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米国の保護主義的政策への不安強まる…2018年3月景気ウォッチャー調査の実情をさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 景気の善し悪しはどうだろうか。街中の動向でも推し量ることはできるが…。(写真:アフロ)

・現状判断DIは前回月比プラス0.3ポイントの48.9。

・先行き判断DIは前回月比でマイナス1.8ポイントの49.6。

・商品価格の引き上げ、米国の保護主義的政策への懸念と人手不足が景況感に大きなマイナスの影響を与えている。

現状は上昇、先行きは下落

内閣府は2018年4月9日付で2018年3月時点となる景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で上昇、先行き判断DIは下落した。結果報告書によると基調判断は「緩やかな回復基調が続いている。先行きについては、人手不足、コストの上昇、海外情勢などに対する懸念もある一方、引き続き受注、設備投資などへの期待がみられる」と示された。

2018年3月分の調査結果をまとめると次の通り。

・現状判断DIは前回月比プラス0.3ポイントの48.9。

 →原数値(季節調整前の値)では「よくなっている」「ややよくなっている」「変わらない」が増加、「やや悪くなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは51.7。

 →詳細項目は「飲食関連」「非製造業」「雇用関連」が下落。「非製造業」のマイナス0.9ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「非製造業」「雇用関連」。

・先行き判断DIは前回月比でマイナス1.8ポイントの49.6。

 →原数値では「変わらない」「やや悪くなる」「悪くなる」が増加、「ややよくなる」が減少。「よくなる」が変わらず。原数値DIは50.1。

 →詳細項目では全項目で下落。最大の下げ幅は「小売関連」「飲食関連」のマイナス1.9ポイント。基準値の50.0を超えている項目は「小売関連」「製造業」以外。

ここ数年の間に起きた大きな変動要因としては、2016年6月に発生した「イギリスショック」(イギリスのEU離脱に関する国民投票の結果を受けて経済マインドが大きく揺れ動いた)が記憶に新しいが、その影響も和らぎ、持ち直しを見せている。とはいえ原油価格動向をはじめとする海外経済動向、金融市場に対する不安定感への懸念はある。また消費税率の引き上げに関連する形での消費減退の懸念も、そろそろ消費動向に影響を与えてきそう。

↑ 景気の現状判断DI(全体)推移
↑ 景気の現状判断DI(全体)推移
↑ 景気の先行き判断DI(全体)推移
↑ 景気の先行き判断DI(全体)推移

推移グラフを見れば分かる通り、直近の大きな下げ要因となったイギリスショックの急落からは大よそ回復しているのだが。

DIの動きの中身

次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。

↑ 景気の現状判断DI(~2018年3月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の現状判断DI(~2018年3月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月の現状判断DIは総計で前回月から0.3ポイントのプラス、詳細項目では「飲食関連」「非製造業」以外で上昇。もっとも上げ幅の上限は0.7ポイント、下げ幅の上限は1.1ポイントでしか無く、小幅な動きに留まっている。

景気の先行き判断DIはすべての項目で下げ。最大の下げ幅は「小売関連」「飲食関連」の1.9ポイント。

↑ 景気の先行き判断DI(~2018年3月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の先行き判断DI(~2018年3月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

前回月ではすべての項目で基準値を超えていたが、今回月では詳細項目で「小売関連」「製造業」が割り込んでしまっている。

商品価格の値上げへの懸念と米国の保護主義的動きへの警戒

報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして各地域ごとに細分化した上で公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に係わる事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状

