「マヂカルラブリー」野田クリスタルが語っていた「楽しくて仕方ない」こと
「もっと上を」
「M-1グランプリ2020」は「マヂカルラブリー」が制しました。
番組のエンディング、ボケの野田クリスタルさんは「最下位になっても優勝することあるんで、あきらめないでください」と叫びました。
2017年、決勝に進出するも“酷評”を受けた過去を受けての叫びでしたが、今年7月、野田さんにYahoo!拙連載でインタビューをしました。
野田さんがプログラミングするNintendo Switch用ソフト「スーパー野田ゲーPARTY」をクラウドファンディングで作る。そのプロジェクトを立ち上げたタイミングでのインタビューだったので、話の中心となったのはゲーム。
ただ、ゲーム作りへの思いを語る中に、今回の優勝後の叫び、そして、栄冠を勝ち取った“見る者の想像を超えていく馬力あふれるネタ”に通じる部分がありました。
「7年ほど前から、ライブでコントや漫才以外で出すものがあったら面白いと思って、ゲーム作りに独学で取り組んだんです。プレイする側は想像もしてないだろうけど『ここで失敗するだろうな』と考えて作ったところでプレイヤーがドツボにハマってると、楽しくて仕方ない(笑)。この感覚はゲームにもネタ作りにも共通している部分だと思います」
「もう一つ面白いのが、第一人者のプロゲーマーの方にプレイしてもらうと、僕の知らない攻略法を見つけやがるんですよ(笑)。作っている僕が『これで完璧』と思っているところをこじ開けてくるんです。自分が作っているゲームだから、こちらが全てを把握しているはずなのに、思ってもないことをやられる。それも実は楽しいところですし、それならばもっと上をいってやろうと思うんです」
自分が作る世界への自信と、それを崩された時でも更に上を目指す心の力。それがあっての戴冠だと強く感じました。
「もう、取るしかない」
また、最終決戦に残った「見取り図」には12月12日付朝日新聞拙連載用にインタビューをしていました。そこには「M-1」へのすさまじいまでの情熱があふれていました。
「芸人になったきっかけも、あこがれてきたものも『M-1』。一昨年、初めて決勝に行けた時に思ったんです。『人生で夢がかなうことって、あるんやな』と」(リリー)
「劇場も閉まったんで、1カ月半くらいは漫才をする機会がなかったんです。芸人になって、こんなに漫才をしなかったのは初めて。なので『M-1』に向けての調整も全然違いました。劇場が再開してからも当初はアクリル板があったし、お客さんも1割ちょっとしか入れてない状況でした。思っていた流れとは何もかも違う年になりましたけど、それでも『M-1』は必ず優勝します。『M-1』にあこがれてしまったんで。あこがれてしまったものは仕方がない。もう、取るしかないんです」(盛山)
「なんで、いっつも怒ってんねん」
最終決戦に残ったもう一組「おいでやすこが」。こちらはピン芸人によるユニットという異色のコンビでしたが、おいでやす小田さんとは今から10年ほど前、大阪でたびたび食事に行っていました。
小田さんの吉本興業の先輩にあたる漫才コンビ「メッセンジャー」のあいはらさんが軸になり食事に連れて行ってもらっていたのですが、その時からネタ作りの腕はピカイチ。関西ローカルの情報番組でリポーターを務めるなど才能の片りんも見せてもいました。
ただ、食事中、いつもあいはらさんから同じ文言で愛あるイジリを受けていました。
「おいでやすは、なんで、いっつも怒ってんねん(笑)」
そう思わせるくらい、こちらの質問や会話に対し「なんでなんですか‼」「誰がやねん‼」「違うわ‼」と全力の“舞台声”でツッコミを入れる。
その結果、小田さんといると、一回の食事で“人からの白い眼”を一年分ゲットできるくらい、周りのお客さんの視線はこちらに向いていました。
ただ、言うならば、今大会で見せた強烈なツッコミはそれくらい長い時間と日ごろからの心がけで培われてきたものだとも言えます。
小田さんも野田さん同様、今大会のエンディングで「僕、こんなネタをやってますけど、怖い人間ではないんで」と心の叫びをあらわしてもいました。
確かに、怖い人間ではない。ただ、周りからそう思われかねない資質がとびっきりあることだけは、10年以上前から個人的に身をもって感じてきました。
審査員の松本人志さんが「いつもは2組で悩むけど、3組で悩んだのは初めて」との言葉を残していましたが、まさに大会史上に残る大接戦。苛烈な戦いを経て、三者三様の飛躍を願うばかりです。