渡會将士「最高傑作ですと、20周年の時に言うのは軽薄かなって」――次へ向かうための“翌日の音”②
【前編】から続く
「小学生時代に作った替え歌を、ふと思い出したことがきっかけで作った『タイガーリリー』」
――8月21日に先行配信された「タイガーリリー」はノスタルジックな空気が漂ってきますが、これは実話が基になっているとか?
渡會 そうんなんです、半分実話というか小学生の時に転校生の女のコと隣の席になって、そのコも含めて男子も女子も関係なく遊んでいたのが、ある時から性教育の授業が始まって。男たちはバカだからHなワードを使いたがって、替え歌を作って遊んでいました。彼女もその歌を一緒に歌いながら帰っていたのに、ある時急にその子が「もう歌いたくない」って一緒に歌ってくれなくなって。それ以来ギクシャクし始めて、そのうち疎遠になって……でも今思うと、そういうことだったんです。彼女は先に大人になったんだなって。その時歌っていた歌を43歳にもなってふと思い出して(笑)、エモいなって思って、勢いでバーッて作った曲です。たぶんその時は男とか女とかを意識していなかったと思っていたのに、きっとその子のことがすごく好きだったんでしょうね。
――原曲が気になります。ライヴで披露するとか。
渡會 いえ、この時代に絶対歌えないです(笑)。
――でもそんな話を聞いたらファンの人も聴きたくなりますよ。
渡會 SNSで呟かないことを条件に、いつかネタばらししましょうか。
「生きているということは、朝と夜のように、常に入れ替わり続けるものなんだなっていう気がしていて」
――「Kebab」も歌詞が深いです。
渡會 これはたまたま居酒屋で知り合った、音楽とは全く関係ない仕事をしている人と話をしている時に、仕事の仕方としてフォーマットだけ与えられて、目標を設定されてあとは勝手にやって、というやり方が社会の中で意外とまかり通っているということに、その人たちが憤慨していて。「そういうものなのか」って思いながら聞いていたら、自分にも心当たりがあると思って。それはbrainchild’sでEMMA(菊地英昭)さんから曲をもらって、「これに歌詞書いて」って言われて、どんな歌詞にしますか、どんな方向性にしますかって聞くと「任せる」って。外枠をがっちり固められた上で、すごくきれいなお皿を出されて、このお皿にぴったり合う料理を作って盛り付けて、みたいなオーダーに自分も一生懸命応えてるなって思って(笑)。
これはクレームでも悪口でもなくて(笑)、そんな話をしたらその人達も「社会ってそういうもんだよね」みたいな感じで、すごく盛り上がったんです。意外とみんな自分と同じ葛藤を体験してるかもしれないと思ったし、最後お皿だけ残る料理ではなくて、ケバブだったら中身を食べて包み紙だけ捨てれば、最終的にゼロになるからすっきりするって思ったんです。
――この曲も渡會さんの真骨頂という感じです。
渡會 捻くれていると言われたらそれまでなんですけど、このアルバムが“翌日の音”というコンセプトで、その中に朝と夜、蝶結びを結ぶ、ほどく、みたいな相反するものが入り混じっているなっていうことと、「Kebab」ではお皿のために料理を作るのか、料理のためにお皿を用意するのかを歌っていて、そこも相反するものですよね。生きているということは、朝と夜のように、常に入れ替わり続けるものなんだなっていう気がしていて。
――視野を広げて、見えない時は目を細めてよく見てみると、社会って本当にそういうものしかないし、それを見逃さないのがやっぱり渡會さんです。
渡會 そんなところばかり見てます(笑)。
「染み込んだ雨をずっと引きずってる人は多いと思う。『雨に還れ』は自分に対して歌っている部分もある」
――「雨に還れ」は歌が豊かで、飛び込んできます。
