「妻からの家事ハラ」に女性たち+まともな男性が怒る理由。このままだと“逆マーケティング”に
最近、同僚や友人の女性が「カジハラって腹立つね…」と言うのを聞き「何のことだろう?」と思っているビジネスマンの方々へ。
「カジハラ」は「家事ハラ」、つまり「家事ハラスメント」を指します。問題になっているのは「へーベルハウス」で知られる旭化成ホームズが行った「妻の家事ハラ白書」と題する調査。共働き夫婦を対象に、夫の家事参加実態や、妻から家事についてダメ出しされた経験の有無を、夫に尋ねています。
調査結果のポイントは2つ。詳しくは同社ウェブサイトをご覧ください。
1) 夫の家事参加率は9割超
2)「妻の家事ハラ」を受けた経験を持つ夫は約7割
「どこが問題なの?」と思う方もいるかもしれません。よく見ていただきたいのは調査対象。「末子が6歳以下」で「妻がフルタイム勤務」の夫婦です。
夫が家事を「手伝う」という表現のおかしさ
繰り返しますが、この調査、妻がフルタイム勤務で、小さい子どもがいる夫婦を対象にしています。我が家も当てはまりますが、この属性で同居の夫が家事を「しない」という選択肢は、ほとんど考えられません。特に調査対象となっている30~40代では、ありえないです。
したがって、調査結果1)の夫の家事参加率9割はほとんど何を言っているのか分からない数字です、尋ねるべきは、夫の家事分担度合いがどの程度か、ということ。もっと言えばフルタイム勤務で家計に貢献している妻に対し、夫が家事を「手伝う」という表現もおかしいですね。
小さな子どもがいて、フルタイム勤務の妻を持つ夫に尋ねてみれば分かりますが、家事も育児も「自分はこれこれのことをやる」「これはできていない」というふうに表現する人が多く「手伝う」というお客様感覚の人は、少ないです。質問の表現そのものが、男性の家庭参加はあってもなくてもいい、というジェンダーバイアスを含んでいる点が問題です。
語源と逆の意味で使われている
このように、入口からツッコミどころ満載の本調査ですが、多くの女性とまともな男性たちが怒ったのは、結果2)に関する部分です。
本調査では、妻による夫の家事へのダメ出しを「家事ハラ」と呼んでいますが、実は「家事ハラスメント」という言葉の生みの親は別にいます。そして、その本来の意味はこの調査とは全く逆です。
「家事ハラスメント」という言葉の生みの親は元朝日新聞編集委員で和光大学教授の竹信三恵子さん。竹信さんは著書『家事労働ハラスメント』(岩波新書)で、家事育児介護などの家庭責任が不当に過小評価されていること、こうした責任を主に女性が担っているにも関わらず、その責任や負担があたかも「ないもの」のように扱われる問題を描いています。
ちょっと社会学や哲学などをかじったことがある人は「シャドウ・ワーク(影法師の労働)」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。オーストリア生まれの哲学者・イヴァン・イリイチが提唱した概念で、家事など無報酬の労働を指します。
竹信さんの著書『家事労働ハラスメント』は、家事労働という人間が生きるために必要不可欠な労働が、なぜ、あたかも影法師が担っているかのように「見えないこと」にされてしまうのか。見えないのに(主に)女性に「当たり前のように」押し付けられることで、どんな問題が生じているのかを明らかにしています。
家庭内労働を再分配しなければ女性の地位向上はない
もう少し言えば、アベノミクス&ウーマノミクスで女性労働力の活用がブームのようになっている今、家庭内の労働を男女で適切に再分配しないと、本当の女性の地位向上なんてありえませんよ、ということです。
本来「分担に著しい不平等がありますね、それは問題ですよ」という意味合いで使われていた言葉である「家事ハラスメント」。その不平等の問題を棚に上げ「手伝ったら文句を言われた」とすねてみせる。調査に含まれる甘えた態度に怒ったのが働く女性やまともな感覚を持つ男性達でした。
彼女・彼らはこう考えます。「そもそも、共働きなのに、夫の家事が手伝い程度なのはおかしい」「家事を手伝っている人が9割なのは当たり前」。
一番問題なのは、子どもを持つ女性の多くが、そして責任感を持って家庭参加している男性たちが、家庭責任のために仕事や趣味など自分がやりたいことを少なからず犠牲にしている、ということを、旭化成ホームズの調査は、かわしつつ茶化している、ということでしょう。
この調査に不快感を覚えているのは女性に限りません。増える共働き家庭という顧客層の開拓をめざし作られたはずの研究所の調査が、このままでは逆マーケティングになる危険性が大きいでしょう。