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「働かないおじさん」よ立ち上がれ!【白河桃子×山﨑京子×倉重公太朗】第3回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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少子高齢化が進む日本では、組織の年齢構成を大きく変えることは困難です。そこで白河さんが提案するのが、豊富な経験を持ったミドルシニア人材を活用すること。日本型組織の中には、同質性の高いミドルシニアがたくさんいます。しかし、本来は誰もが個性を持った人間です。会社と自分が同化していたことに気づかせる行動や意識変革も大切ですし、行動を変えるような仕組みを用意することも必要です。ミドル・シニア世代がそれぞれの個性や能力を組織の中で発揮できるような取り組みについて、白河さんと山﨑さんに伺いました。

<ポイント>

・チャラ男と根回しおじさんの組み合わせが最強

・コンフォートゾーンを飛び出し、適切な危機感を持つ

・年下の人や部下にリバースメンタリングをしてもらう

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■ミドルシニア世代が担うべき役割

白河:ミドル以上の世代は、コミュニケーションも苦手です。上意下達で、パワハラ的なコミュニケーションも多いので、そこを何とかしないと、部下が辞めてしまったり、または「パワハラだ」と通報されたりして大変なことになります。やはり知識を入れると同時に、制度も変わる必要があります。

あとは気持ちのところにアプローチすることも大切です。彼らは役職が好きなので、TOO、「隣のお節介おじさん」などという肩書を入れると頑張ってくれるそうです。また、役職を引退したベテランが下の人にアドバイスしたり相談に乗ったりする役割を作って、「あなたしかできない」と任せたりするのも良いと思います。新しい役割に価値を見いだしてもらうのはすごく重要だなと思います。

あとは活性化したことで、逆に下の人の邪魔をしてしまっては困るので、若い人にサポーティブな人になってほしいという意見がありました。それもいいなと思っています。これに関しては、最初の章で生命保険会社を取材して「チャラ男と根回しおじさん」という理論を紹介しました。

倉重:その組み合わせが最強というのがありましたね。

白河:本当にそのとおりで、後からその理論を知って、「うちのコンビはまさにこれだった」と思われたそうなのです。チャラ男というのは、社交的で社外の人脈がたくさんありますが、社内的には「この人は何をしているのだろうか」と思われています。チャラ男が社外で聞いてきた事例をもとに、「こういう保険があるようですが」と持ってきても、それを商品化するだけの実績が彼にないわけです。それを根回しできるおじさんが助けて、うまく商品化して、ヒットしているという実例がありました。若い人とコンビで、こういう動きができる人は、これからも組織に必要とされるし、やりがいも居場所もある人だなと思います。

倉重:結局はモチベーションを高く働いてもらったことが、会社のためになるということですね。

山﨑:そうです。

白河:40代でモチベーションを失ったら、70歳定年まであと30年あります。

倉重:そうすると、それは長いですからね。失われた30年になってしまいます。

山﨑:どんどんゴールテープが遠ざかっていっていますから。

白河:今45歳だとしても、あと20年以上は働いてもらうので、それだったら、周りに害なく、素晴らしい人のほうがいいですよね。

倉重:そして、若い人を助けるような人ということですね。

山﨑:ただ、最近相談が増えているのが、「年上の部下をどうマネジメントしたらいいか分からない」という中間管理職問題です。

白河:分かります。

山﨑:「あなたしかできない」というのは、人事部の制度上はできるかもしれませんが、やはり直属の上司であるとか、職場の仲間とのコミュニケーションがないと難しいです。ご本人の意識が変わっていない状態では、中間管理職の方が年上の方に遠慮をしてしまうので、そこがすごく大事な部分だなとは思います。

白河:私も外資系を経験していますけれども、ここまで年齢と仕事がくっついているのは日本だけですね。

倉重:本来年齢は関係ないはずですけれども、年功序列ですからね。ただ、今後のあるべき日本の雇用社会像は、いきなりジョブ型的に何ができるかで雇うというよりは、40歳ぐらいまでは新卒採用した人を教育して、その後ばりばり働き続けてもいいし、定時で帰るくらい人がいてもいいという形だと思います。恐らく思考されているのは、途中からジョブ型に変わっていくようなイメージですかね。

