Yahoo!ニュース

日本海リーグ“ターム2”での逆襲に燃える石川ミリオンスターズ 後藤光尊監督の思いとは

土井麻由実フリーアナウンサー、フリーライター
後藤光尊監督(写真提供:石川ミリオンスターズ)

■ターム1のポイントを逃す

 前回紹介したように、日本海リーグ石川ミリオンスターズ富山GRNサンダーバーズが加盟)では3ターム制を導入している。シーズン40試合を15、15、10に分け、それぞれ勝率で上回ったほうにポイントが付与される。2ポイント奪取したチームがリーグ優勝だ。

 開幕から石川はなかなか波に乗れなかった。開幕2連敗したあと、ホーム開幕戦で勝利するもまた2連敗。さらに1勝1分けを経て、また2連敗。しかし6月に入って2連勝し、徳俵に足がかかったところで粘った。

 1敗をはさんで4勝7敗とし、次に敗れればターム1のポイントは得られないという「絶対に負けられない戦い」で2連勝した。そして勝負は最終戦までもつれ込んだ。石川がポイントゲットする条件は「4点以上リードをして勝つ」のみだった。

 だが、残念ながら3-8で黒星を喫した。

今季のチームスローガン(写真提供:石川ミリオンスターズ)
今季のチームスローガン(写真提供:石川ミリオンスターズ)

■期待のドミニカンたち

 石川ミリオンスターズ・後藤光尊監督の話を聞こう。

 「最終戦前の2連勝した試合は、勝敗を意識してなかったところがよかったのかと思いますけど、最終戦はやっぱり勝ちたいっていうのが出ちゃいましたね」。

 先発のアントニオ・サントス投手を2回(33球)で交代させざるを得なかったのも痛かった。そのあとに阪神タイガースとの交流試合(同27日)での登板が控えていたから、仕方がなかった。NPBにアピールさせることと公式戦との兼ね合いは難しいところだ。

 ただ、サントス投手自身も本来の姿ではなく、初回に1失点した。期待している“圧倒的な力”は見られなかった。

 「少し出力が落ちている。本人とも話して自覚もあったので、出力をまた戻せるように調整するとのことだった。やっぱり圧倒しないと(NPBスカウトの)目に留まらないので」。

 メカニック的なことやトレーニングで補えていなかった部分があったようで、そこは本人もわかっており、現在も重点的に取り組んでいるという。

 同じくドミニカンのアリエル・ヘルナンデス投手は「落ち着いてしっかり自分のピッチングができている。球速も徐々に上がってきている」と状態はいい。ただマメができて、「そこはちょっと気にしながら使っていました」と振り返る。

 6月17日にイニング途中で降板したのもマメの影響だった。しかしそれも「それだけ出力が上がってきているということ」とプラス材料だという。

アントニオ・サントス(左)とアリエル・ヘルナンデス(撮影:筆者)
アントニオ・サントス(左)とアリエル・ヘルナンデス(撮影:筆者)

■投手陣について

 そのほかの投手陣はどうか。

 「最初のころはみんながみんな、安定感がなかった。でも、その中で村上史晃)が頑張ってくれていたし、計算していた以上に香水晴貴)が頑張ってくれていたので、なんとか持ちこたえられたなという気はしますね」。

 村上投手は要所の先発を務めてきたが、サントス投手が入団してからは中継ぎに回り、投手陣の中心としてしっかり投げている。

 「追い込み方はすごくいいんですけど、追い込んでからのヒットが目につくというか印象に残ってしまう。最後の決めるところに、もう少し慎重さがほしいかな」。

 ターム2での課題だ。

 香水投手も先発ローテーションの一角を守り、球速やキレ、安定感が増してきている。

 また、6月半ばくらいから球速が戻ってきたという藤川一輝投手は状態がよく、ターム2をまたいで5試合連続無失点中だ。ずっと防御率0.00を守ってきたクローザー・田中颯士投手はやや疲れが出たのか、9試合目に1失点してしまった。それでも1.00はみごとだ。「体力的な部分が課題ですね」と、さらなる強化を求める。

村上史晃(写真提供:石川ミリオンスターズ)
村上史晃(写真提供:石川ミリオンスターズ)

■与四球を減らす

 後藤監督が投手陣全体の課題として挙げるのは、与四球の多さだ。

 「どうしても(失点に)フォアボールがからむことが多い。やはり球速だけじゃなくて、ある程度のところに投げられないとゲームにならない。本人たちは球速やキレを追い求めているけど、それは当然コントールがあっての話」。

