東京ディズニーランド&シーのチケット変動価格制導入と“9時間の壁”
東京ディズニーランド&シーのチケットに変動価格制導入
東京ディズニーランドと東京ディズニーシーにおいて、2021年3月20日入園分のチケットから変動価格制が導入されることが12月22日に発表された。これまで1デーパスポート(大人)8,200円というように固定価格であったが、時期や曜日ごとに8,200~8,700円の幅で変動する。土日・祝日・春休み・ゴールデンウィークなどは、最高値8,700円が予定されている。これにより、入園者数の季節・時期・曜日などの繁閑差を平準化し、さらなるテーマパーク価値向上に寄与することを目的としている。
近年はユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)が価格設定をリードし、2019年1月から先行して変動価格制を導入したが、東京ディズニーリゾート(TDR)もようやく導入に至った。
また、2021年2月20日入園分より、ディズニーホテルに宿泊したゲスト向けに、午前8時から東京ディズニーシーに入園可能となる「アーリーエントリーチケット」(3,000円)も販売される(パークへの入園には別に1デーパスポート購入が必要)。このチケットを利用すると、一般ゲストより一足先に対象アトラクションの体験やスタンバイパス取得などが可能となり、より充実した時間を過ごすことができるようになる。
TDRとUSJの1デーパスポートチケット(大人)価格の推移
バリアブル・プライシング&ダイナミック・プライシングの広がり
テーマパークにおけるチケット変動価格制は、3種類4種類といった価格を用意し、需要に応じて価格を選択する「バリアブル・プライシング(Variable Pricing)」が採用されている。この発展形として、既に米国等で普及浸透している、統計学を駆使してアルゴリズム(計算モデル)を構築し、需要予測に基づきリアルタイムに値付けを行う「ダイナミック・プライシング(Dynamic Pricing)」も世界的に広がってきている。日本ではこれらが、Jリーグやプロ野球などのスポーツ観戦で先行導入されて本格化し、コンサートやミュージカルなどでも導入が進んできた。
テーマパークにおいて、需給に見合ったバリアブル・プライシング、あるいは本格的なダイナミック・プライシングを導入することは、パーク運営側にとって売上向上に寄与するだけでなく、利用者にとっても利用者の平準化が促され、混雑緩和による満足度向上につながるとともに、個々のゲストに対するサービス水準が向上することが期待される。すなわち、変動価格性は、利用者側にもメリットがあることを理解しなくてはならない。
ディズニーテーマパーク“9時間の壁”
東京ディズニーリゾートのテーマパークにおけるゲストの平均滞在時間は、「FACT BOOK」によると2018年度8.9時間である(2019年度は未発表)。近年は横ばい傾向にあり、最長でも2014年度と2015年度の9.0時間である。すなわち、近年は、平均滞在時間9時間を超えられない状況が続いており、“9時間の壁”にぶつかっているといえる。
この平均滞在時間と1デーパスポート(大人)料金は、開業時から長らく正の相関関係(比例傾向)にあった。その近似式によると時間単価は約1,000円となる。それが2015年度以降、この関係が崩れている。値上げがあっても、平均滞在時間は9時間以上に延びていない。現状の8,000円を超える価格設定であれば、11時間近い平均滞在時間にあたるが、その達成は現実的になかなか難しい状況と推察する。
この9時間の壁をどのように超越していくのか。2月から始まるディズニーホテル宿泊者向け「アーリーエントリーチケット」は、8時から一般ゲスト向けの開園時間9時までの1時間で3,000円に設定されている。時間単価は過去データ1時間1,000円の3倍である。だが、こうしたニーズは確実に見込まれ、この8時入園は、滞在時間を延ばす方向へも寄与するだろう。ディズニーホテルに2連泊するゲストが増えると、ホテルでの休憩をはさむ場合もあるかもしれないが、まさに終日(12時間以上)パークで過ごすことが可能となる。先々コロナ禍が落ち着いた時には、夜の営業時間延長も視野に入ってくるだろう。
TDRテーマパークゲストの平均滞在時間の推移
TDRテーマパークゲストの平均滞在時間と1デーパスポート(大人)料金の関係
ディズニーテーマパーク9時間の壁を超越するキーワードは“探求” と”時間価値”
今後は、単に滞在時間を延ばす方向に向かうのではなく、より濃密な楽しい時間を過ごせる方向にも進むだろう。今後発表されるであろう、アトラクション関連パスの有料化も、単価を上げる方向に大きく寄与しながら、時間効率を高めることに貢献するだろう。そして、いわゆる大規模アトラクションだけでなく、スマホアプリを使ったアトラクション、園内の草木や建物・モノなどに組み込まれた工夫やバックグラウンドストーリーを知るアトラクション、スーベニアコインを活かした楽しみ方、キャストとのコミュニケーションのアトラクション化など、さまざまな工夫の余地がある。
そのキーワードのひとつとなるのは、パーク側から一方的に与えられた楽しみ方ではなく、ゲスト自身が探求心を持ち楽しみ方を広げていけるような体験ではないか。例えば、パーク内で流れる音楽や、電源コンセントなど、普段は気づかないところに目を向けることもありえる。探求の視点をもってパークを観察してみると、ネタはいくらでもある。もちろん、それらをどのように楽しめるようプログラムに仕立て上げるかが重要となる。
今後、ディズニーテーマパークが9時間の壁を超越していくのは、実際の滞在時間を延ばす方向だけでなく、物理的な9時間に価格以上の“時間価値”を与える方向ではないだろうか。この壁を越えるさまざまな取り組みが出てくることを期待したい。