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久保建英が無得点のままだと一体誰が予想した?カタールW杯に向け、ベトナム戦で示すべき絶対条件

元川悦子スポーツジャーナリスト
次戦・ベトナム戦から久保建英の新たな挑戦が始まる(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

「ここから本大会に出場する選手はガラッと変わる」

 土砂降りの雨が降りしきるシドニーのスタジアム・オーストラリアで宿敵・オーストラリアを2-0で撃破し、7大会連続ワールドカップ(W杯)出場を決めた日本代表。29日の最終予選ラストマッチ・ベトナム戦(埼玉)は8カ月後に迫った本大会に向けたサバイバルの第一歩となる。

 キャプテン・吉田麻也(サンプドリア)が「ここから本大会に出場する選手って大きく変わる。ロシアのW杯の時も最後の1試合でホントにガラッとメンバーが変わった」と語っていたが、確かにその通りだ。

 前回大会を見ても、出場決定試合となった2017年8月のオーストラリア戦(埼玉)のスタメンのうち、ロシアW杯初戦・コロンビア戦(サランスク)で先発出場したのは、川島永嗣(ストラスブール)、吉田や守備陣5枚とボランチの長谷部誠(フランクフルト)、アタッカーの乾貴士(C大阪)、最前線の大迫勇也(神戸)という8人。香川真司(シントトロイデン)や柴崎岳(レガネス)は出ていなかった。ヴァイッド・ハリルホジッチ(モロッコ代表)監督から西野朗監督に代わったこともあるが、特に攻撃陣の変動が激しいのは事実だ。

新顔も参戦する中、久保建英の今後は?

 となれば、今回もオーストラリア戦で先発した南野拓実(リバプール)や浅野拓磨(ボーフム)の出場が確約されているとは言い難い。今季ドイツ・ブンデスリーガ1部で8ゴールを挙げている25歳の奥川雅也(ビーレフェルト)のような光る存在がいまだ未招集となっているだけに、ここから意外な人材が台頭してくる可能性も否定できない。

 そこで気になるのが、久保建英(マジョルカ)の扱いだ。18歳になったばかりの2019年6月のエルサルバドル戦(宮城)で代表デビューしてから2年9カ月が経過し、残した結果は14試合無得点。少年時代から名門・バルセロナで過ごし、レアル・マドリード入りした逸材にとって、この数字は物足りないはずだ。

 森保ジャパンが発足した当初、2列目トリオの一角を形成した中島翔哉(ポルティモネンセ)や堂安律(PSV)が外れていることを考えればまだ状況はいいものの、カタール行きが決まる大一番で出番が回ってこないという厳しい現実に直面している。最終予選序盤の9月の中国戦(ドーハ)ではスタメンを射止め、非常にいい働きを見せていただけに、その後の長期離脱はかなり痛かった。いずれにしても、ここから主力入りを目指して、貪欲に泥臭くアピールを続けていくしかない。

4-3-3の右サイドなら早く代表初ゴールを!

 現在の森保ジャパンの基本布陣である4-3-3の中で、久保が陣取るとしたら右サイドかインサイドハーフのいずれかだろう。

 前者には最終予選4戦連発でエース級の働きを見せた伊東純也(ゲンク)がいる。「イナズマ純也」の異名を取る韋駄天と生粋のドリブラーの久保とは全くタイプが異なるため、共存は十分に可能だが、守備のハードワークや当たりの強さ、一発で相手を振り切って決めきれる力はまだ足りない。おそらく久保はベトナム戦で先発するだろうから、ここで約3年がかりの代表初ゴールを挙げ、守備面での強度を示すことが生き残りへの絶対条件となる。

 18歳で代表入りした頃、彼が21歳になる直前まで無得点のままだと一体誰が予想しただろう。本人も「いつまでも言われ続けるのもあれなんで、早いうちに決められればそれで終わりなのかな」と自信をのぞかせていた。代表の主軸になりたければ、そのハードルは必ず超えなければいけない。得意のリスタートでもいいから、とにかく次こそ点を取ってほしい。

インサイドハーフなら現主力にない独自色を!

