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ロッテ中継ぎ陣の窮地を救った唐川侑己は12球団で唯一防御率ゼロを続ける絶好調男

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
練習前に吉井理人投手コーチと談笑する唐川侑己投手(右/筆者撮影)

【混戦から抜け出し始めたソフトバンクとロッテ】

 パ・リーグは、西武を除く5チームがシーズン半分となる60試合以上を消化した。

 8月9日時点でソフトバンク、ロッテ、楽天、日本ハムの4チームが1.5ゲーム差内にひしめく混戦模様を呈していたが、徐々にゲーム差が広がり、現在はソフトバンクとロッテの2チームが抜け出し始めた感がある。

 この2チームに楽天を加えた3チームが、8月2日以降Aクラスを守り続けている状況だが、この3チームの中で健闘が光るのが、やはりロッテではないだろうか。

【データ上はBクラスでもおかしくないロッテ】

 ソフトバンクはリーグ随一の投手力(チーム防御率がリーグ唯一3点台の3.29)を誇り、楽天はリーグ随一の攻撃力(チーム打率、得点数がリーグ1位)を有している一方で、ロッテはチーム防御率が4.37でリーグ5位、チーム打率が.243でリーグ4位でしかない。

 それでも得点数は268でリーグ2位に入り、効果的に得点しているのが分かる。だがその一方で、失点数はリーグ最下位の277。普通失点数が得点数を上回るのは、弱小チームの典型のはずだ。もちろんソフトバンク、楽天は失点より得点が上回っている。

 こうしたデータだけを見れば、ロッテはBクラスにいてもおかしくないはずなのに、ソフトバンクと2強を形成しようとしているのだ。

【勝利の方程式が確立しているロッテ投手陣】

 繰り返すが、通常なら失点数が得点数を上回るチームはなかなか勝てない。リーグ最大の失点数を誇る投手陣なら尚更のはずだ。

 ところが以前に本欄で報告しているように、吉井理人投手コーチが卓越したバランス感覚で投手陣を起用し、効果的に投手を使い分けている。チーム全体のデータでは見えないが、すでに勝利を確実に掴み取れる、勝利の方程式が確立できている。

 吉井投手コーチは中継ぎ陣を2つに分け、主に勝ち試合で起用する主戦クラスのチームAと、今後の成長を期待するそれ以外のチームBという呼び方をしているのだが、実はこのチームAが絶対的な安定感を誇っているのだ。

 吉井投手コーチはシーズン中もほぼ毎週のように公式ブログを更新し、前週の投手陣の状況報告をしているのだが、8月11~16日の日本ハム6連戦を4勝2敗と勝ち越したカードを、以下のように振り返っている。

 「この6連戦は、益田、ハーマンはもちろんですが、唐川がよかったです。春先故障で出遅れましたが、ここにきて良い投球を見せてくれています」

 吉井投手コーチが解説するように、ここ最近は唐川侑己投手、フランク・ハーマン投手、益田直也投手がチームAを形成し、確固たる勝利の方程式を築いている。

 実はこの3投手の防御率だけを見ると、それぞれ、0.00、2.08、1.98──と抜群の安定感を誇っているのだ。その裏には吉井投手コーチが無理な起用をせず、しっかり彼らの役目を全うさせている効果もあるだろう。

【10試合以上登板で防御率ゼロは12球団でただ1人】

 特に唐川投手の働きは、チームにとって嬉しすぎる誤算だったはずだ。吉井投手コーチが解説しているように、故障のためやや出遅れていたが、7月29日に今シーズン初めて1軍登録されると毎試合好投を演じ、現在ではチームAの一角を担う働きをしている。

 開幕当初はジェイ・ジャクソン投手がチームAの1人だったが、突然の彼の退団で状況が一変。それを唐川投手がジャクソン投手の穴を埋めて有り余る活躍を続け、むしろ中継ぎ陣はより安定感を増しているようだ。

 ここまで12試合に登板し、白星こそないが6ホールドを記録。前述通り防御率ゼロを続けているので、まだ失点も許していない。

 ちなみに10試合以上に登板した投手で防御率ゼロを続けているのは、12球団で唐川投手1人だけ。しかも被打率も.171(ちなみに昨シーズンの被打率は.294)とロッテ投手陣トップで、まさに相手打者を寄せつけない投球を続けている。

 吉井投手コーチは同じくブログで「唐川の代名詞はカッターです。速球より球速が速く、威力があります」と、唐川投手のカッターを絶賛している。

 今後も唐川投手のカッターが相手打者を抑え続けていけば、ロッテは確実に勝利を掴んでいくことになるだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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