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アメリカを3-1で撃破。ヤングなでしこ、強豪揃いのステージを3連勝でノックアウトステージへ

松原渓スポーツジャーナリスト
U-20日本女子代表(写真提供:JFA)

 猛者揃いのグループステージを、U-20日本女子代表(ヤングなでしこ)が3連勝で突破した。

 コスタリカで行われているU-20女子W杯で、初戦でオランダを1-0、第2戦でガーナを2-0で下し、第3戦でアメリカと対戦。引き分け以上で自力での突破が決まる有利な条件下ではあったが、3-1で快勝し、3戦全勝でノックアウトステージへ進出した。

「2勝してもまだノックアウトステージ進出が決まっていないという独特の緊張感の中、相手は強豪アメリカという状況で、しっかり準備してきたことをトライして、選手たちが頑張ってくれました」(池田太監督)

 アメリカといえば世界最強の女子サッカー大国で、U-20女子W杯でも最多となる3回の優勝の実績を持つ強豪国だ。しかし、日本も前回大会のディフェンディングチャンピオンで、負けるわけにはいかない。両国の対戦は、注目度の高い一戦だった。

 スタジアムがあるアラフエラの街中で、タクシーの運転手やレストランのスタッフから「今日はアメリカ戦だろう?幸運を祈っているよ!」と声をかけられた。コスタリカの人々は親しみやすく、サッカーに関してはとにかく熱い。U-20コスタリカ女子代表は3連敗でグループステージ突破の夢は絶たれたが、開幕戦で2万2000人、敗退がほぼ決まっている第3戦でも1万2000人もの観客を集めたのだ。

 アメリカは第2戦でオランダに0-3で敗れたため、グループステージを突破するには2点差以上で日本に勝つことが必要だった。試合前、日本の選手たちはその優位性をあまり意識することなく、アメリカとの真剣勝負を楽しみたいという声が多かった。受けて立つのではなく、真っ向勝負を挑んだのだ。

「強い相手にも、球際で強くいきました。3試合を通じて成長したと思うのは、コート内でのコミュニケーションが増えたことです。(苦しい場面も)選手たちでどうにかしようという気持ちが、(さらなる)成長につながると思います」

 重要な先制ゴールを決めたMF松窪真心は、そう胸を張った。

 オランダ戦もガーナ戦も、日本が主導権を握る時間は長かったが、リーチの長さやスピードを生かした反撃に苦しめられた。大会前に国際試合がほとんどできなかっただけに、その調整に苦労するのは無理もない。だが粘り強く守り、オランダ戦は流れの中からの1点、ガーナ戦は2つのPKをものにしてしたたかに勝った。攻め込まれる場面もあったが、ゴール前では体を張って失点しなかった。

 池田監督はグループステージの3試合で、GKを全員起用した。オランダ戦は鋭いシュートストップを得意とする福田史織。ガーナ戦は、ビルドアップや正確なキックに定評がある野田にな。そしてこの試合では、クロス対応に長けた大場朱羽を送り出した。大場はアメリカのイーストテネシー州立大学でプレーしており、U-20代表チームにも顔見知りの選手やスタッフがいるという。

「リーチの長さやシュートを打ってくる距離、タイミングなどが違うので、クロスやフィジカルの強さには慣れています。アメリカで1年プレーして、特にクロスの対応は自信がつきました」(大場)

 試合前にそう話していた通り、クロスへの安定感は抜群で、堂々とした振る舞いでチームを落ち着かせていた。

 一方、前線で相手に脅威を与えていたのがFW山本柚月だ。得意のドリブルで1人、2人と相手をかわし、味方との連係プレーから決定機を作った。

「1対1で仕掛けることは大会を通して挑戦したいと思っている部分なので、積極的にできて良かったです。思わぬところから相手の足がスッと長く出てきたり、伸びてきたりするので、そういうところは気をつけながらやっていました」(山本)

山本はWEリーグでもベレーザのレギュラーとして活躍している
山本はWEリーグでもベレーザのレギュラーとして活躍している写真:長田洋平/アフロスポーツ

 55分の先制点のシーンは、前線からの守備で魅せた。相手のトラップミスを見逃さずに奪い、アメリカの守備が手薄になった中央を駆け上がった松窪に絶好のアシスト。松窪は持ち前のスピードと緩急を生かし、追いすがる相手をかわしながら、最後は左足でねじ込んだ。

