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ついに誹謗中傷の「ヤフコメ」に罰金10万円 そのワケと今後の留意点は?

前田恒彦元特捜部主任検事
(提供:akaricream/イメージマート)

 インターネット上の誹謗中傷が社会問題化する中、「ヤフコメ」と呼ばれるヤフーニュースのコメント欄への書き込みが名誉毀損罪に問われ、略式起訴されて罰金10万円の略式命令が下されたことをご存知だろうか。

どのような事件?

 発端は、2018年にヤフーニュースが転載した大阪府高槻市議に関する産経新聞の記事だ。高槻市では大阪北部地震で小学校のブロック塀が倒壊し、下敷きになった女児が死亡していた。記事は市議の1人がこの件に関して市に住民監査請求を行ったものの、却下されたという内容だった。

 これに対し、高槻市に住む男性は、コメント欄にこの市議がある宗教団体に属しているとか、遊説場所で幸運を呼ぶ壺のようなものを買わされそうになったとウソの書き込みをした。

 市議は裁判でヤフーから発信者情報の開示を得たうえで、損害賠償を求めてこの男性を提訴し、併せて大阪府警に名誉毀損罪で刑事告訴した。

 民事裁判では和解が成立し、解決金も支払われたが、告訴は取り下げられず、警察は今年4月にこの事件を検察に送付した。検察が5月に略式起訴した結果、裁判所が罰金10万円の略式命令を下したというわけだ。

対策が追いつかない面も

 これまでも匿名を隠れ蓑にしたヤフコメの酷さが何度となく問題視されてきた。ヤフー自身も自覚しており、様々な対策を施している。

 例えば、詳細な「コメントポリシー」を策定し、誰かを著しく傷つけたり、攻撃するようなコメントや、報じられているニュースと関連性が薄いコメントなど、問題のあるコメントを制限したり、削除を強化するといったものだ。

 しかし、コメント数が膨大すぎるからか、筆者が見る限りでも、必ずしも削除などの対応が追いついておらず、明らかに悪質と思われるコメントが放置されている場合もある。

 特にヤフーニュースのトピックスに掲示され、多くのユーザーの目に触れるとともに短時間で爆発的にコメントが付くような記事、それも取り上げられた人物や関係者に対する見解が分かれ、批判や炎上の対象になるケースで目立つ。

侮辱罪も厳罰化へ

 法務省は、こうしたネット中傷の規制を強化するため、刑法を改正して侮辱罪に懲役刑を追加し、厳罰化する方針だ。ヤフコメでは、今回のように具体的な事実を摘示した名誉毀損罪に当たるコメントよりも、むしろ侮辱罪に当たる誹謗中傷のほうが多いように思われる。

 もし法改正が実現すれば、ヤフコメを対象とした侮辱罪での告訴や損害賠償請求が相次ぐことだろう。警察としても、すでに立件例のあるツイッター上でのネット中傷よりも、ヤフコメを舞台にした事件のほうがマスコミの注目を集め、大きく報道されるから、立件に意欲を見せるはずだ。

 しかも、これまでの侮辱罪では誹謗中傷をそそのかしたユーザーや、場所や空間を提供して放置し続けたサイトの運営者を罪に問えなかったが、法改正により、事案によっては教唆犯や幇助犯として処罰できるようになる。

 ヤフコメのユーザーも運営側も、これまで以上にコメントの内容やその後の対応に留意する必要があるだろう。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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