熊本南阿蘇村の「地獄」で見た希望。兄弟たちの奮闘を知ってほしい。
この写真を見てみて欲しい。撮影は先月22日だ。
昨年4月に九州地方を襲った熊本地震。発生からまもなく1年を迎えるが、壊滅的な被害を抱えたまま立ち往生している地域があるのをご存知だろうか。
熊本県南阿蘇村の温泉郷、垂玉、地獄温泉。古くから湯治場として栄え、200年以上を経た今も人々に愛され続けて来た。江戸時代には、熊本藩士のみに入浴が許されたという格式もあり、傷ついた体を癒す秘湯として知られる名高い温泉だ。
しかし、昨年6月、地震後の大雨によって源泉を囲む山々が崩れ大規模な土石流災害が発生。泥と岩と木々とで真っ黒になった濁流が温泉郷を飲み込んだ。発生から10ヶ月が経過した今も山肌から水が道路に染み出し、アスファルトの亀裂を広げながら土地を傷め続けている。
「熊本で最も最悪な土地だ」
地元の被災者はこう嘆く。
地域のシンボルでもある温泉郷。140年以上の歴史を守ってきた老舗旅館「清風荘」は壊滅的な被害を受けた。旅館の経営者、河津誠、謙二、進さん3兄弟は自分たちの代で旅館を終わらせてはならないと復旧、復興に向け奮闘を続けている。
旅館は地域の人たちの雇用の場にもなってきた。自分たちが復興しなくては地域の復興にも繋がらないとこの1年奮闘してきたが、被害の深刻さに時折本音が深いため息とともに漏れる。自慢の大浴場は屋根が落ち膝の高さまでの泥に覆われた。場所によっては人の背丈ほどの高さまでの土砂が堆積し手のつけようがなかった。有志のボランティが必死の泥かきをしたが復旧にはまだまだ遠い道のりが待っている。
地震発生から1年、再び春を迎える。警戒するのは雨だ。土砂崩れを起こした山の斜面の復旧にはまだ時間がかかる。春の嵐、梅雨、そして台風シーズン。地元では今一度土石流災害が発生したら持ちこたえられないのではないかと不安もよぎる。一刻も早い、復旧作業が望まれる。
旅館の立て直しには数億円規模の新たな費用が必要だ。それでも、自分たちの代で旅館を終わらせてはならないと前を向く。
絶望的にも見える旅館の再建だが、3兄弟には希望がある。
乳白色の優しい手触りの名湯、すずめの湯。土石流災害からの難をかろうじて逃れ、今も、コポコポと音を立て湯は湧き続ける。露天から立ち込める湯気が兄弟の心を癒し、そして奮い立たせる。「負けんばい」。
来月4月には、南阿蘇村で大規模な復興イベントも企画。クラウドファンディングで資金集めを始め、なんとか人々の支援を取り付けた。また、多くの人に清風荘の今を知ってもらおうとすずめの湯を訪れてもらう単発の企画も考えている。興味のある人はリンク先をのぞいてみて欲しい。
熊本市中心部では復興が進み地震の記憶も心のうちにしまわれつつある。
「忘れられてはいけない。再び、再興し旅館のファンをよびもどす」兄弟たちの決意は硬い。
現場は今どうなっているのか、温泉地を訪ねた。少し長い動画だが、ぜひみてみて欲しい。南阿蘇村の今を、そして兄弟たちの奮闘を。