羽生結弦選手の偽アカウント騒動で考える、混乱するツイッターで自衛のためにすべきこと
ツイッターをイーロン・マスク氏が買収してから、もう3ヶ月が経ちましたが、現在も様々な混乱が続いています。
今年に入ってから、サードパーティーアプリからのアクセスを予告もなく突然遮断したかと思えば、2月9日にはこれまで無料で開放していたAPIを有料化すると発表。
2月3日には、定型文を投稿しつづけているボットを排除するためか、様々なアカウントが急に原因不明の永久凍結に追い込まれ、大きな騒動になっています。
そんな中、もう一つ気になる騒動と言えるのが、羽生結弦選手の偽アカウントが乱立していたというニュースです。
参考:羽生結弦〝偽アカウント乱立〟の深刻事情 専門家は「イーロン・マスクの弊害」指摘
報道によると「現在は凍結されているものの、ある偽アカウントに「ツイッターブルー」の青い認証マークが付与される事態まで発生した」とのことです。
なぜ、羽生結弦選手のような世界的な有名人の偽アカウントに、認証マークが付与されるようなことになってしまったのでしょうか?
実はイーロン・マスク氏がツイッターの認証マークの仕組みを変えた関係で、今後似たような騒動が増える可能性があるのです。
認証マーク有料化で認証のなりすましが容易に
従来ツイッターの青色の認証マークは、ツイッター社側が大手企業や著名人など一部のユーザーのみを選んで付与する仕組みでした。
それを、イーロン・マスク氏は従来の方法は、選考の仕組みが不透明であるとし「民衆に力を」のキャッチコピーの元、月額費用を支払えば誰でも認証マークがつけられる仕組みに変更しました。
ただ、その直後、予想通り大量のなりすましが発生することになったため、一旦受付を停止し、企業には金色の認証マークを付与し、青色の認証マークについても審査プロセスを追加することで再開した経緯があります。
参考:ツイッター有料プランTwitter Blue受付再開。月1800円のアプリ内課金で青い認証マークつき
ただ、企業については金色の認証マークで差別化が図られたものの、著名人は青色でなりすましが容易なままです。
筆者は、審査プロセス導入によって、羽生結弦選手のような著名人のなりすまし問題は対策がうたれたのかと思い込んでいましたが、今回の結果を見る限り、実際の所はどうも違うようです。
本人確認ではなく、電話番号認証が主軸
ツイッター社のTwitter Blueの審査についてのページを確認すると、下記のように記載されています。
参考:Twitterの認証バッジの要件 - 青いチェックマークの取得方法
つまり、作成後90日がたっていて、30日間アクティブで、電話番号が認証されれば、よほど虚偽情報やスパム行為など、おかしな投稿をしていない限り認証が通るということのようです。
イーロン・マスク氏のもと、大幅に人員が削減され、少ないスタッフで大量の審査業務を行っていることを考えると、審査が簡易なものになっているのは当然の結果と言えます。
イーロン・マスク氏としては、おそらく、なりすましアカウントが認証マークを取得しても、認証マーク取得後になりすましが明確になってから、アカウントを停止すればよいと考えていると思われます。
単純に言ってしまえば、現在の認証マークは「本人認証マーク」ではなく、「課金マーク」であると考えるべき状態になっているわけです。
当面は審査の徹底よりもコストダウンが優先
こうしたツイッター社の状況がすぐに変わるかというと、少なくともしばらくは変わらないでしょう。
実はイーロン・マスク氏の買収直後、ツイッターの広告収入は激減したと言われています。
参考:ツイッターの11月の広告売上が前年比50%減という危険な数値
一方で、イーロン・マスク氏はツイッターを買収する際に金融機関から多額の借入を行っており、年間の利払い負担は12億ドルを超えるという推計すらあります。
この利払いを行うために、ツイッター社は安定した利益を確保する必要があります。
つまり、冒頭で紹介した、サードパーティーアプリの遮断や、APIの有料化も、認証マークの有料化も、昨年実施された社員の大幅リストラも、全てはコストの削減や広告費以外の収入の確保をおこない、ツイッター社が安定した利益を確保するために実施されていると想像されるわけです。
当初は、重要なことはツイートでの投票で決定すると民主的な姿勢を見せていたイーロン・マスク氏ですが、自らの辞任投票で敗北して以降はすっかりその姿勢はなりを潜め、重要なことほどいきなり発表されるようになっている印象です。
参考:ツイッターCEO辞任表明に、マスク氏を追い込んだネット投票の罠
おそらく、現在のイーロン・マスク氏の方が本来の彼の経営姿勢であって、当面はこの収益重視の方針が変わることはないでしょう。
では、今後偽アカウントによるなりすまし騒動を回避するために、私たちは何ができるのか?
