し、新たなISシンパを増やすことを狙っている。
ニブレット氏は、今回のテロが欧州の状況が非常に困難な時に発生したと見る。先例がないほどの大量の難民が欧州諸国に押し寄せ、各国で混乱が生じている。失業率が高い国も多い。難民・移民問題に注目することで市民の支持を得ている政党にとっては、テロ事件が追い風となるかもしれない。3週間後には、フランスで地方選挙が行われ、これが一つの目安となりそうだ。
1月のシャルリ・エブド事件では欧州の各国政府は表現の自由を守るという点で一致団結した。
しかし、今回のテロは、もっと重要なことつまり、政府が国民を守ってくれるかどうか、自分たちの生活様式を十分に擁護してくれるのかどうかが問われている。
当面、欧州政府には中東やアフリカからやってくる難民・移民の流入を制限するように大きな圧力が働くだろう。こうした難民たちのほとんどが、13日でパリで発生したような暴力から、まさに逃げてきているのだけれども。
ギリシャにたどり着いた難民の一人が実行犯の一人だったという情報があり、難民の流入をテロリストの流入と重ね合わせる人も出てくるだろう。
難民危機を通じて、欧州の各国政府と国民との信頼感は揺らいでいる。
これからも同様のテロが起きる可能性がある中で、今後、EU域内の国の中で適用されいる「シェンゲン協定」(パスポートなしに行き来ができる)を維持していけるのかどうかが不透明になっている。
最後に、ニブレット氏は、EU加盟国がISの勢力拡大を許すシリアやイラクの紛争解決のために、これまで以上の力を傾けるよう、提案する。同時に、リビア、イエメン、そのほかの地域の安定化にも努めるべきだ、と。パリが攻撃された現在、欧州にはこれ以外に「選択肢がない」。