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今年は3日間無事開催 10回目を迎えた「イナズマロック フェス」の原点は、西川貴教の母への愛と地元愛

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
「昨年、一昨年、この場所で悔しい思いをしました。だからこそ10周年があります」

昨年、一昨年と、荒天による開催中止の憂き目にあった「イナズマロック フェス」。記念すべき10回目は初の3日間開催で、15万人を動員

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「イナズマロック フェス2018公式Twitter」より
「イナズマロック フェス2018公式Twitter」より

9月22日から24日まで、西川貴教主催のフェス『イナズマロック フェス 2018』が、“無事”3日間行われた。“無事”というのは、ここ2年、悪天候に悩まされてきたからだ。野外フェスは当然天候のリスクを抱えながらやっているが、それにしても、2016年は雷雨で2日目の途中で中断の後、中止、2017年の2日目は台風の影響で中止と、2年連続で悔しい思いをしてきた。記念すべき10回目でもある今年は、誰もがその成功を祈っていた。今年は初の3日間開催だったが、天気予報では22日と24日は雨予報が出ていた。公式Twitterでは「今年の晴天を願って、てるてる坊主を作ってTwitterやInstagramにアップ!」と呼び掛け、「イナズマロックフェス晴天祈願」のハッシュタグも作られ、ファンやアーティストが次々とてるてる坊主の写真をアップ。その天気を誰もが気にかけていた。

「来てくれたみなさんのおかげでこの天気になりました」(西川)――好天に恵まれ3日間完遂

「9月22日初日、開演前には青空が広がっていた(「イナズマロック フェス2018公式Twitter」より
「9月22日初日、開演前には青空が広がっていた(「イナズマロック フェス2018公式Twitter」より
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LUNA SEAと西川のコラボ(9月22日)
LUNA SEAと西川のコラボ(9月22日)

9月22日当日。会場周辺では朝から小雨が降っていたが、てるてる坊主に込められた多くの人の祈りが届き、徐々に青空が広がってきた。客席の足元が悪くなっていたが、開演時間を迎える頃には暑いほどの陽気になってきた。西川貴教がステージに登場。深く一礼し、「ようこそ滋賀へ!ようこそイナズマロック フェスへ!来てくれたみなさんのおかげでこの天気になりました。昨年、一昨年、この場所で悔しい思いをしました。だからこそ、10周年があります。関わってくれたみなさん、集まってくれたみなさんに心からの感謝を…行くぞ!イナズマロック フェス、スタート!」と開会宣言し、そのまま「西川貴教」として初のライヴへ突入した。昨年T.M.Revolution20周年イヤーを完遂した西川は、今年「シンガーとしての声や歌を使って、もっと自分の可能性を探ってみたい」と、西川貴教個人名義での活動をスタートさせた。初日のトップバッターに『西川貴教』として登場し、22日は西川がボーカルをつとめるバンド『abingdon boys school(以下a.b.s.)』として6年ぶりにライヴを行い、24日は『T.M.Revolution』として、10回目のフェスを締めた。

西川貴教が「イナズマロック フェス」を立ち上げた理由

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「イナズマロック フェス」を立ち上げたきっかけのひとつには、実は意外な理由があった。それは西川が、当時入院中だった母親を見舞うために「地元に帰るきっかけづくりのために始めたようなイベント」ということ。母親にもっと会いたい、そして喜ばせたいという思いが原点だったのだ。2008年に滋賀ふるさと観光大使に就任すると、音楽を通じた地元貢献として翌年「イナズマロック フェス」を立ち上げ、滋賀県の全面的なバックアップのもと、記念すべき1回目が開催された。

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母親への愛と地元愛がイナズマの原点だけに、徹底的に地元密着型フェスということにこだわり続けている。毎年イベントの収益金の一部を滋賀県と草津市の両自治体へ寄附、また、琵琶湖の水の浄化を目的とした運動=マザーレイク基金にも、フェス出演者により行われたチャリティーオークションの売上げが寄附され、琵琶湖の環境保全や環境学習等に活用されている。さらにイナズマへの飲食出店を賭けた「イナズマフードGP(グランプリ)」などの派生イベント、エフエム滋賀のラジオ番組公開録音、琵琶湖一斉清掃への参加、開催日前日には、地元小学生の会場見学なども行なっている。こうした活動を通して、イナズマをやっている意味、意義が、滋賀県民に少しずつ伝わっていったはずだ。今年は3日間で15万人(フリーエリアを含む)もの人が、会場に足を運んだ。その経済効果も大きい。

「本当に田舎のただのお祭り(笑)。でもこんなにも多くの人に見知っていただくことができて嬉しい」(西川)

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3月に取材した際、西川はイナズマについて語ってくれた。「恥ずかしい話ですけど、本当に田舎のただのお祭りですから(笑)、こんなにも広く多くの方に見知っていただくことができたというのは嬉しいです。と同時に、10年というのを目指してやってきたところもあるので、それを迎えて、今後このイベントをどういうものにしていきたいのかというところが、また問われていくと思っています」。 “ただのお祭り”から、西日本最大級のイベントに成長した、10回目のイナズマへかける思いは強かった。そしてこのフェスを立ち上げるきっかけになった最愛の母を昨年8月に亡くし、一周忌を迎えたという心情も大きい。「「イナズマ」の成功をきちんと報告することが、自分にできる唯一の供養かなと改めて思います。そういう意味でも今年は思いがひとしおの一年になると思います」と語っている。

abingdon boys school(9月23日)
abingdon boys school(9月23日)