 ただ、コントロールばかりを口にしたくないとも話す。「抑えながら投げちゃうんでね」と、そのバランスが難しい。「全力で投げた中で、しっかりコントロールできるというのを身につけてほしい」と望む。

 「指先の感覚だったりというのは、僕らが伝えきれないところはあります。自分の感覚なので、そこを球数を多めに投げるのか、それ以外のところで全体的なバランスを考えながらトレーニングをするのか、そうへんは本人たちに任せています」。

 もちろん片田敬太郎コーチのアドバイスも受けるが、「結局、最後は自分がやるかやらないかなんで」と自主性を重視する。たしかに独立リーグからNPBに行った選手らはみな、自ら考え、動き、己の力を高めてきた。そういう選手でないと、ドラフト指名は難しいということだろう。

藤川一輝(写真提供:石川ミリオンスターズ)
藤川一輝(写真提供:石川ミリオンスターズ)

■クイックを速く

 2ケタの大量失点した試合が3度あり、チーム防御率が4.40。さらに気になるのはチーム盗塁阻止率が.158というところだ。しかしこれは「一番の要因はピッチャーのクイック。開幕前から言ってきたことだけど、最低でも1.25秒以内という目標を立てた中で、達成できている投手がほぼいない」と断じる。

 「NPBのピッチャー陣は1.1秒台がスタンダード。やはり盗塁を刺そうと思ったら、キャッチャーひとりの力では刺せない。幸輔)にしても森本耕志郎)にしても、送球する技術は上がっている。そこはピッチャーとの兼ね合い」。

 富山の吉岡雄二監督がベンチで常にストップウォッチで計っているのも見ている。「『これくらいのクイックだったら走れるな』というのは、もうわかってきていると思うので、これからもどんどん走ってくると思います」。阻止するために、投手陣にはより速いクイックが必須だ。

ルーキー・土田励(写真提供:石川ミリオンスターズ)
ルーキー・土田励(写真提供:石川ミリオンスターズ)

■頭を使った盗塁を

 逆に、石川も足を武器としている。「足でアピールしたい選手が多い」と、阿部大樹選手が9コ、杉崎蒼太選手が5コ、吉田龍生選手が4コと快足をウリし、チーム総数も23コをマークした。

 ただ、後藤監督が求めるのはやみくもに走るのではなく、頭を使えということだ。

 「盗塁はグリーンライトもありますし、サインもあります。走る選手たちには『走るカウント、配球も考えなさいよ』とは言ってます。たとえば2ボールだったらストライクの確率が高いのに、そういうところで普通に走っちゃう。自分がタイミングとれたときに走るんでね」。

 今後も配球や状況など、野球脳を高めていくよう教示していく。

俊足・川﨑俊哲の足も見たい(写真提供:石川ミリオンスターズ)
俊足・川﨑俊哲の足も見たい(写真提供:石川ミリオンスターズ)

■2人の捕手

 次は捕手2人の話だ。植捕手は「キャッチャーとしてのところは心配していない」と安心して任せている。昨年途中からスローイングもコンパクトになり、捕ってからが速くなった。「本人も自覚してやっているし、去年から取り組んできていることを変わらずにやれている」と、評価している。

 しかし「打たないと」と打撃に課題を残す。昨年は打撃でもチームを牽引し、ときには4番に抜擢されたこともあったが、今季はなかなか結果が出ない。実は開幕前からバッティングフォームを少し変えているという。

 「本人がこういうふうにしたいと目指してやっている部分があって、それがまだしっかりと身についていない。彼は背が高くて手足も長いので、どうしても遠心力に負けるというか、スイングが広がってしまう。そこをなんとか、当たるまでをコンパクトにしようとやっています」。

 やろうとしていることが試合でできるときは、ヒットが出ているという。途上ではあるが、いい方向には向かっているようだ。

植幸輔(撮影:筆者)
植幸輔(撮影:筆者)

 高校卒ルーキーの森本捕手については「1年目にしてはいいものは出しているんじゃないですかね」と目を細める。8試合の出場で打率.292、出塁率.485、長打率.415と好結果を残している。

 「スローイングがね、上半身が強くて頭が突っ込んでしまって、手が遅れがちになる。高校生までの走塁技術なら、刺せていた。ちょっとランナーが進むのが速いと思った瞬間に、前に突っ込むんです」。

 現在、懸命に取り組んでいるところだ。

森本耕志郎(写真提供:石川ミリオンスターズ)
森本耕志郎(写真提供:石川ミリオンスターズ)

■打線の主軸たちへの要求

 打線の中心である選手たちにも、向上を促す。4番・高木海選手は開幕2戦目から14試合連続安打を放ち、リーグ1号を含む2本塁打はリーグトップだ。打率.361、出塁率.426、長打率.492で貢献度も高い。

