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山梨県で震度5弱、富士五湖近くの地震は富士山噴火を誘発するか?

巽好幸ジオリブ研究所所長(神戸大学海洋底探査センター客員教授)
(提供:アフロ)

 2021年の後半は、強い揺れを伴った直下(内陸)型地震が続いた。10月7日の千葉県北西部地震(M5.9)は首都圏の広い範囲で震度5弱以上(最大震度5強)の揺れを観測し、12月3日には午前6時と9時台に山梨県東部の富士五湖でM4.8と和歌山県西部の紀伊水道でM5.4の地震(最大震度はともに5弱)が相次いで発生した。

 これらの地震は、いずれもプレート運動に伴う圧縮によって日本列島の地盤がずれて逆断層が生じたものであるが、発生地域も離れており互いに連動して起きたものではない。また世界のM6超の地震の約2割が発生する日本列島ではこの規模の地震は多発しており、決して列島全体で地震活動が活性化しているわけではない。ましてや首都直下地震や南海トラフ巨大地震の前兆を示すものでもないと考えられる。もちろんこれらの大地震については、今後30年間の発生確率は70%を超えていることを踏まえて、万全の備えが必要であることは忘れないでいただきたい。

 一方で、最近の直下型地震の中では、富士五湖近傍で発生した地震が、現役の活火山である富士山を刺激して大噴火を誘発するのではないかと心配する人も多いようだ。

伊豆半島の衝突が引き起こす直下型地震

 富士山周辺の地質構造を見ると、フィリピン海プレートが地球内部へ沈み込み始める場所である駿河トラフや相模トラフは大きく北へと曲がり、本州を構成する地質帯も同様に屈曲している(図1)。この北へ窪んだ部分は「伊豆衝突帯」と呼ばれ、伊豆半島を含む伊豆諸島の火山性物質が占めている(図1)。日本列島の地下へと沈み込むフィリピン海プレートの上に造られた火山列島である伊豆諸島が本州に突き刺さり、本州側に大きな変形が生じたのだ。

図1 伊豆衝突帯の地質構造と富士五湖周辺の地震。産業総合研究所地質図と気象庁のデータに基づき著者作成。
図1 伊豆衝突帯の地質構造と富士五湖周辺の地震。産業総合研究所地質図と気象庁のデータに基づき著者作成。

 この伊豆衝突帯では、次々と伊豆諸島の物質が衝突してくるために断層が発達し、今回の地震が起きた地域の周辺ではこれまでにも幾度も被害地震が発生してきた(図1)。つまり、今回の地震は伊豆諸島の衝突に伴う地震なのだ。

富士山噴火を誘発するか?

 富士山の地下には相当規模のマグマが蓄積されている可能性が高い。そんな状況下で地震が発生することで、噴火が誘発されることはないのだろうか?

 そもそも火山の噴火は、マグマに溶け込んでいた水が発泡することでマグマ溜りの内圧が高まることが原因だ。多くの場合は、地下深部から高温のマグマが供給されることで発泡が始まる(図2)。一方で、地震が発泡を引き起こすことも考えられる。炭酸飲料でよく経験することだが、瓶をふると泡が発生して中身が溢れるし、栓を開ける時に溢れ出ることも多い。マグマも同様に、地震の揺れや歪みの解放による減圧で発泡が起きて噴火に繫がる可能性がある(図2)。

図2 火山噴火のメカニズム。著者原図
図2 火山噴火のメカニズム。著者原図

 しかしこれまで、火山性地震ではなく直下型地震の直後に火山噴火が起きた確かな例はない。また、今回の地震のようなM5クラスの直下型地震では、20 km以上の距離がある富士山のマグマ溜りを減圧するとは考えられない。つまり、今回の地震が富士山噴火を引き起こす可能性は極めて小さいと言える。

 一方で活火山である富士山はいつ噴火してもおかしくないことは承知して、今年に改訂されたハザードマップなどを参考にして、大噴火に備えることは必須だ。

ジオリブ研究所所長(神戸大学海洋底探査センター客員教授)

1954年大阪生まれ。京都大学総合人間学部教授、同大学院理学研究科教授、東京大学海洋研究所教授、海洋研究開発機構プログラムディレクター、神戸大学海洋底探査センター教授などを経て2021年4月から現職。水惑星地球の進化や超巨大噴火のメカニズムを「マグマ学」の視点で考えている。日本地質学会賞、日本火山学会賞、米国地球物理学連合ボーエン賞、井植文化賞などを受賞。主な一般向け著書に、『地球の中心で何が起きているのか』『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』(幻冬舎新書)、『地震と噴火は必ず起こる』(新潮選書)、『なぜ地球だけに陸と海があるのか』『和食はなぜ美味しい –日本列島の贈り物』(岩波書店)がある。

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