白河:諸説ありますが、私はそれがいいかなと思います。韓国などを見ると、若者失業率が本当に高くて、それが国力をそぐところはあると思います。日本は新卒の人だったら、普通に就職活動をしたら、取りあえず就職できて、ある程度育成してもらえます。それはすごくいいことだと思っています。

倉重:社会的に見てそれは好ましい点ですね。

山﨑:若者は社会的資産です。だからそこは失ったらもったいないところだと思います。

倉重:本当ですね。

白河:かといって、その人がずっと年功序列で行くというのは、さすがに無理だと思っています。やはり35~45歳ぐらいまでは普通にお給料が上がっていくけれども、その後は実力次第で、何の仕事をするかによってどんどん差がつくようになるでしょう。もし会社がフィットしないと思うなら、他の道もあるという形にいずれなっていくのかなと思います。

倉重:なるほど。大体、40前後がターニングポイントであると。

白河:そうですね。ただ、それが何の予告もなく、いきなりそうなると路頭に迷ってしまいます。

倉重:過渡期が一番困りますね。

■個人で動く場合はどうすべきか?

白河:もう一つの懸念は、雇用のミスマッチで不機嫌なおじさんが社会にたくさんばらまかれるのは、世の中にとって良くないと思います。

倉重:同時期に大量にはまずいかもしれません。ただ、この連載を読んでいただいて、「あれ? ちょうど自分は40を過ぎてどうなのかな」と不安に思う人もいるかもしれません。そういう人はどう行動したらいいでしょうか。

白河:会社が何もサポートしない場合ですか。

倉重:そうです。個人でどう動いたらいいでしょうか?

白河:まずは勉強したほうがいいと思います。

山﨑:でも、この記事をご覧になった段階で、その方はすでに一歩踏み出していらっしゃると思います。

倉重:そうですね。何か気になったのでしょうからね。

山﨑:適切な危機感を持っていただくのが一番いいと思います。人間は、基本的には安定が好きだし、コンフォートゾーンにいることが好きです。でも、外部環境の変化の中で、安定していると思い込んでいた場所が、もしかしたら泥舟のように沈んでいってしまうかもしれません。そうしたら自分も一緒に溺れてしまいます。ですから、自分自身は、いざ泥舟が沈んだときに泳げるようにしておくこと。今すぐに沈むことはないかもしれませんが、泳げるようにしておくという意識を持っていれば、逆に、泥舟を助けてあげる人になれるかもしれませんよね。

今この記事をご覧になっている方は、まずは「泥舟が沈むかもしれない」という適切な危機感を持って、「自分は何ができるのか」ということを意識してください。あと、10年、20年、30年キャリアがあるのであれば、絶対に何かができます。私自身も博士号を取るのに9年もかかっていますけれども、逆に、9年かければ博士になれます。

倉重:10年は人を変えるには十分な時間ですね。

山﨑:そうなのです。私は社会人大学院で教えていますが、40代前半の受講者はすごく多いです。

倉重:MBAに行ってもいいですよね。社会人大学院に行ってもいいし。

白河:私も自分で行ったので、社会人大学院はすごくおすすめです。若い人に混じって勉強できます。

倉重:「適切な危機感」というのはすごく大事だなと思っています。今多くの企業でも、早期退職プログラムなどを恒常的に置いている会社があります。36カ月分とか、48カ月分という、かなりの額のキャッシュをもらう制度を置いておけるのは、あと何年だろうかと考えてしまいます。今のうちにできることはしておいたほうがいいし、そのために何が必要かは恐らく一人ひとり違うので、共通して言えるのは適切な危機感を持つということですね。「このまま定年まで大丈夫だろう」と漠然と考えていて本当にいいのかという話です。

白河:そうです。それと、奥さんがもし働けるようだったら、キャリアをサポートしたほうが絶対にいいと思います。

倉重:なるほど。リスクヘッジにもなりますよね。

白河:はい。夫婦二馬力になるのはすごく大きいです。そうしたら、身を粉にして働かなくても、半分くらいの年収でもよくなる可能性もあるわけです。

山﨑:救われますよ。

倉重:1人で1,000万稼がなくても、夫婦で500万ずつでもいいという話ですよね。

白河:そうです。だから、キャリア復帰をサポートするという考え方もあるのかなと思います。

倉重:なるほど、本当ですね。一人で背負い込み過ぎないということですね。

白河:そうです。あとは、外の世界を見ることです。今はコロナだから、いろいろなところに行けませんが、逆に無料のセミナーが増えて、オードリー・タンもあちこちでしゃべっていますよね。