 「欲をいったら、もっと速いボールをしとめてほしいというのはありますね。NPBのピッチャーのストレートの強さ、速さ、キレというのを感じて、なんとか無駄なものを省きたいという思いで練習はしていますけど」。

 ストレートを弾いてほしいというのは、開幕時からずっと求めてきたことだ。それと長打だ。

 「持っているものは素晴らしいんで、1試合に2本くらい長打が出るようになってくれればおもしろいですけどね」。

 高木選手がNPBを目指すために社会人を辞めて独立リーグに来たことを理解しているだけに、突出した打力がアピールできるよう願っているのだ。

 足、肩を高いレベルでアピールしている吉田選手には、「安定感ですかね。4打席、同じ出力で」と要求する。集中力や体力の問題でもあるが、その上積みが必要なことは本人にも説いているという。

 「これまで天性というかセンスというか、それでできてきたのだと思います」。

 身体能力の高さは認めている。しかし、NPBに行くためにはプラスアルファが必要だと説いている。

高木海(写真提供:石川ミリオンスターズ)
高木海(写真提供:石川ミリオンスターズ)

■ガツガツ、ギラギラでターム2へ

 ターム2はすでに始まっているが、残念ながら初戦は敗れた。

 「ターム1を落として、翌日の試合(ターム2初戦)が大事だっていうことを、選手たちがどれくらい意識できていたのか。ターム1の最後負けて、気持ちが落ちたままターム2に入っていっている選手が多かったと思います」。

 ナインには意地を見せてほしかった。ただ、ターム1の最終戦とターム2の初戦が土日で続き、インターバルがなかったため、切り替えがしづらかったというのもあるだろう。1週間後の2戦目にはしっかり勝利し、タイに戻した。

 ターム2も勝利を目指しつつ、選手たちが目指すNPBに向けてアピールさせることは変わらない。しかし肝心の選手たちに“ガツガツ感”や“ギラギラ感”が足りないとこぼす。

 NPBとの選抜試合のときだ。五回裏のインターバルに、ネット裏で目を光らせるスカウト陣にアピールするべく「走れ!」と選手にハッパをかけたが、どうも選手には照れがあるのか目立つようには走らない。

 「そんなんじゃね…。あの人たちが見て決めるんだから」。

 これまで以上のさらにさらに強力なアピールが必要だと力を込める。

 「開幕からここまではある程度、静観していた部分もあるんですけど、ここからは9月にかけてもっとアピールしなきゃいけない。僕が今、各個人に思っていることはどんどん伝えていきます」。

 選手個々が取り組むべきことを明確にするとともに、試合においては「サインは基本的にはあまり出したくはないけど、大事なところで出したときに、ちゃんとサインを実行できる力を身につけさせておきたいなとは思います」と、もう一段階高い野球ができるよう、訓練もしていく。

 石川ミリオンスターズにとっては絶対に落とせないターム2。必死で獲りにいく。

鋭い眼差しで練習を見る後藤光尊監督(写真提供:石川ミリオンスターズ)
鋭い眼差しで練習を見る後藤光尊監督(写真提供:石川ミリオンスターズ)

【石川ミリオンスターズ*ターム1のチーム成績】

6勝8敗1分 勝率.429

《投手》

防御率4.40 被安打130 被本塁打1 奪三振109 与四球65 与死球8 

暴投18 捕逸0 失点73 許盗塁17 盗塁阻止率.158

《野手》

打率.235 出塁率.343 長打率.302 得点65 

打数503 安打118 二塁打18 三塁打2 本塁打4

三振114 四球68 死球18 犠打2 犠飛5 盗塁23 盗塁成功率.719

【石川ミリオンスターズ*関連記事】

ホーム開幕戦で今季初勝利

160キロ超えのドミニカンがジャパニーズドリームに挑戦

サトテル擁する阪神タイガースとの交流試合

フリーアナウンサー、フリーライター

CS放送「GAORA」「スカイA」の阪神タイガース野球中継番組「Tigersーai」で、ベンチリポーターとして携わったゲームは1000試合近く。2005年の阪神優勝時にはビールかけインタビューも!イベントやパーティーでのプロ野球選手、OBとのトークショーは数100本。サンケイスポーツで阪神タイガース関連のコラム「SMILE♡TIGERS」を連載中。かつては阪神タイガースの公式ホームページや公式携帯サイト、阪神電鉄の機関紙でも執筆。マイクでペンで、硬軟織り交ぜた熱い熱い情報を伝えています!!

土井麻由実の最近の記事