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USJ「ドンキーコング・カントリー」本日オープン 新アトラクション等からみた顧客ターゲット変化

山口有次桜美林大学ビジネスマネジメント学群教授
USJ広報資料「ドンキーコング・カントリー について」より引用

 本日(2024年12月11日)、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下USJ)の任天堂をテーマにしたエリア「スーパー・ニンテンドー・ワールド」に、拡張エリア「ドンキーコング・カントリー」がオープン。テーマパークに詳しいフリーライターの林田周也さんに、事前取材時のアトラクション体験を踏まえ、この新エリアを中心とするUSJの変化を考察していただいた。

ゲームの世界に入れる新型コースターアトラクション

 エリア内には小規模なショップとフード施設があるが、その大部分を注目の新アトラクション「ドンキーコングのクレイジー・トロッコ」が占めている。このエリアでは初のコースターアトラクションである。

 「ドンキーコングのクレイジー・トロッコ」は、任天堂のゲーム「ドンキーコング」シリーズをモチーフに、トロッコに乗って走り回るストーリーが展開されている。そして、コースターとして世界で初めての技術を取り入れている。ゲストが乗ったトロッコはレールの上を走っているように見え、その途中で途切れたレールをジャンプする演出が最大の売りである。近年のテーマパークでは、レールのない道を前後左右へと自在に動くトラックレスライドが増えている。「ドンキーコングのクレイジー・トロッコ」では、トラックレスライドの特徴であるどちらに進むかわからない予測不能な動きをコースターで実現させた。また、この技術の特性上発生する横揺れや独特の曲がり方もうまくストーリーに落とし込み、トロッコに乗って走り回るゲームの世界をコースター体験に反映させている。

(c)Nintendo 写真提供USJ
(c)Nintendo 写真提供USJ

ファミリーコースターながら体験人数を増やす工夫

 1台4人乗りで、身長制限は107cmと低く、5歳くらいから乗れるよう設計されている。これはコースターではない「マリオカート ~クッパの挑戦状~」と同じ身長制限であり、大型コースター「ザ・フライングダイナソー」や「ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド」が132cm以上に制限されているのに比べかなり低い(身長制限は付き添い者同伴の場合)。身長制限が低いことに加え、4人乗りであるため平均的な家族人数で1台を貸し切れる、ファミリーライドらしい作りとなっている。

 一般にコースターアトラクションでは、台車どうしの衝突を防ぐため、降下中のコース内には1台しかライドを配置しない。しかし「ドンキーコングのクレイジー・トロッコ」では、上昇やブレーキのタイミングを調整することで、コース内に同時に何台ものライドを共存させている。これにより1台4人と定員が少ないながらも、できるだけ多くの人が利用できるよう工夫している。また、乗り場には動く歩道のようなムービングベルトが設置されており、スムーズな乗降を可能にしている。

 取材時に計測したところ、約13秒毎にライドが発車していた。単純計算で1時間約1,100人が乗車できる。オープン時のパーク営業時間は1日13.5時間であるため、1日約15,000人が体験できる計算となる。

 テーマパークのアトラクションではこのような工夫で乗車人数(キャパシティ)を増やすことは多いが、子どもが楽しめるサイズのコースターでは、時間あたりの乗車人数を増やす配慮はほとんど見られない。「ドンキーコングのクレイジー・トロッコ」は、家族で楽しみやすいコースターながら、体験人数を増やす工夫も行われている。

(c)Nintendo 写真提供USJ
(c)Nintendo 写真提供USJ

入園者数ディズニー超え日本一のUSJがとる施策強化の方向性

 当初「ドンキーコング・カントリー」のオープンは、2024年春を予定していた。これは東京ディズニーシーの新エリア「ファンタジースプリングス」の開業と同時期だった。

 東京ディズニーリゾートはコロナ禍以降、入園者数を制限しつつ、1人あたりの単価を上げることで全体の収益を増やす方針に切り替えている。このこともあり、USJの2023年の入園者数は約1,600万人(TEA Theme Index 2023)で、東京ディズニーランドを上回る日本一となっている。

 しかし、東京ディズニーリゾートが年間パスポートを休止しているのに対して、USJの入園者数には年間パス保持者が複数回来園する数も含まれており、平日の放課後に入園する学生が多いことも特徴となっている。こうした状況下、USJでは、家族連れを意識した施策を強めている。

(c)2024 SANRIO CO., LTD. APPROVAL NO. EJ4102201 写真提供USJ
(c)2024 SANRIO CO., LTD. APPROVAL NO. EJ4102201 写真提供USJ

イベントから読み解けるUSJの家族連れ重視の顧客ターゲット変化

 USJでは、任天堂のエリアやアトラクションだけでなく、季節イベントにおいても顧客ターゲットを変化させている。2024年夏には、マリオやポケモンも登場する水をかけるパレードを行った。夜には、例年通りの「ワンピース」の有料ショーだけでなく、韓国レーベル「HYBE」の楽曲を用い、キティやミニオンらのキャラクターが登場するショーを新たに開催した。

 ハロウィーン期間も、昨年よりポケモンの期間限定ショーを行っている。夜は、本格的なお化け屋敷やゾンビが歩き回る「ハロウィーン・ホラー・ナイト」が恒例となっているが、今年はお化け屋敷の数を縮小し、「チェンソーマン」コラボのシアターアトラクションを導入した。ゾンビの演出も、「Ado」とコラボし、ゲストをゾンビから守る治安部隊キャラクターを追加した。本格ホラーが売りだったハロウィーンから、怖いものが苦手な子どもでも楽しめるハロウィーンへとシフトしている。

 クリスマスは、2019年まで感動路線のショーを行っていたが、ゲストも一緒にダンスして盛り上がるショーへ変更。恋人たちのクリスマスから脱却し、みなで盛り上がるクリスマスへと変化する姿勢を打ち出している。

 USJでは現時点で、今後の新たな大規模エリア開発やアトラクション新設は予定されていないため、終了したアトラクションの跡地活用に大きな期待がかかる。ソフトとハードの両面から、家族連れを重視しながら客層を広げていけるのか、USJの変化に注目したい。

桜美林大学ビジネスマネジメント学群教授

早稲田大学大学院博士課程修了。博士(工学)。2006年より桜美林大学ビジネスマネジメント学群助教授、准教授を経て、2009年より現職。専門分野は、レジャー産業、レジャー施設、レジャー活動。1990年から『レジャー白書』の執筆に携わる。近年はアジア諸国のレジャー活動状況調査を実施し発表。単著『新 ディズニーランドの空間科学 夢と魔法の王国のつくり方』『観光・レジャー施設の集客戦略 利用者行動からみた“人を呼ぶ魅力的な空間づくり”』、共著『「おもてなし」を考える 余暇学と観光学による多面的検討』『観光経営学』『観光学全集 観光行動論』等。レジャー施設に関する論文多数。

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