倉重:確かに。

白河:「DXとは何?」と思ったら、超一流の人の話がうちにいて座ったまま聴けるわけです。このようなすごい時代はないと思います。

山﨑:ハーバード大学の授業もオンラインで聴けますよ。

倉重:確かに、やろうと思えば。

白河:自分のハードルの低いところから始めて、やろうと思えばできるのです。少し下火になってしまいましたが、Clubhouseは結構おじさんが多かったですね。

倉重:私もやりましたが飽きてしまいました(笑)。確かにそうですね。

白河:ハードルが低く、おじさんが話し過ぎたせいで、みんなが離れたみたいな悪い評判もありますけれども、私は最初のころに入っていて、「こんなにあちこちでリバースメンタリングされることはないな」と思いました。リバースメンタリングというのは、今、外資系企業ではやっているのですが、新入社員など若い人に社長など経営層が助言をもらうのです。リバースですね。私もいろいろな部屋に行って、若い人たちの言うことを聞いていて、すごく勉強になりました。

いくらでもできることはあるので、いろいろなところに行って、見聞を広める。自分が話すというよりは、若い人に逆にアドバイスをもらうぐらいの感じで傾聴していくのが、すごくいいことだなと思っています。

倉重:なるほど。ちょうど、労基法改正の労働時間の上限規制のときに、会社が強制して働かせる、あるいは研修させるというのが限界を迎えているわけなので、自分でやるかどうかですよね。そこで、多分10年たったら、すごく差がつくわけと思います。

白河:本当にそうですね。「思い立ったときが一番若いとき」とよく女性の場合は言いますが、男性も同じではないかなと思います。

■若者へのメッセージ

倉重:それはみんなそうですよね。ありがとうございます。では、最後のほうのテーマになってきましたが、今の若い人は、コロナで学生生活も就活も大変です。新卒で働き始めたばかりの人もあまり会社に行けなかったりして大変なわけですよ。将来に対する不安もすごく持っています。「40歳になったら自分もおじさんだ、どうしていけばいいのか」という若い人に対して、ぜひアドバイスを頂けないでしょうか。

白河:若い人は、その会社に一生いられるとはあまり思っていませんよね。それはいろいろなところで感じます。今の若い人は「自分を成長させてくれる会社」ということをすごく意識しています。新卒から育ててもらえるのは、日本の企業の中で一番いいところなので、そこはもちろん思う存分に活用したほうがいいと思うのです。

ただ、会社の中に入ってしまうと、男の人は割とすぐに会社人間になってしまいますので、外とのつながりも多分に保ったほうが良いのではないでしょうか。最近では「NPOの活動をしているので、それを続けられる会社でないと就職できない」とか、「自分で立ち上げたベンチャー企業を続けられる条件なら就職します」という人もいるのです。

倉重:いきなり兼業スタートということですね。

白河:なきにしもあらずですよね。現実はなかなか思うようにいかないところもあるはずですが、昔の人たちほど、「その会社にずっといなければいけない」という意識はないと思います。でも、「いつかは辞める」ということばかり考えていると、その会社で得るものが少し手薄になってしまうような気もしないでもありません。そこはそこでしっかり向き合っていくと、意外にいいこともあるのではないでしょうか。

私が今回取材して思ったのは、やはり日本の会社である程度いい企業と言われているところは、本当に人を大事にしているということです。外資だったら、とっくにクビという人材もいると思います。

この間、Netflixの『NO RULES』という話を読んで、すごく面白いなと思ったのは、「何にもルールはないけれども、会社に害になる人は最初から入れない」ということです。ボーナスを払っても出て行ってもらうわけです。