・天候がすっかり春めいている。需要期の真っ最中でもあるため、新規の来客数も例年同様に好調な状態である(乗用車販売店)。

・来月よりデスティネーションキャンペーンがスタートする。地元の受入環境も盛り上がり始めており、メディアでの露出も増えてきている(旅行代理店)。

・例年3月に比べて暖かい日が続いたため春物商材の動きがよく、春先には動きの鈍い紳士衣料も好調である(百貨店)。

・生鮮食料品の動きはよくなってきたが、それ以外の食料品関係に値上げがあったため、動きが悪い(スーパー)。

■先行き

・賃上げにより、ある程度消費回復を見込むが、競争環境の厳しさは続く(スーパー)。

・5月以降の予約状況が非常に悪く、夏休みに入るまでの期間の売上が心配である。また、4月以降にビールや食品の値上げがあり、収益悪化を懸念している(観光型旅館)。

・米国の通商政策などにより、株価が下がることが予想され、富裕層の購買意欲が低迷する(百貨店)。

前回月では天候不順によるネガティブな感想が多々見られたが、今回月では季節感を覚えさせる好天候に恵まれ、消費が後押しされた様子が見受けられる。年度替わりに商品の値上げが生じることは毎年の話ではあるが、消費者にとってはマイナス要因と受け入れられやすい。他方、商品の値上げに伴い、あるいは原因としての賃上げで消費回復を見込むとのコメントもあり、物事の善し悪しは一面だけでは見きわめきれない実情を感じさせる。

米中間の貿易摩擦の過熱化、米国の保護主義的な動きは株価の下落を引き起こし、結果として消費者の購買意欲を足止めさせるとの懸念も大きいようだ。

企業関連の景況感では米中貿易摩擦に関する懸念が多々見受けられる。

■現状

・ほぼ横ばいで推移していた製品の販売価格が、若干の上昇傾向をみせている(電気機械器具製造業)。

・為替は円高方向に転換し、株価は国内、海外ともに頭打ちとなっており、投資家の含み益は一時に比べて減っている。個人投資家の投資マインドが、やや低くなってきている(金融業)。

■先行き

・米国の保護主義的な動きにより、円高が進行したり、株価の下落が続くと、ビジネスにも影響が出てくる(電気機械器具製造業)。

・見積依頼案件が減少してきており、この先受注量も減少する見込みである(建設業)。

原油価格は高止まり状態にあるため言及は見受けられない。米中間の貿易摩擦・米国の保護主義的政策に伴い直接的にやり取りの上で問題が生じるというよりは、それに伴い円高の進行や株価の低迷が生じ、それによる景況感の悪化が悪影響を及ぼすとの懸念が大きい。今回月で先行き指数が大きく下がった原因でもある。

雇用関連では人手不足に関わる懸念が見受けられる。

■現状

・零細企業の求人が増加傾向にあるものの、応募者が少なく充足できない状況が続いている(民間職業紹介機関)。

■先行き

・有期雇用契約の求人には求職者の関心が少ない(人材派遣会社)。

人手不足はよく聞くところではあるが、この類の話には得てして「現在の雇用市場に合致した対価・条件を提示しているのか」との疑問が付きまとう。今件のコメントでも全国分の詳細を確認すると、「人手不足」の文言を多数見受けることができる(現状29件、先行き48件、合わせて77件)。大企業に人材を取られるので自社のような中小企業は人材不足を解消できない、今の若者は「寄らば大樹の陰」であるという嘆きのような感想もある。ただ今回月のコメントの中からは、単に人手不足への不満だけで無く、景況感の上向きの表れでは無いかとする解釈を持つところや、人手不足のために賃上げが上手くいっている、さらには企業の人手不足感を積極的に商戦に活用するといった動きも見られる。人手の充足ができたので今後の飛躍が期待できるとの言及もある。

昨今問題視されている、そして報道では否定的に取り上げられることが多い人手不足だが、雇用市場の需給バランスの正常化、そして適切な労働対価が労働力とやり取りされる状態となるための移行プロセスに過ぎないと考えれば、むしろ肯定的に見るべき問題。現在の社会環境がそのコスト水準を求めており、それに応じたコストの算出ができないのであれば、ビジネスモデルそのものが現状に対応しきれていないか、そろばん勘定の上でどこかゆがみが生じているか、判断を間違っていたまでの話。昔と今とでは環境が異なることを認識すべきには違いない。

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※景気ウォッチャー調査

内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更を加えたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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