「昔のイメージで語らないでください」元日本代表MF乾貴士の今
昨年、古巣・セレッソ大阪に10年ぶりに戻ってきた元日本代表MF乾貴士。
2018年ロシアワールドカップ(W杯)で示した通り、彼の魅力は高度なテクニックで敵を切り裂く、切れ味鋭いドリブルだ。セレッソのエースナンバー8を背負う2022年は、持ち味をいかんなく発揮し、タイトル獲得への貢献が期待される。小菊昭雄監督からも「今年は得点・アシストで15点以上に絡んでもらいたい」と高い基準を設定された。
しかしながら、その当の本人からは意外な一言が飛び出して、インタビューがスタートした。
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「本音を言えばポジションを変えたい」
――大久保嘉人さんが引退し、坂元達裕選手(オーステンデ)が海外移籍するなど、セレッソ大阪は昨季から戦力が入れ替わりました。となれば、今季キーマンとして期待されるのは乾選手です。
「あまり昔のイメージで語らないでください。もう34歳ですよ(苦笑)。正直、個で打開できるような力はだいぶ落ちてきているんです」
――いつから個で打開できないと感じ始めた?
「一昨年ぐらいじゃないですか。1対1の勝負で抜き切るまでのところは、今はちょっときついかもしれない。ボールを持った時に、周りを使って局面を打開するアイデアはいろいろ出てきますけど、長いドリブルはできなくなってきてますね」
――自身の中で限界が見えてきている部分もある?
「もちろん見えてきてますよ(苦笑)。本音を言えば、ポジションを変えたい。左サイドのポジションは、俺みたいなおっさんがやるようなポジションじゃないしね。同年代でも、家長(昭博=川崎)君みたいな体の強さや速さがあればできるでしょうけど、やっぱり若い子の方がいいよ。今の自分では敵わないっていう思いがあるんです」
――実際にポジション変更の可能性は?
「今季はないと思います。ただ、俺はボランチをやってみたいんです。一番頭を使わないといけないポジションだし、そんな甘いもんじゃないんで、ちょっとずつ慣れていくのが優先ですけど。今年できるか分かりませんが、この先はそういうポジションでプレーする可能性もあると思います」
タイトルを取るために絶対必要なこと
――今現在、チャレンジしていることは?
「周りに使われたり、周りを使うプレーも嫌いじゃないんで、それをやりながら、今季は戦っていけたらいいと思ってます。キヨ(清武弘嗣)との共存に関しても、すごくやりやすいですよ。お互いおっさんになりましたけど、俺らが楽しくやって、若い子たちの能力を引き出せれば一番いいんじゃないかと思います」
――今季、タイトルを目指すうえで重要なことは?
「もう練習からやっていくしかない。練習で甘いことをやってたら、試合ではできないと思う。練習から高い要求をしながらバシバシやることが、タイトルを取るチームの絶対条件なんじゃないですか」
――過去5年間で4度リーグ優勝している川崎フロンターレからはそういう空気を感じる?
「そうかもしれません。でも川崎みたいなサッカーをやろうとしてもムリなんで、俺らは全然違うサッカーで勝てるようになればいい。川崎は強いですけど、絶対に勝てないかって言われたら、それは分かんない。あとは運も味方につけるようにしないといけないと思います」
――ロシアW杯で共闘し、Jリーグに復帰した長友佑都選手のいるFC東京との対戦(3月6日)や酒井高徳選手のいるヴィッセル神戸との対決(4月10日)も控えています。
「佑都君とはサイドが違うからマッチアップはないと思いますけど、対峙したくはないですね。1対1では絶対勝てないから。サッカーって1対1の勝負で勝たなくても周りとのコミュニケーションで局面を打開すればいいんで。周りを使いながらどうにか翻弄できればいいなと思います。万が一、佑都君が右サイドに来たら、自分も逆サイドに代わってもらおうかな(苦笑)。
高徳ともマッチアップしたくないですね。宏樹(酒井=浦和)もそうだけど、Jリーグの右サイドバックって嫌な選手ばっかり(苦笑)。あと、イニエスタとはまだ日本で対峙したことがないんで、すごく楽しみですね。スペインでやったことはありますけど、彼は日本のレベルなら余裕でしょう。彼が苦しむような寄せや判断のスピードができているなら、Jリーグ全体のレベルも上がったと言えるんでしょうけど、なかなかそうはなってないかな。難しいですね」
――小菊監督からは自身の経験を伝えつつ、同時に結果を出すことを求められています。
「具体的な目標数字は言ってできないことが多いんで、あんまり言わないことが多いかな。やっぱりチームが勝つことが一番ですね。
去年もYBCルヴァンカップで決勝まで行ったりしたんで、チャンスはないわけではない。僕自身もここまでのキャリアで一度もタイトルを取ったことがないんで、つかみとれるようにしっかりやりたいなと思ってます」
「現役に未練タラタラなんで(笑)」
――6月に34歳を迎えますが、選手としての引き際はどのように考えていますか?
「俺は(大久保)嘉人さんみたいに、いきなりバーンとやめられるほどの男気はないかな。現役に未練タラタラなんで(笑)。たぶん、ギリギリまでやると思います。その舞台がJ1じゃなくて、J2やJ3だとしても、『ホンマもう走れへん』って感じるところまでは続けると思います」
――それはどうしてですか?
「サッカーしかできないんです。これ以外にやることがない。嘉人さんが39歳でやめましたから、40歳くらいまでやれればもう十分かな。俺は動きのキレと鋭さで勝負してきた選手なんで、それがなくなってくると厳しい。だからこそ、ボランチをやってみたいという気持ちも強いんです。今年どうなるか分からないけど、とにかくベストを尽くします」
2月19日の横浜F・マリノスとの今季開幕戦。左サイドで先発した乾は前半39分に巧みなドリブルで3人をかわし、先制点につながる形をお膳立てした。キラリと光るセンスは相変わらずという印象が強かった。
しかしながら、持ち前のドリブル突破の回数は少なく、むしろ守備に忙殺される時間帯が目立った。本人が言うように「昔のイメージ」から脱皮して「新たな乾貴士像」を確立すべく、彼なりにトライを続けているようにも映った。
30代半ばともなれば、自ら変化していかない限り、サッカー界では生き残っていくことは難しい。それはプロ生活16年目の大ベテランにはよく分かっていること。ドイツやスペイン、そして日本代表で蓄積してきたこれまでの経験を駆使して、乾はJリーグの舞台でどんな違いを見せてくれるのか…。ここからの背番号8の進化を興味深く見守りたい。
■乾貴士(いぬい・たかし)
1988年6月2日生まれ。滋賀県出身。野洲高2年時に全国高校選手権を制覇。2007年に横浜F・マリノスへ入団。2008年から当時J2のセレッソ大阪に移籍し、香川真司らとともにJ1昇格に貢献した。2011年にドイツ2部のVfLボーフムへ移籍、その後同1部のアイントラハト・フランクフルトで活躍。2015年からスペイン1部のSDエイバルへ移籍。同リーグのレアル・ベティス、デポルティーボ・アラベスを経て、2019年にSDエイバルに復帰。2021年には10年ぶりに古巣セレッソ大阪に復帰、今季からクラブの象徴である背番号「8」を背負う。日本代表としては、2018年ワールドカップロシア大会で2得点を挙げる活躍。チームの16強入りに貢献した。
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