辛口シャンパーニュ発祥「ポメリー」のソムリエコンクールで再決勝の事態! そのワケと栄えある優勝者は?
ソムリエコンクール
食に関するコンペティションといえば、料理コンクールが真っ先に思い浮かぶかもしれません。実際に私も料理コンクールの取材や記事執筆が多いですが、料理と同じくらい頻繁に行われ、注目されているのが、ソムリエコンクールです。ワインの知識、テイスティング、表現力や提案力、サービス技能などを競います。
様々なソムリエコンクールがあり、たとえば、日本ソムリエ協会が主催する「全日本最優秀ソムリエコンクール」が有名です。日本ソムリエ協会は他にもコンクールを主催していますが、実はワインメーカーが主催するソムリエコンクールもあります。
ワインメーカー主催のソムリエコンクールでよく知られているものといえば、ヴランケン ポメリー ジャパンが主催する「ポメリー・ソムリエコンクール」です。
ヴランケン ポメリー ジャパンは、ヨーロッパ最大規模のワインメーカーである、フランスのヴランケン ポメリー モノポールの日本法人。ヴランケン ポメリー モノポールは、辛口シャンパーニュの発祥である「ポメリー(POMMERY)」をはじめとして世界的なシャンパーニュ・ワインを有しています。
2023年10月19日に「ポメリー・ソムリエコンクール2023」の準決勝と決勝が行われ、世間の耳目を集めました。
ポメリー・ソムリエコンクール2023
「ポメリー・ソムリエコンクール2023」は若手ソムリエの成長と活躍を支援するために、2023年から新たに条件を「35歳以下」と若手にフォーカスし、「飲食店勤務者に限らない」として門戸を広げることになりました。
2023年6月26日に東京と大阪で同時開催された本コンクールの第一次予選には46名が応募し、筆記試験とテイスティング技能による審査を実施。7月7日には、ポメリー最高醸造責任者クレマン・ピエルロー氏によるプロフェッショナル向けオンラインセミナーが催され、第二次予選としてセミナー視聴後に発表された課題へのプレゼンテーション審査がありました。この厳しい予選を突破した12名の精鋭が準決勝へと進出。
最終戦はアンダーズ 東京で開催されました。午前中に準決勝、14時30分からファイナリスト5名による決勝戦という流れ。そして最後は、18時からアペリティフ、19時から表彰式とガラディナーという一日でした。
優勝者には賞金100万円に加えて、フランス メゾン研修・レストラン研修、「ポメリー キュヴェ・ルイーズ 6L ボトル」、1年間のポメリーアンバサダー任命、ディプロマを授与。さすが世界的なワインメーカーというだけあって、褒賞も目を見張るものとなっています。
豪華な審査員
審査員の面々は次の通り。
審査員長
森覚氏/一般社団法人日本ソムリエ協会 常務理事
審査員
石田博氏/一般社団法人日本ソムリエ協会 副会長
岩田渉氏/一般社団法人日本ソムリエ協会 理事
近藤佑哉氏/一般社団法人日本ソムリエ協会 理事
審査員長の森覚氏は「A.S.I.世界最優秀ソムリエコンクール」に4回連続出場して2016年8位入賞、2017年最年少で「現代の名工」、2022年「黄綬褒章」受章。石田博氏は3度「全日本最優秀ソムリエコンクール」で優勝し、2000年「A.S.I.世界最優秀ソムリエコンクール」3位入賞、2014年「黄綬褒章」受章。岩田渉氏は「A.S.I.世界最優秀ソムリエコンクール」に2大会連続出場し、2023年には第5位入賞するなど数々のコンクールで受賞。近藤佑哉氏は前回2019年「ポメリー・ソムリエコンクール」で優勝するなど、数々のコンクールで受賞。当日の進行役を務めました。
一般社団法人日本ソムリエ協会が全面的に協力し、日本を代表するソムリエが審査員を担当。さらには先に紹介した最高醸造責任者のピエルロー氏も迎えて、よい緊張感に包まれていました。
準決勝と決勝の出場選手
午前中に行われた準決勝の出場選手は、次の12名です。
準決勝進出
池田大輝氏/マンダリン オリエンタル 東京
大葭原風子氏/Cellar Door Aoyama
山本麻衣花氏/マンダリン オリエンタル 東京
安岡嵩生氏/エノテカ株式会社
松本有佑子氏/フォーシーズンズホテル丸の内 東京
山田琢馬氏/パレスホテル東京
齋藤奈紀氏/BELLUSTAR TOKYO
星野悠太氏/THE THOUSAND KYOTO
井出智也氏/エノテカ株式会社
沖中亮真氏
鈴木大輝氏/マンダリン オリエンタル 東京
平島由奈氏/THE SORAKUEN
このうち決勝に進んだのは次の5名でした。
決勝進出
山本麻衣花氏/マンダリン オリエンタル 東京
山田琢馬氏/パレスホテル東京
沖中亮真氏