倉重:どれだけパフォーマンスを上げても、害になる人は駄目なのですよね。

白河:それは企業が危機になってリストラしたときに、すごく打撃を受けると思ったら、かえって仕事密度が上がって、すごく生産性が高まったという社長の経験がもとになっています。やはり、周りに不機嫌を振りまいたり、さぼったりするメンバーが一人でもいると、周りが悪影響を受けて、パフォーマンスが下がるということは研究結果にもよく出てきます。不機嫌な人が1人いるだけで、そのチームの生産性が下がってしまいます。

そういう意味では、日本の会社は、まだまだ、本当に人を大切にしてくれているので、その恩恵もある程度受け取り、チームにとって良い人材になる方が絶対にいいと思います。

倉重:いいですね。私は日々、そういう不機嫌を振りまく人と日々対峙(たいじ)しているので、よく分かります。

山﨑:ご苦労さまです。

白河:不機嫌な人がいると生産性が下がります。

倉重:「それは金銭解決だ」と言いたくなります。山﨑さんはいかがでしょうか。

山﨑:若い方に向けて、ですよね。今先生がおっしゃっていた、自分を成長させてくれる会社という話があったのですが、基本的には、成長はさせてもらうものではなくて、自分でするものですよね。

大企業はそれなりに育成制度が整っているところもありますが、逆に、中小企業だって、あるいは、いわゆる正社員ではなくても学べることはあると思います。自分が、その経験から何を学べたか、 内省することが大事で、その積み重ねだと思います。ですから、どこにいたかではなくて、何を学んで、どれだけ自分ができるようになったかということを棚卸する習慣が必要でしょう。

変化の激しい時代ですから曖昧な設計で良いといわれますが、3年ごとやキャリアの節目に、「自分はこれまで何をしてきて、これからどこへ向かいたいのか」ということを棚卸しをする習慣を若いうちからつけておけば、40代になってから慌てなくても、自律したキャリアをつくれる習慣ができるのではないかなと思います。

倉重:ありがとうございます。今の世代はと言ってはいけませんが、やはり答えを知りたがる人が結構多いなと思います。「これは、やる意味があるんですか」とか聞いてしまったりしますよね。まずはやってみるということも大事かなと個人的には思います。

白河:そうですね。効率重視だし、何でもググってきた世代なので、すぐに正解に到達しようとする学生はすごく多いです。検索して得られるものも確かにありますが、それはもう過去の積み重ねにすぎないので、皆さんの生きる時代のものは、多分すごいスピードで、どんどん新しいことが出てきます。先ほど、節目節目のデザインと、金井先生がおっしゃっていました。

山﨑:そうなのです。私の師匠なもので。

白河:私はいつも、「ここに目標があったら、こう階段を上っていこう」ということは多分起きなくて、サーフィンみたいなもので考えましょうと言っています。波が来たときに思い切って乗るための力を常に蓄えておくということです。

倉重:波に乗る準備はずっとしておくということですよね。大事だと思います。

(つづく)

対談協力:白河 桃子(しらかわ とうこ)

相模女子大学大学院 特任教授、 昭和女子大学 客員教授 、 東京大学 大学院情報学環客員研究員

東京生まれ、私立雙葉学園、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。住友商事、リーマンブラザースなどを経て執筆活動に入る。 2008 年中央大学教授山田昌弘氏と『「婚活」時代』を上梓、婚活ブームの火付け役に。2020 年 9 月、中央大学ビジネススクール戦略経営研究科専門職学位課程修了。働き方改革、ダイバーシティ、女性活躍、 SDGs とダイバーシティ経営などをテーマとする。「働き方改革実現会議」など政府の有識者委員、講演、テレビ出演多数。

山﨑 京子(やまざき きょうこ)

立教大学大学院ビジネスデザイン研究科教授、日本人材マネジメント協会副理事長

アテナHROD代表

ロイタージャパン、日本ゼネラルモーターズ、エルメスジャポンでの人事実務を経て、アテナHROD設立。社会人大学院で人的資源管理とキャリア・デザインの教鞭を執る傍ら、日本企業での人事コンサルティングや研修講師、さらにJICA日本人材開発センタープロジェクトの教科主任として7か国(ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマー、モンゴル、キルギス、ウズベキスタン)の現地経営者に対して人的資源管理の実務指導を行う。

2009年筑波大学大学院ビジネス科学研究科修了、2019年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(経営学)。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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