渡會 これは歌っていくうちにどんどん化けていった曲です。昔よく出ていたライヴハウスのスタッフが集まる同窓会があって、久々に会って楽しくやっていたのに、10年前の嫌なことをいまだに言ってくる人がいて。その雨はもうとっくの昔に上がっているのに、また降らせるのやめてくれないかなって思ったことが歌詞になっています。たぶんその人は一生悪気がないままその話をしていると思うので、たちが悪い。周りのみんなは気にするなと言ってくれましたが、でもその小さな言葉が棘になって刺さって、自分の中に染み込んでしまって、それを早く流して消し去りたいと思って作り始めました。雨って降っている瞬間だけ雨って呼んで、地面に落ちたら雨水とか名前が変わっていくじゃないですか。そうやって自分もどんどん変えていかなければ、という気持ちもあって自分に対して歌っている部分もあると思います。きっと染み込んだ雨をずっと引きずってる人って結構多いと思うので、みんなで流してしまおうという感じです。
――昨年3月に配信した「万葉の花」は他の曲とはまた違う色合いというか、違うタッチというか、より間口が広い曲という印象です。
渡會 サビにコーラスを重ねたりして、シングルのときよりも少し明るい印象になって、回復とか再生というテーマの曲ですが、アルバムの中ではより色味が増した感じがします。
――ラストがドラマティックで胸に迫ってきます。
渡會 引き算の美学というか、実際はすごく少ない音で構成されていて隙間を楽しんで欲しい曲なんです。自分にとっても大事な曲です。
1分のドラマティックなラブソング「アンカー」
――「アンカー」は約1分という短い曲で逆に存在感を放っています。
渡會 12曲入りのアルバムの中に1曲くらい弾き語りがあってもいいんじゃない?ってスタッフからアイディアをもらって、「DAY DREAMER’S DECK」でライヴやって、陽も沈んだ時ビーチまで行って「夜の海って怖いな」と思いながらそこで歌詞を書いて、翌日作った曲です。アルバムを長く感じさせないためのギミックみたいな曲かもしれないけど、ただのギミックだけにはしたくないなって。だからあえて弾き語りでやる必要がない曲調というか、広がった後すぐ終わるというドラマティックな展開を狙いました。ライヴの中で“おいしく”やりたいです。
「例えば陽射しの匂いとか、実態のないもの、本当は存在していないのに認識しているものって面白い」
――そして表題曲は『MorroW SoundS』というアルバムを出すと宣言してから作ったんですよね?
渡會 最後の伏線回収ですね。<潮騒が呼んでいる>という歌詞で始まりますが、冒頭でも言いましたが、海なし県の田舎育ちの自分の中で、いつもどの方向に海があるんだろうって探していた変わった少年でした。ずっと海に憧れがあって、いまだにそうです。それは20年間音楽をやってきても変わらないなっていうことを、歌詞の一行目に書きたかった。
――<光が射す音>という言葉がすごく素敵だなって思って、この曲自体がまさに光を射す音、曲になっているし、渡會さんの声もそうだし、希望を感じさせてくれます。
渡會 何か実態のないもの、本当は存在していないのに認識しているものって面白いなと思って。例えば、陽射しに香りを感じるという人もいて。それはアスファルトの匂いとか何か混ざったものかもしれないし、日光自体に匂いはないよなとは思いつつ、でも嗅覚や肌感覚だったり、そういうものに結びつけて存在しないものを感じているときがあって。光が射すという現象は、音も匂いも発生しないけど、例えば大きな鐘がガラーンって鳴っていたり、何か同時に連想しているものがあるなと感じていて、そういうものを表現したかった。
タイトル『Morrow SoundS』とツアータイトル「翌日」に込めた意味
――渡會さんのイニシャルもかけているんですか?
