「死ぬよりつらい」北朝鮮の飢餓、金正恩の"おひざ元"で悲鳴
平壌は、北朝鮮国内で最も豊かな都市だ。地方住民が飢えに苦しんでいる時でも、平壌市民には、それなりの配給が行われる。各地の協同農場では、地方住民に配給されるコメと、平壌市民に配給される「首都米」とは別途確保される。
高い忠誠心を求められ、頻繁に開催される政治行事への動員など、平壌市民ならではの苦労もあるが、その引き換えとして安定した生活が約束されていた。
しかしその平壌ですら、最近の食糧難を免れることができなかった。平壌市民の4割が絶糧世帯(食べ物が底をついた世帯)に陥ったというのだ。これに対して、朝鮮労働党平壌市委員会の責任書記(トップ)に選出されたばかりの金秀吉(キム・スギル)氏は、絶糧世帯に対して、10日分の食糧を配給することを命じた。
ただそれ以外の市民も、決して裕福な生活をしているわけではない。現地のデイリーNK内部情報筋が、平壌の最近の食糧事情について伝えた。
市内の中区域の倉田洞(チャンジョンドン)と言えば、故金日成主席と故金正日総書記の銅像が立つ万寿台(マンスデ)のそばにある超一等地で、高位幹部が多く住んでいる。この地域での1月の配給は4人家族基準で7.5キロ、それも救荒食物であるトウモロコシだったという。
倉田洞をはじめ、配給を含めた様々な面で優遇されている市内中心部の「30号対象」はまだマシな方で、郊外の「410号対象」はさらにひどい。力浦(リョクポ)区域と江東(カンドン)郡では、4人家族に中国産の古くて赤くて小さなトウモロコシが3〜4キロ配給されただけだ。
通常はコメをメインにして、大麦、ジャガイモ、トウモロコシを混ぜて配給されるが、トウモロコシだけが配給されたことは、平壌の食糧事情が相当深刻であることをうかがわせる。
「配給された量で1カ月を暮らすのはやっとのことだった」(情報筋)
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
配給を実施する国家糧穀販売所(国営穀物商店)は「いつ穀物が入荷するかわからない」という説明を繰り返すばかりで、次回の配給がいつ、どれくらいの量になるかは、1月30日の時点ではわからないという。
地方では配給システムが崩壊して久しく、人々は市場での経済活動で生活を成り立たせているが、平壌では依然として配給に頼っている人が少なくない。そのため、食糧配給の量増減は、市民生活に非常に大きなインパクトを与えるのだ。
「配給が保証されなければ、平壌市民は国境(沿い地域の住民)より暮らしが苦しくなる。平壌には穀物、野菜、作物を植える土地がないため、配給に頼るか、市場で買うしかない。だから死ぬよりつらい。」(情報筋)
情報筋は、当局が、2月16日の光明星節(金正日氏の生誕記念日)までコメをため込んでおき、その直前に配給を行うのではないかと見ている。なお、中国から穀物が輸入されているのは確かだが、コメが含まれているかはわからないとしている。
一般的に北朝鮮の食糧事情は、前年の収穫の蓄えが底をつく春から、麦の収穫が始まる初夏まで非常に厳しくなる。しかし2020年以降はコロナ鎖国で輸入がストップし、収穫直後でも厳しい状況が続いている。