なりすまし騒動の被害者にならないためにどういう自衛をすべきなのか。
当事者や関係者、そしてファンができることを5つほどリストアップしておきます。
■正規のアカウントを作成しておく
まず、当事者側が実施できる最もシンプルで効果的な自衛策は、正規のアカウントを早めに作成して顧客やファンの間で、それが正しいアカウントであるという認識を広めておくことです。
正規アカウントが不在の状態で、なりすましアカウントを作成され、そのアカウントが認証マークを取得すると、一般ユーザーが検索してそのアカウントを発見したときに騙されてしまう可能性が高くなります。
使いもしないツイッターアカウントを作成するのは面倒と考える企業や事務所の方も多いかもしれませんが、自社の偽アカウントや、所属タレントの偽アカウントが認証マークを取得して、スパム行為やフィッシング行為を行うリスクと比較して検討頂いた方が良いように感じます。
■公式サイトや、他の公式アカウントと相互にリンクを行う
また、ツイッターの公式アカウントに対して、自社の公式サイトや他のSNSの公式アカウントから相互にリンクをしておくことも重要です。
羽生結弦選手は、プロ転向後まだ公式ウェブサイトなどを開設しておらず、公式YouTubeが情報発信の拠点となっているようですが、何らかの公式サイトを作成して、そこからツイッターの公式アカウントにリンクをしておけば、ツイッター社の審査などでも参考にされる可能性はあったと考えられます。
なお、羽生結弦選手の公式YouTubeチャンネルの概要欄に、ツイッターアカウントとインスタグラムのアカウントへのリンクがあるのですが、ここだとリンク形式になりませんし、YouTubeに詳しい人しか気づけません。
YouTubeチャンネルの基本情報のリンク機能を活用するなどしたほうがより分かりやすいように思います。
ただ、少なくとも上記のように公式アカウント同士で相互リンクしてあれば、紛らわしいアカウントが発見されてユーザーが混乱したときにも、相互リンク情報を見ることで、どれが本物かを確認することが容易になるわけです。
■日本語や英語で検索してみる
また、アカウントがファンに見つけてもらいやすいかどうか、確認することも重要です。
今回の羽生結弦選手の偽アカウント騒動を調べてみると、羽生結弦選手を検索する際に「羽生結弦」と検索する日本のファンと「Yuzuru Hanyu」と検索する海外のファンの両方を、上手く公式アカウントがカバーできていなかった可能性が見えてきます。
例えば、この記事の執筆時点でYouTubeにて「羽生結弦」と検索すると、1番目から3番目は公式動画ではありません。
公式チャンネルの動画である「サザンカ」が表示されるのは4番目でした。
逆にツイッターやインスタグラムで「Yuzuru Hanyu」と検索すると、たくさんのファンアカウントと思われる偽アカウントが出てくるのが分かります。
日本語が読めない海外のファンの方には、そちらの方が公式アカウントに見えてしまう可能性があるわけです。
特に今後のツイッターにおいては、今回の騒動のように偽アカウントに認証マークが付与されると、確実にファンは混乱することになります。
企業や事務所の担当の方には、是非こうしたファンの目線で検索してみて、自社やタレントのアカウントが、ファンの方に見つけやすい状態になっているか確認していただきたいと思います。
そうした検索行為を定期的に実施することで、早期に悪質な不正アカウントを発見し、事業者への通報や、法的措置を早めに実施することもできるようになります。
■悪質な偽アカウントは「通報」
なお、企業や著名人のファンの方が、認証マークが付与されている偽アカウントを見つけて、何かしたいと考えたときに実施すべき行為としておすすめしたいのは、「通報」一択です。
具体的にはツイッターのユーザーのプロフィールの右上のメニューの「@〇〇さんを報告する」という箇所になります。
ミュートやブロックをすれば、その偽アカウントはその人から見えなくなりますが、偽アカウントのペナルティにはなりません。
明らかに悪質な、なりすまし行為であることが明確なのであれば、未来の被害者を減らすために「通報」をした方が良いでしょう。
残念ながら「通報」によりその偽アカウントが凍結されるかどうかは、ツイッター側の対応次第ですが、逆に言うと手軽にアカウントが作成できるツイッターにおいて、当事者ではない我々一般人ができることはそれぐらいということになります。
もちろん、企業や著名人の名前をつけた偽アカウントにも、純粋にその企業や著名人を応援しているファンアカウントも交じっていますから、そういった害のなさそうなアカウントは、わざわざ通報せず、そっとスルーすることをお勧めします。
■偽アカウントへの指摘や、さらしは逆効果
また、認証マークが付与されている偽アカウントを発見したら、問題提起の指摘コメントをしたり、引用リツイートをしたりして、フォロワーにさらしたくなる方も少なくないと思いますが、残念ながらそうした行為は確信犯には無意味です。
それどころか、そうした行為は、逆にその偽アカウントのツイートを拡散してしまうリスクがあります。
特に、最近のツイッターの「おすすめ」タイムラインは、投稿に対してリツイートやコメントなどの反応が多いツイートを表示する傾向があります。
実は、偽アカウントに問題提起のコメントや、さらすための引用リツイートをすると、そのアカウントが人気と判断されて、他のファンの方に表示されてフォロワーが増える効果を生んでしまう可能性があるのです。
ツイッター上の他のファンと連帯して「通報」を呼びかけたいのであれば、偽アカウントのツイートにリアクションするのではなく、キャプチャを取って共有するなり、自分の投稿からアカウントのプロフィールページにリンクすることをお勧めします。
ツイッターの青マークは「課金マーク」
これまでのツイッターの青い認証マークが、「本人認証マーク」であったため、いかに対策をしても短期的には、こうした混乱が今後も発生してしまうと思います。
ただ、シンプルに考えるとツイッターの青いマークは、イーロン・マスク氏によって「課金マーク」に変わっただけ、というのが現実です。
そういう意味では、青いマークが羽生結弦選手のアカウントに二つ同時に付与されていたということがニュースになるのは今だけで、今後はそれほど珍しいニュースではなくなるかもしれません。
イーロン・マスク氏の方針が変わって、ツイッターの審査プロセスが改善することを期待したいとは思いますが、それが期待できない現時点では、シンプルに青いマークをみたら「課金マーク」だと脳内変換するのが無難な対応になると言えます。
ツイッターに課金する人が増えれば増えるほど、ツイッターの収益が安定することを考えると、課金してまで偽アカウントをつくる人も、イーロン・マスク氏からすると必要悪という見方もできなくはないのです。
イーロン・マスク氏の元でのツイッターの経営が安定するまでは、私たちもある程度割り切ってツイッターとつきあう姿勢が求められそうです。