「アメリカは背後が空くという情報があったので、自分のアジリティを活かして積極的に狙っていました。前半は守備に追われる時間が多くて、あまりボールを受けることができなかったことは課題です。海外の選手たちはやっぱり体が強いし、足は速い。でも、後半になると疲れてくるので、自分たちがそこでギアを上げることができれば、通用するなと実感できました」(松窪)

 2点目はセットプレーから。67分、右サイドでショートコーナーを選択したMF藤野あおばが、相手をかわしてファーサイドにクロスを送ると、DF小山史乃観が完璧なファーストタッチから左足を振り抜いた。

 小山は3試合、サイドバックでフル出場しているが、所属するセレッソ大阪堺レディース(なでしこリーグ)ではFWで、リーグ得点ランクトップを走る。セットプレーからのシュートはチームでもよく練習しているそうで、「トラップが決まった時点で入るな、という感覚がありました」と、嬉しい今大会初ゴールを振り返った。

 2点のビハインドを追ったアメリカは残り約20分で4点を取らなければいけなくなり、GS敗退はほぼ決していたが、最後まで諦めなかった。70分、日本は左サイドを突破され、クロスからついに失点を許す。

 だが、84分には3点目を決めて突き放した。

 小山からのパスをペナルティエリア内でDF長江伊吹が受けて浮かせると、DF田畑晴菜が頭で押し込んだ。田畑は小山と同じく、C大阪堺では前のポジションでもプレーできる。DF同士の連係でゴールを奪えるのもこのチームの強みだろう。

【快勝から得た糧】

「相手の攻撃に対して受け身になるのではなく、奪った後に仕掛けるところのメンタルとオーガナイズの部分を選手が理解し、ピッチ上で表現してくれたと思います」

 勝因について、池田監督はそう振り返った。先制点への流れを生んだ一つの要因に、前半から後半にかけて守備の狙いを変えたことがある。前半は前からプレッシャーにいきすぎず、コンパクトな守りを意識していたというが、相手のロングボールを封じるため、後半は前から奪いにいく形に変更。アメリカのビルドアップの精度がそこまで高くなかったことも、日本にとっては幸いだった。松窪は、その変化をこう振り返る。

「前半はしんどい部分もあったのですが、後半、前から奪えるようになってチームが楽になったので、『これはいけるな』と思いました」

 背後への抜け出しを武器とする松窪が先発したことで、アメリカは背後を意識せざるを得なくなった。

 後半は前線5人を交代したが、これまでの2戦同様、交代で出場した選手がしっかりとゲームに入れていたことも勝因だろう。今大会初出場のFW島田芽依が終了間際に放った強烈なシュートはクロスバーに弾かれたが、攻撃陣の層の厚さを他国に印象付けたのではないか。

 個人に目を向けると、ここまで3試合、小山と共にフル出場しているセンターバックのDF石川璃音の強さが際立つ。身長172cmで、球際の強さも外国人選手に引けを取らない。1点の重みが増すノックアウトステージでは、石川の存在感はさらに増しそうだ。

石川璃音
石川璃音

 試合後の取材エリアには日本選手たちの喜びが充満していたが、小山は悔しさを隠そうとしなかった。

 マッチアップした7番のFWアリッサ・トンプソンは相手のキーマンで、試合前から相当な気合を入れて臨んでいた。だが、失点シーンは自分の間合いで勝負させてもらえず、クロスを上げさせてしまったことを悔いた。

「悔しいです…」小山はそう言って大粒の涙をこぼし、こう続けた。

「一人で対応するのは無理だな、とわかった時に、味方と連係して守れれば失点は防げたと思います」

 その悔しさを今大会で挽回できるチャンスは、まだある。

 山本は、「チャンスを決め切れないところは攻撃陣の課題です」と、自戒を込めて言った。この先のステージではチャンスの数が少なくなる可能性もあり、「決め切る力」も勝敗の分かれ目となる。

 パスや連動の質はさらに上げたい。この試合では、狭い距離感のワンタッチパスが中盤で奪われることが多かった。日本では相手を外せるタイミングでも、海外の選手は足が長くて届いてしまうのだ。ナイジェリアやスペインのように、決定力の高いチームと対戦することになった場合は、一つのミスが失点につながる可能性が高い。

 日本は中3日で、8月21日にフランスと準々決勝を戦う。フランスは、A代表がFIFAランク5位の強豪国。U-20W杯は2016年大会で準優勝、前回2018年大会では開催国で、ベスト4だった。

 我慢を強いられる時間帯も多くなると思うが、厳しいグループステージを勝ち上がった自信を胸に、世界の舞台で戦える喜びを思い切りぶつけてほしい。

*表記のない写真は筆者撮影

(取材協力:ひかりのくに)

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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