池田大輝氏/マンダリン オリエンタル 東京
大葭原風子氏/Cellar Door Aoyama
決勝について
決勝では、プレゼンテーションに始まり、サービス技能、テイスティングという流れで、1人あたり合計30分。プレゼンテーションは日本語で、他は全て英語で行われました。
プレゼンテーションは、日本におけるポメリーの販促提案。山本氏が「ポメリー ポップ」と祭りのイベント実施、大葭原氏はシャンパーニュをカジュアルに楽しめる機会の創出を提言しました。
次はサービス技能で、円卓にいる6人のゲストに応対するという内容。「エアレーションに適したワインをサービスしてほしい」という要望に対して、用意されたワイン3種類の中から最適なものを選び、デキャンタージュしたり、ホームパーティーでポメリーに合う肉料理を提案したりと、見応えがありました。
最後がテイスティング。「ポメリー クロ・ポンパドール」のベースとなる原酒=ヴァン・クレール(vin clair)を3種類の中から当てたり、4種類のスパークリングワインについてフラッシュコメントを述べ、ビンテージを当て、4皿のペアリングを提案したりしました。
4皿の提案では、No.1のスパークリングワインから順番に提案したり、コースの順番で提案したりと、選手によって異なっていたのが印象的。カルパッチョが最も多く挙げられ、山田氏の「松茸の土瓶蒸し」や沖中氏の「飛騨牛の朴葉焼き」といった和風の一皿、パスタを提案した池田氏のペンネが特徴的でした。
内容の濃い審査が行われた後、決勝を制した選手が発表されるかと思われましたが、ほとんど点差がつかなかったので、再度決勝が行われることになります。
再決勝
再決勝は、ガラディナーの間に開催されました。本来であれば、2位から5位を決める審査が行われる予定でしたが、優勝者を決める会になったという点では、より盛り上がるプログラムになったと思います。
最初の審査は「ポメリー キュヴェ150」1本を、選手がボトルグラスに均等に注ぐという競技。早く終えた選手ほど多く加点されます。この後が10の問題への回答。
この再決勝を経て、見事優勝を果たしたのが山本氏でした。
1位/山本麻衣花氏/マンダリン オリエンタル 東京
2位/池田大輝氏/マンダリン オリエンタル 東京
3位/沖中亮真氏
4位/山田琢馬氏/パレスホテル東京
5位/大葭原風子氏/Cellar Door Aoyama
マダム・ポメリー賞/山田琢馬氏/パレスホテル東京
1位と2位をマンダリン オリエンタル 東京が占めるという結果になりました。マンダリン オリエンタル 東京といえば、2017年「ポメリー・ソムリエコンクール」で1位となり、2023年「全日本最優秀ソムリエコンクール」でも優勝を果たしたばかりの野坂昭彦氏がシェフソムリエを務めています。
山本氏は「初めての挑戦で、優勝できるとは思っていなかったので、びっくりしています。自分自身の課題も発見できたので、これからも頑張っていきたいです。このような結果を残せたのも、上司やチームのメンバーなど会社のみなさんのおかげです」と感謝の念を述べます。
当日は会場に野坂氏をはじめとしてマンダリン オリエンタル 東京のスタッフが応援に駆けつけていました。
新設された特別賞「マダム・ポメリー賞」では技術や知識に加えて、特に立ち居振る舞いの美しさ、エレガントなコミュニケーションや人柄を評価。パレスホテル東京の山田氏が見事受賞しました。
再決勝となった理由
今回は再決勝が行われましたが、どういった理由からだったのでしょうか。
審査員長の森氏は次のように説明します。
「通常のソムリエコンクールでは、ここまで点数に差がつかないことはありません。優勝者はだいたいバランスよく安定した点数を取り、2位との差がつくからです。今回は得手不得手がある個性的な選手たちだったので、差が開きませんでした。得意なことを伸ばすと共に、バランスも意識して育ってもらえたらと思います」
審査内容はどのような意図で考案されたのでしょうか。
「スパークリングワインに特化した審査内容を、審査員4人で作成しました。ヴァン・クレールは通常入手できず、醸造所でしかテイスティングできないので、難易度は高かったかもしれません。『ポメリー・ソムリエコンクール』を通して世界に出ていく足がかりになってもらえたら嬉しいです」(森氏)
ガラディナー
ガラディナーも紹介しておきましょう。さすがポメリーが主催しているとあって、アペリティフから、ディナーのワインペアリングまで全て、贅沢にもポメリーでマリアージュされています。
アペリティフ
・ポメリー ブリュット・ロワイヤル マグナム
ワインペアリング
・ポメリー キュヴェ150
