金正恩「ミサイル連射」の裏で現場幹部の死屍累々
韓国軍合同参謀本部によると、北朝鮮は6日午前、朝鮮半島東の海上に向け弾道ミサイル2発を発射した。軍当局はミサイルの飛行距離や高度などを分析している。北朝鮮は4日午前にも中距離弾道ミサイル(IRBM)1発を発射し、日本列島を越えて太平洋に落下させたばかりだ。
ただ、北朝鮮国内においては、おそらく今回の発射よりも、先月にあったもうひとつの動きの方が政治的な意味が大きかったと見られる。
北朝鮮では先月9日に開催された最高人民会議第14期第7回会議で、「国家核戦力政策の法制化」が行われた。この日の会議で採択された法令「朝鮮民主主義人民共和国核戦力政策について」は、核戦力の指揮統制は「国務委員長(現在は金正恩氏)の唯一的指揮に服従する」とした上で、核兵器の使用条件を規定。
その内容はと言えば、金正恩総書記の主観的な判断により、核兵器を先制的に使用することを可能にするものだ。
周知のとおり、金正恩氏は北朝鮮で絶対的な独裁体制を維持している。同国のあらゆるものは同氏が掌握していると言え、それは核兵器も同様だ。
ただ、核戦力の法制化はそれを法的にも規定し、さらには外部に対しても宣言するものだけに、北朝鮮当局は大きな意義を付与しているようだ。
そして、この政策に少しでも異を唱えた幹部ら3千人が粛清されたのは、本欄でも言及したとおりだ。幹部らは、あらゆる人権侵害が横行する管理所(政治犯収容所)に送られたとされ、多くは生きて出られないだろう。
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
デイリーNKの内部情報筋によれば、金正恩氏が軍最高司令官に推戴されてから10周年の昨年12月30日、北朝鮮当局は戦略軍司令部、国防省、総参謀部など軍の主要幹部を対象に「核戦力の法制化が必要だ」とする特別講演会を実施。
その後、軍総政治局と国家保衛省(秘密警察)は幹部たちの間でどのような世論が形成されているかを調査し、法制化を批判した幹部らをブラックリストに載せたのだ。
戦略軍司令部は弾道ミサイルの運用を担当している。現状、北朝鮮の核兵器の運搬手段は弾道ミサイルのみと思われ、すなわち戦略軍イコール核兵器部隊と言うことができる。
金正恩氏としては、核戦力を法制化するに当たり、戦略軍内部に少しでも思想的な揺らぎがあることは許容できなかったのかもしれない。
今や北朝鮮軍で最高のエリート集団と言える戦略軍だが、その幹部でさえ「一寸先は闇」の運命なのだ。