渡會 そうなんです。一応Masashi WataraiのMWと同じように、Mから始まってWで終わって、ジャケットではMをひっくり返してWにして、Sもひっくり返して表現しました。朝とか夜のようにひっくり返るものという意味もあります。ひっくり返るとか、裏表だったり、それが循環し続けるみたいなものを、昔から歌いたいんだろうなって改めて感じました。
――9月8日から“翌日”ツアーがスタートします。
渡會 ツアー用のロゴのフォントを作ろうとしていて「翌日」って書いたら「羽」が「立つ」と書いて「翌」で「日」。「MorroW SoundS」は翌日の音というニュアンスで訳しているんですけど、ここだと「立」と「日」を重ねると「音」になるんですよね。
――発見しちゃったんですね。
渡會 全部が説明できているんだなと思って、このツアータイトルにしてよかったです。ちゃんと説明した方がいいですよね(笑)。でもたまたまそうなっただけで、偶然を楽しむというかなんか面白くなっちゃったね、ということが起こるツアーになるといいなという思いも含めてのタイトルです。基本は弾き語りの対バンスタイルで、ドラムとベースを入れ3人編成でやる箇所もあります。
11月3日『渡會将士20周年音楽會』開催。「未来へつながるような新しい試みをお見せしたい」
――ツアーやイベント、インストアイベントなどかなりの本数のライヴを経て、11月3日のワンマンライヴ「渡會将士20周年音楽會」(Veats Shibuya)に辿り着く感じです。この20周年記念ライヴはどんな内容になりそうですか?
渡會 ベストアルバムを出したわけでもないし、20周年だから昔の曲をやりたい気持ちもありますけど、20年間色々な音楽を転がしてきて、次の20年に向かって進みますというスタートでもあるので、新しさと過去をいい塩梅でブレンドしたい。未来へつながるような新しい試みもお見せできれば。
『渡會将士 翌日tour 2024』
〇9月8日(日)北海道・Crazy Monkey[OPEN 16:30 / START 17:00]
出演者:you any a me/and more…
〇9月13日(金)京都 MOJO [OPEN 18:30 / START 19:00]
出演者:桃野陽介
〇9月14日(土)愛知・名古屋 池下 CLUB UPSET [OPEN 17:30 / START 18:00]
出演者:中田裕二/菊池遼(the quiet room)
〇9月18日(水)兵庫・KOBE BLUEPORT [OPEN 18:30 / START 19:00]
出演者:オサキアユ(fr.さよならポエジー)/あくたがらん
〇9月19日(木)大阪・Music Club JANUS [OPEN 18:30 / START 19:00]
出演者:菊池遼(the quiet room)/コーラスウォーター
〇9月27日(金)山口・LIVE rise SHUNAN [OPEN 18:30 / START 19:00]
出演者:出口舜哉/潤、(追加)
〇9月28日(土)広島・CAVE-BE [OPEN 17:30 / START 18:00]
出演者:deneb/and more…
▲ 9月29日(日)福岡・OP’s [OPEN 16:30 / START 17:00]
出演者:リリーフィッシュ/and more…
〇 10月19日(土)岩手・the five morioka [OPEN 17:30 / START 18:00]
出演者:SWANKY DOGS/u named (radica)
〇 10月20日(日)宮城・LIVE HOUSE enn 3rd [OPEN 16:30 / START 17:00]
出演者:SWANKY DOGS/u named (radica)
〇 10月22日(火)新潟・GOLDEN PIGS BLACK STAGE [OPEN 18:30 / START 19:00]
出演者:TELLECHO/知る権利(追加)
〇 10月23日(水)茨城・LIGHT HOUSE [OPEN 18:30 / START 19:00]
出演者:菊池遼(the quiet room)/ and more…
▲ 10月26日(土)栃木・ASHIKAGA SOUNDHOUSE PICO [OPEN 17:30 / START 18:00]
出演者:EG with EL Dorado Sessions
▲ 10月27日(日)群馬・The Groove TAKASAKI [OPEN 16:30 / START 17:00]
出演者:EG with EL Dorado Sessions /オープニングアクト:板橋晃紀(追加)
【注意事項】
※公演により料金、編成が異なりますのでご確認の上、お申込みください。
編成見分け方法:〇⇒solo、▲⇒Trio(サポートメンバー:中村昌史[Bass]、若山雅弘[Drums])