・ポメリー キュヴェ・ルイーズ 2005 パルセル
・ポメリー クロ・ポンパドール 2004
・ポメリー アパナージュブラン・ド・ノワール
コース
・マグロと炙り烏賊の漬け風マリネ アボカド山葵ムース 胡麻のチュイル ラディッシュのサラダ
・帆立貝のソテー 南瓜とさつま芋のニョッキ 木の芽オイル
・ブラックアンガス牛フィレのロースト フォアグラソテーと焼き茄子 西京みそと焙煎胡麻ソース
・みかんスフレチーズケーキ シトラスサラダ パッションフルーツゼリー ピスタチオアイス
・カフェ
「ポメリー ブリュット・ロワイヤル マグナム」はポメリーを代表するスタンダード・シャンパーニュ。シャルドネ、ピノ・ノワール、ムニエが同じ比率でブレンドされており、安定感があります。提供されたキャビアとの相性は抜群でした。
「ポメリー キュヴェ150」は再決勝の審査にも用いられた、ガラディナーの開宴を飾る最初の一杯。未発売かつ未発表というシャンパーニュであるだけにとても特別感があります。
「ポメリー キュヴェ・ルイーズ 2005 パルセル」は最高級プレステージシャンパーニュ「キュヴェ・ルイーズ」シリーズ。「静寂の年」と呼ばれ、冷涼で乾燥した晴天のもと豊富で質の高い収穫が行われた2005年ビンテージです。長い熟成を経て複雑な凝縮感を増しながらも、フレッシュさも兼ね備えています。
「ポメリー クロ・ポンパドール 2004」はランスのポメリーエステート敷地内にあるレ・クロ・ポンパドールのみで造れる単一畑のキュヴェ。スパイスも最初に感じられ、シルクのような柔らかい口当たりが特徴的です。
「ポメリー アパナージュブラン・ド・ノワール」はデザートに合わせられた一本。洗練されたアロマがあり、オレンジの繊細さも感じられます。
ソムリエコンクール開催の背景
ポメリーはなぜソムリエコンクールを開催することにしたのでしょうか。
ヴランケン ポメリー ジャパンで代表取締役社長を務める師井研氏は答えます。
「ポメリーはシャンパーニュの魅力をより多くの方にお伝えし、多様で豊かな食文化の一層の発展を目指しています。ソムリエコンクールを重ねることで、日本のソムリエの方々のさらなる成長の支援と、シャンパーニュの魅力をより多くの方にお伝えする伝道者としての活躍を期待して開催しました」
師井氏の言葉通り、これまでのソムリエコンテストには、きら星のごとく、今を活躍するソムリエたちが優勝しています。
ポメリー スカラシップ ソムリエ コンテスト
第1回 1993年 岩澤正子氏
第2回 1994年 有泉光司氏
第3回 1995年 伊東賢児氏
第4回 1996年 石田博氏
第5回 1997年 山本諭氏
第6回 1998年 情野博之氏
第7回 1999年 市村義章氏
第8回 2000年 谷宣英氏
キュヴェ・ルイーズ・ポメリー ソムリエコンテスト
第1回 2002年 山本諭氏
第2回 2003年 濱田知佐氏
第3回 2004年 前場亮氏
第4回 2005年 大山桂司氏
第5回 2006年 大出剛広氏
第6回 2007年 田辺公一氏
第7回 2008年 小嶋隆氏
ポメリー・ソムリエコンクール
2017年 野坂昭彦氏
2019年 近藤佑哉氏
制限がない理由
今年から若手ソムリエに焦点を当て「35歳以下」としたのはなぜでしょうか。
「サステナビリティと環境に対する意識が変わりつつあり、またコロナ禍で環境が不安定になり、特に将来に向けて考えや立案をして活躍する方々への刺激としたく、新たに設定しました」(師井氏)
さらには「飲食店勤務者に限らない」としたのも特徴的です。
「特にここ数年、ソムリエはもちろんワインショップや輸入代理店にお勤めの方々など、消費者への接客および体験を考える、より多くの方にリーチしたいと思い変更致しました」(師井氏)
来年もイベントを開催
今後考えていることは何かあるのでしょうか。
「来年2024年はポメリーが1874年にシャンパーニュ史上初のブリュット(辛口)を造り出して150周年の記念の年になるので、150周年記念ボトルの発売やイベントを予定しております。また、マダム・ポメリーの時代からアートへの支援を続けており、ランスのメゾンでは毎年『Experience Pommery』という現代アートの祭典を行っており、日本でもこれまで『Nuit Pommery』というアート×POMMERYのイベントを開催してきました。来年も引き続き企画していますので、どうぞお楽しみにしてください」(師井氏)
辛口のシャンパーニュを生み出しただけではなく、これからの時代を担うソムリエも育てたいというポメリー。来年のイベントはもちろん、これからのポメリー・ソムリエコンクールからも目が離せません。