23日はa.b.s.として出演。ラストナンバーの「キミノウタ」では、イナズマの10年、そして母親への思いが重なったのか、感極まり涙で歌えなくなった。すると客席から大合唱と大きな手拍子が沸き起こり、感動の波が広がっていった。思えば2016年、雷雨によるフェスの中止を自らステージでアナウンス。その翌年に「2016リターンズ」として1年前と同じ観客を集めて再開し、前年中止により演奏できなかったMAN WITH A MISSION、UVERworld、T.M.Revolutionの3組のライヴを行った。そのリベンジを果たしたのもつかの間、今度はイナズマ2017年本編の2日目が中止に追い込まれるなど、決して順風満帆ではなかったイナズマの10年が、西川の心をよぎったのかもしれない。

フリーエリアのステージから、メインステージの大トリへ。THE ORAL CIGARETTESの感動ライヴ

THE ORAL CIGARETTESと西川のコラボ(9月23日)
THE ORAL CIGARETTESと西川のコラボ(9月23日)

「イナズマロック フェス」は有料エリアと無料エリアで構成されている。有料エリアはメインステージ「雷神ステージ」があり、無料エリアには、アーティストやアイドルのライヴが行われる「風神ステージ」、ご当地キャラクターや若手芸人が出演する「龍神ステージ」、その他飲食ブースや滋賀県観光PRコーナー、キッズエリアなどが設けられ、一日中楽しめることから、地元の家族連れも多い。「風神ステージ」は、将来が期待されるアーティストが毎年出演することでも注目を集めている。23日、2日目のトリを務めたTHE ORAL CIGARETTESは、2013年このフリーエリアのステージ(当時はまだ「風神ステージ」という名前がついていなかった)に出演、2016年には「雷神ステージ」に初登場。そして今年はついに雷神ステージのトリとして登場し、圧巻のライヴを披露した。ボーカルの山中拓也は「ヤバいもう…最初から感動が止まらない。最初アウェーだった「イナズマロック フェス」も、今や本当にあったかいホームに感じます」と1曲目から万感の想いをパワーに変え、客席を熱狂させる。アンコールでは「Rel」を西川と共演。「俺らみたいな若造をトリにしてくれた西川さんの懐の広さに感謝」(山中)と話し、「風神ステージからスタートして、雷神ステージの大トリを務めたTHE ORAL CIGARETTESに大きな拍手を!」という西川の言葉に、メンバー全員が感極まっていた。

THE ORAL CIGARETTES同様、今シーンを牽引しているバンドの一組、04 Limited Sazabysも、2014年に「風神ステージ」に出演し、2016年に「雷神ステージ」に初登場以来、2017年、そして今年と、このフェスには欠かせないバンドに成長している。イナズマのフリーエリアをきっかけに大きくなっていく、そんなドラマもこのフェスは作っている。

お客さんのホスピタリティを一番に考え、フリーエリアを毎年見直し、改善。その積み重ねの10年

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そのフリーエリアだが、少しでもストレスなく快適に過ごして欲しいと、毎年エリアの見直しが行われており、今年はレイアウト自体がガラッと変わっていた。人の出入りをスムーズにし、全体を観やすく回遊できるよう、これまでより動線がわかりやすくなっていた。毎年の大掛かりな変更はスタッフの負担になるが、改善の積み重ねが10年間の歴史であり、進化でもある。また、今年は滋賀県の観光キャンペーン「虹色の旅へ。滋賀・びわ湖」の顔を西川がつとめており、県内を走る近江鉄道の車両に西川の写真がラッピングされていたり、県内各所に西川のポスターやパネルが飾られていた。例年にも増して、さらにこれからもイナズマが“地元密着”というイメージを、県民と県外から訪れるお客さんに伝えることができたのではないだろうか。

「また、会おうぜー!!」と11回目の開催を約束

9月24日、グランドフィナーレは、この日の出演者と共に、イナズマに欠かせないナンバー「Lakers」を歌い、大団円
9月24日、グランドフィナーレは、この日の出演者と共に、イナズマに欠かせないナンバー「Lakers」を歌い、大団円

24日、最終日。T.M.Revolutionとしてステージに立っていた西川は、11回目のイナズマの開催をファンに約束した。「毎年これを言ってるんですが…言った後にちょっと言わなきゃよかったかなって思ったりもしてるんですが(笑)。それでも、やっぱり言っちゃいます…また、会おうぜー!!」。

『イナズマロック フェス 2018』出演アーティスト

■9月22日(土)

[雷神STAGE]UVERworld / 欅坂46 /ゴールデンボンバー/西川貴教/LUNA SEA/ ROTTENGRAFFTY/和楽器バンド/ Lenny code fiction(O.A)

■9月23日(日)

[雷神STAGE]abingdon boys school / THE ORAL CIGARETTES /超特急/ NICO Touches the Walls /BiSH/Fear, and Loathing in Las Vegas/ 04 Limited Sazabys / Thinking Dogs(O.A)

■9月24日(月・休)

[雷神STAGE]HY/ENDRECHERI/KEYTALK/THE RAMPAGE from EXILE TRIBE/ Sonar Pocket/ T.M.Revolution /BLUE ENCOUNT /ベリーグッドマン(O.A)

西川貴教 オフィシャルサイト

T.M.Revolution オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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