 後者のインサイドハーフでプレーする場合は、守田英正(サンタクララ)と田中碧(デュッセルドルフ)の牙城を崩すべく、「独自色」を示すことが肝要だ。今は遠藤航(シュツットガルト)を含めた3ボランチが機能しているため、森保監督もなかなか代えられずにここまで来ているが、攻撃的インサイドハーフとしては原口元気(ウニオン・ベルリン)、旗手怜央(セルティック)もいて、競争は厳しい。

 とりわけ、31歳の原口はこの新ポジションで勝負に出る意欲満々だ。「僕はボランチのようなプレーをするつもりはなくて、アタッカー気質というか、得点に迫るところを見せたいし、そこで違いを作っていけたらいい」と鼻息が荒かった。ロシアW杯のラウンド16・ベルギー戦(ロストフ)で衝撃的逆転負けを喫した生き証人がこれだけのモチベーションを示しているのだから、若い久保としては負けてはいられない。

バルセロナで過ごした少年時代は4-3-3のインサイドハーフを主戦場にしていたという
バルセロナで過ごした少年時代は4-3-3のインサイドハーフを主戦場にしていたという写真:なかしまだいすけ/アフロ

「僕が小さい頃は4-3-3のインサイドハーフでやっていて、今はどちらかというと前めのポジションで落ち着いていますけど、全然できると思います。前に厚みをかけていくならもっと上がった方がいいかなって個人的には思っています。もしこの位置で出るなら高い位置を取ろうと考えています」と彼は1月の中国戦(埼玉)直前に目をぎらつかせていたが、格下のベトナム相手だったらリスクを冒して攻めに出るのもありだろう。そこで久保らしい高度な技術と戦術眼を駆使し、味方を生かしながら自分も生きることができれば、明確な数字もついてくる。所属のマジョルカでコンスタントに出場機会を得ている経験をここで最大限発揮すべきだ。

森保監督は4-2-3-1のトップ下で期待?

 もう1つのオプションとしては、4-2-3-1のトップ下。これは森保監督が久保を起用する時に使うパターンでもある。東京五輪でもそうだったが、指揮官は「久保のベストポジションはトップ下」と考えているのだろう。確かにその方がゲームメークのセンスも発揮しやすいし、左右に流れて変化をつけられる。伊東や南野との共存も可能になるし、代表にとってもメリットは大きい。

 ただ、最終予選6連勝を飾る原動力となった4-3-3から4-2-3ー1へと再び戻してベースにするのは現時点では考えづらい。久保はどちらの布陣、どのポジションでも異彩を放つことが、カタールW杯の主力への近道。伊東のように爆発的なスピードと打開力があれば、どんな指揮官でも使いたくなる。そういった絶対的武器を8カ月間で作り上げ、磨き上げることが、久保建英のW杯参戦への必須ポイント。国際経験豊富で賢い彼ならば、そのことはよく分かっているはずだ。

現在の序列はあくまで最終予選のもの

 それは、今からサバイバルに挑む控え組や若手にも言えること。最終予選の序列はあくまでオーストラリア戦までのものでしかない。ここから6月のテストマッチ4試合、7月のE-1選手権(中国)、そして9月のテストマッチ2試合は全くの別物。2006年ドイツW杯の巻誠一郎、2014年ブラジルW杯の大久保嘉人のように誰もが認める結果を所属クラブと代表で残していれば、逆転滑り込み、そしてレギュラー奪取のチャンスは必ずある。ベテラン勢に脅威を与えるようなスーパータレントの出現を多くの人々が待ちわびている。

 まずはベトナム戦の久保の一挙手一投足をしっかり見極めるところから始めたい。

スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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