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コロナと米エンタメ:優先的に検査受けられるセレブに「不公平」の批判

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ハイディ・クルムはコロナ検査を受けて陰性だったとインスタグラムで報告している(写真:REX/アフロ)

 新型コロナがハリウッドセレブの間でも広がっている。トム・ハンクス夫妻に続き、最近では、イドリス・エルバ、元ボンドガールのオルガ・キュリレンコ、「ゲーム・オブ・スローンズ」のクリストファー・ヒヴュ、「アナ雪2」でハニーマレンの声を演じたレイチェル・マシューズなどが感染したとわかった。ユニバーサル・ミュージック・グループのCEOや、NBA選手、政界の大物にも感染者が出ている。

 コロナショックの本格化を受け、米政府は、健康保険がある、ないにかかわらず検査を無料とし、検査キットを大至急各地に届けると発表した。しかし、現実的には、ほとんどの街において、検査を受ける体制はまだ整っていない。南カリフォルニアでは、コロナで死んだ女性の夫ですら、無症状を理由に検査を断られているのである。また、たとえ検査を受けることができても、結果が出るには数日かかることも、一般に伝わっている。

 なのに、エルバはツイートで「今のところ症状は何もないけれども、検査で陽性と出たので、隔離生活をしています」と述べたのだ。ハイディ・クルムも、インスタグラムで「検査を受けたいとふたりの医師のところに行ったのに受けられなかった」と不満を言ったと思ったら、その後まもなく「陰性でした」と報告している。誰か別のドクターを通じて検査を受け、それもあっというまに結果をもらえたということだろう。

 彼らが楽々と検査を受けられたことももちろんながら、一般人の神経を逆なでするのは、「みんな、家にこもりましょうね」、「一番大事なのは、愛する人たちの安全。社会的距離を保ち、世界の市民として責任ある行動をしましょう」などと説教臭い言葉を付け加えていることだ。正しいメッセージを送るのは影響力のあるセレブの使命と思うからなのだろうが(エルバは『黒人は感染しない』と言うデマを信じる黒人たちにそれは間違いだと強調したりもしている)、「ズルをした人が言うか」と思う人も少なくないのである。ソーシャルメディアには、「セレブの特権で検査を受けられて、しかもそれを自慢できてよかったね」「セレブは、自宅隔離といってもお金の心配もなく豪邸にのんびりすればいいんでしょ。普通の人は働かないと生活できないの。自宅隔離しましょうなんて簡単に言わないで」などというコメントが多数見られる。

 批判を受けて、エルバは、次のツイートで検査を受けた経緯を説明した。新しい映画の撮影に入ろうとしていたところ、エルバが最近接触した有名人が陽性だとわかり、制作側に、検査を受けるよう言われたのだそうである。「撮影が始まったら、僕はたくさんの人と接触をします。検査を受けることは、仕事上、義務付けられたのです」と、彼は主張している。

 そんな中、西海岸時間19日、ダニエル・ディ・キム(『HAWAII FIVE-O』『ヘルボーイ』)は、コロナに感染したことを告白するインスタグラム投稿で、「結果を公にするか、長いこと迷いました。先にやった人たちが、『特別扱いを受けた』と批判されたからです」と、その部分にも触れた。「僕は特別扱いをしてほしいなどと思ったことはありません。ヘルスケアは、みんなに与えられるべき権利だからです」と、彼は言う。

 キムが症状を感じたのは、コロナパニックでテレビドラマの撮影が中止になり、ロケ地のニューヨークから自宅のあるハワイに戻る飛行機の中だった。検査を受けたのは、ハワイに現地時間15日オープンしたばかりのドライブスルー型クリニック。ここでも先に簡単なチェックがあり、それを通過した人でないと検査は受けられないようだが、この経緯を見るかぎり、特別扱いとは呼べないように思われる。彼の家族は、彼が陽性だったことから検査を受けることができ、陰性だったそうだ。

 動画の最後で、キムは、コロナでアジア人が偏見をもたれ、暴力被害に遭ったりしている事柄にも触れた。「お願いだからやめてください」と強く言う彼は、「僕はたしかにアジア系で、コロナウィルスをもっています。でも中国で感染したわけではありません。ニューヨークです。だからと言って『ニューヨークのウィルス』とは呼びません。ばからしいから」と、名前こそ出さないものの、今もまだ「中国のウィルス」と言い続けるトランプのことも批判している。「誰が悪いと言っても、何も始まりません。今、人は病気になっているのです」と、キム。アジア系スターがこんなメッセージを送ることには、誰も文句はないのではないだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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