初采配から“らしさ”を発揮するオリックス・中嶋監督代行 その根底にあるのは一生懸命野球を楽しむ!
【中嶋監督代行の際立つ存在感】
どうやら大きな思い違いをしていたようだ。
8月21日に本欄で、西村徳文監督の辞任と中嶋聡2軍監督の監督代行就任を発表したオリックスに関し、名将ジョー・マドン監督の下でチームを支えたデイブ・マルティネス・ベンチコーチ(現ナショナルズ監督)を引き合いに出し、大人しいイメージのあるチームには選手に寄り添い現場を盛り立てる名参謀の必要性を説いた。
今でもオリックスに“チームに寄り添い現場を盛り立てる”存在が必要だとの考えにブレはないが、中嶋監督代行の采配を見ているうちに、オリックスの場合“名参謀”である必要はないように思えてきた。
つまり中嶋監督代行自身が、そういう存在になっているのではないかと感じ始めている。
【まずは野球を楽しむ姿勢を築く】
今回の監督代行就任にあたり、福良淳一GMは「もう少しベンチを元気に明るくしたい」と期待していた。
その点について中嶋監督代行は就任会見で、以下のように話している。
「どうなんですかね。どうやったら明るくなるかは分からないので…。ただ楽しいものなので、野球というものは。
今年に限っていえば、長いこと開幕を待って、やれた時は自分たちも感動したくらい嬉しかったので、その嬉しさをそのまま出してほしいと思います。
それ(嬉しさ)を出してこそだと思うんですよ。もちろん負けてそれをしていたら、何しとんのやと言われるかもしれないですけど、それあってこそだと思うので。
それプラス勝ったらもっと喜べると思うので、何とかそっちに繋げたいと思います」
何か特別なことをするのではなく。とにかく選手たちに勝敗にとらわれることなく、野球することの楽しさ、嬉しさを思い出させることを念頭に置いているようだ。
【選手をやる気にさせるポジティブ思考】
そうした中嶋監督代行の姿勢は、ベンチの様子でも感じられる。初采配となった21日の西武戦では、この日先発から外れた若月健矢選手と笑顔で会話を交わしているシーンが印象的で、彼が積極的に選手と対話しているのが窺い知れた。
それだけではない。中嶋監督代行の発言は、すべてポジティブに満ちている。例えば21日の試合後の囲み会見で、質問された選手についての返答を見てほしい。
(先発した山崎福也投手について)
「安心して見ていられました。本塁打を打たれましたけど、全然平気でした。緩急よく使えるピッチャーなので、いい打線でしたけど自分のボールをしっかり放ってくれたと思います」
(4打点の活躍をみせたアダム・ジョーンズ選手について)
「長打が魅力の選手ですし、ああいう劣勢を一発で雰囲気を変えてくれる選手ですので本当に良かったです。間違いなくこのくらい(の活躍)は当たり前の選手なので、特別ビックリすることはないです」
(4番に抜擢した中川圭太選手について)
「期待しかないですよ。僕は無敵の中川を見てきたので。そこを出してくれたらいいだけです。今の(打)率とかは全く関係ないので、新しい中川だと思って使ってますんで」
こうした発言は、メディアを通じて選手にも届くことになる。選手たちはこうした発言を聞き、どう思うだろうか。彼らは一様に感激し、やる気を起こすことになるだろう。
【根底にある2年間の米国コーチ留学の経験】
中嶋監督代行は今回の就任にあたり、選手たちと1つの約束を交わしたという。打席に立ったらどんな当たりを打ったとしても、一塁まで全力で走ろうというものだ。
これはジョーンズ選手らも例外なく、ここまで全員が約束通りに実践している。手を抜かないプレーを続けることで、試合に臨む集中力を高め、チーム一丸となって戦う意識を植え付けることができるのだ。
これは若手選手を中心に、MLBではよく用いられる指導方法だ。中嶋監督代行は2015年に現役引退後、日本ハムのGM特別補佐に就任し、2016年から2年間、日本ハムの提携チームのパドレスで2年間のコーチ留学を経験している。
実はコーチ留学は1年の予定だったのだが、本人の希望もあり2年に延長されたと聞いている。中嶋監督代行にとって、それほど刺激的な体験だったようだ。
彼はこの留学中に、メジャーのみならずマイナー組織の全クラスのチームにも赴き、ベンチ入りしながらMLB流の指導を体験している。そうした体験が、現在の中嶋監督代行の指導、采配に確実に根付いているように思う。
ところで前述のマルティネス氏は、参謀から監督に転身し、就任2年目でナショナルズをワールドシリーズ王者に導いている。現場を盛り立てる存在は必ずしも参謀である必要はないということだ。
改めて断言しよう。中嶋監督代行こそ、今オリックスが必要としている指揮官だということを。