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復活に賭ける三菱自動車の野望

井上久男経済ジャーナリスト
昨秋、攻めの中期経営計画を発表する三菱自動車の益子修CEO(写真:つのだよしお/アフロ)

三菱自動車は1月15日、ベトナム政府と電動車の普及拡大に関する覚書を締結したと発表した。三菱は今後、ベトナム商工省と連携して、電動車の普及のための共同研究を始める。最近、三菱自動車が前向きなニュースを発表することが多い。

肝心の業績も2016年に発覚した燃費データの不正問題から販売が落ちて赤字に陥ったが、立ち直った。17年4~9月期の営業損益は、前年同期は316億円の赤字だったのが442億円の黒字に転換、最終損益も2196億円の赤字から484億円の黒字に転じた。国内やアセアン、中国などで販売も伸びた。

3年間で6000億円投資

17~19年度までの中期経営計画もかなり野心的な内容だ。特にこれまでと違うのは、設備投資と研究開発費を大幅に増やすことだ。設備投資は19年度に16年度比で60%増加の1370億円(売上高比で5・5%)、研究開発費も50%増加の1330億円(売上高比5・3%)に引き上げる。17~19年度までの設備投資と研究開発費の累計は6000億円を超える見通しだ。

益子修CEOは記者会見で「これでやっと競合他社並みの水準に近づいた」と説明した。現在、岡崎製作所(愛知県岡崎市)では新たな研究開発棟も建設しているほか、技術者がモチベーションを高めることができるような環境を整えているという。たとえば、トイレやオフィスを綺麗にするといった細部にも気を使っているそうだ。

SUVと4WD、プラグインを強化

こうした投資戦略の強化は、日産から派遣された開発担当の山下光彦副社長が積極的に進めていると見られる。

増やした研究開発費は、当然ながら新車開発に多く投入される。中期経営計画期間中に新車11車種を投入する。三菱自動車が得意とするSUVと4WD、プラグインハイブリッド(PHV)の3点に集中投資する。すでに発売されている新型のSUVの「エクリプス クロス」はデザインもよく、かなり販売を伸ばすと見られる。今年1月15日からは市場規模の大きな北米向けの出荷も始まり、日本市場向けには3月から出荷される予定だ。

強みを磨く!アセアンに集中投資

同様に増やす設備投資は、アセアン地域に集中投資する。19年度にアセアンにおいて16年度比で50%増加の31万台を売るのが目標だ。元々三菱自動車はアセアン地域で強い。三菱の新しい中期経営計画は、強みを磨くことに主眼が置かれているとも言える。

特にインドネシア戦略にはかなり力が入っている。インドネシアの新工場建設には約600億円が投じられて17年4月から「パジェロスポーツ」の製造を開始した。秋からは社運を握る新型MPVの生産も始まった。インドネシアの新工場には、「畳コンベヤー方式」が導入された。マザー拠点である岡崎工場の方式を海外で初めて導入したものだ。「プラレール」のようにレールを組み合わせていくことでラインの長さを簡単に伸縮できる仕組みで、生産車種や需要の変動に柔軟に対応する狙いだ。 現在の従業員数は900人程度だが、これから採用を増やして3000人を雇う計画だ。インドネシア新工場で造る車種を日産にダットサンブランドとしてOEM供給する方針だ。日産はインドネシアが弱いため、三菱自動車の力を借りる。

筆者撮影:三菱自動車岡崎製作所を訪問したゴーン氏は現場の社員とも議論をした(2017年4月)
筆者撮影:三菱自動車岡崎製作所を訪問したゴーン氏は現場の社員とも議論をした(2017年4月)

 

中電から東電に切り替え経費削減

投資を増やしながら、「ものづくり総コスト」は年率1・3%ずつ下げていき、日産・ルノーとの共同購買、共同開発によって、19年度までに1000億円のシナジー効果を出すという。コスト削減ではかなりドラスチックなことをやっている。たとえば、岡崎製作所がある愛知県は中部電力の牙城だが、東京電力からの電力購入を始める。電力自由化による競争激化で、東電から買った方が安いと判断したからだ。このあたりは、日産流の合理化術を採り入れたのであろう。

日産のカルロス・ゴーン会長も9月、日産・ルノー・三菱の3社連合の中期経営計画「アライアンス2022」を発表。3社合わせた17年のグローバル販売台数は1050万台の見通しだが、22年までに17年比で33%増加の1400万台を目指し、世界シェアは12~13%を狙う。計画を達成すれば、圧倒的な世界1位となるだろう。

そしてゴーン氏が重点を置くのがシナジー効果だ。共同購買や設計の共通化などによって現在は日産・ルノーの2社で年間50億ユーロのシナジー効果を生んでいるが、それを、三菱を加えた3社で年間100億ユーロにまで拡大していく。日産とルノーが取り組む設計の共通化戦略「CMF(コモンモジュールファミリー)」を三菱自動車も活用する。1400万台のうち900万台を共通のアーキテクチャーで生産することで量産効果を生み出す。エンジンも3社で31種類あるうち21種類を共通化する。

三菱自動車の経営戦略は、この「アライアンス2022」の中に組み込まれたものだ。ゴーン氏は現在、日産の経営にはほとんど関与せず、この三菱の再生に力を入れているという。

これまでの三菱自動車はリコール隠しに始まり、16年の燃費データ不正でブランドイメージは地に落ちたが、着々と復活している。今後は侮れない存在になると筆者は見ている。

経済ジャーナリスト

1964年生まれ。88年九州大卒。朝日新聞社の名古屋、東京、大阪の経済部で主に自動車と電機を担当。2004年朝日新聞社を退社。05年大阪市立大学修士課程(ベンチャー論)修了。主な著書は『トヨタ・ショック』(講談社、共編著)、『メイドインジャパン驕りの代償』(NHK出版)、『会社に頼らないで一生働き続ける技術』(プレジデント社)、『自動車会社が消える日』(文春新書)『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』(同)。最新刊に経済安全保障について世界の具体的事例や内閣国家安全保障局経済班を新設した日本政府の対応などを示した『中国の「見えない侵略」!サイバースパイが日本を破壊する』(ビジネス社)

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