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国際NGO「顔認識による特定個人を殺害するキラーロボットの脅威訴え」イラン核科学者暗殺にも活用か

佐藤仁学術研究員・著述家
(イラン・イスラム共和国軍提供)

AI技術の発展で向上した顔認識技術とキラーロボットへの応用

2021年12月にスイスのジュネーブで国連の特定通常兵器使用禁止制限条約(Convention on Certain Conventional Weapons: CCW)の会議が開催されて、自律型殺傷兵器について議論されていた。

AI(人工知能)技術の発展とロボット技術の向上によって、軍事でのロボット活用は進んでいる。戦場の無人化が進むとともに「キラーロボット」と称される人間の判断を介さないで攻撃を行う自律型殺傷兵器が開発されようとしている。

今回のCCW会議を前に、人間の判断を介さないで標的を攻撃することが非倫理的・非道徳的であることからキラーロボットの使用や開発に反対している国際NGO団体のキラーロボット反対キャンペーンは動画を制作してキラーロボットの脅威を訴え、使用と開発禁止に向けて、国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルと共同で署名を世界中で集めていた。

その動画の中でも強調していたのがAI技術の発展によって顔認識技術が向上したことによって、顔認識されてキラーロボットに攻撃されてしまうことの脅威だった。顔認識技術の発展によって、瞬時にどの人かを判断して、その人を標的にした攻撃することも技術的には容易になってきている。

▼キラーロボット反対キャンペーンの制作した動画

イランの核科学者を特定して移動している車内で殺害:NYT報道

AI技術の軍事への活用は積極的に行われており、アメリカ、中国、ロシア、イスラエル、トルコなどでは自律型兵器の開発が進められており、現実的な兵器となってきている。

顔認識技術を活用したキラーロボットによる殺害もSF映画の世界だけでなく、すでに現実の脅威である。2020年11月にイランの核科学者のモフセン・ファクリザデ氏が自動車に乗っている時に殺害されるという事件が起きた。当時、イスラエルとイラン国外の反体制派による犯行で人工衛星経由でコントロールされたキラーロボットによって実行されたと報じられていたが、イスラエル政府は当然否定していた。

そして約1年後の2021年9月にはアメリカのメディアのニューヨーク・タイムズの報道によると、イランの核科学者のモフセン・ファクリザデ氏の暗殺に使用されたのはベルギー製のFN MAG機関銃にAIと複数のカメラを搭載し1分間に600発の弾丸を発射できるキラーロボットで衛星経由でコントロールしていたということだ。そして機関銃に搭載されたAIとカメラセンサーで車内のモフセン・ファクリザデ氏を顔認識機能で識別して射殺した。たしか同乗していたモフセン・ファクリザデ氏の妻や関係者は無傷だった。ニューヨーク・タイムズによると、証拠隠滅のためにキラーロボットは爆破されたが、本体部分が爆風で車外に放りだされたので判明したと伝えている。

これからも顔認識技術の発展によって特定の個人を識別して殺害したり、特定の民族やジェンダーを標的にして攻撃を行うことが容易になってくるだろう。

現在、人間の判断を介さないで標的を攻撃することが非倫理的・非道徳的であるということから国際NGOや世界で30か国が自律型殺傷兵器の開発や使用に反対しているが中小国がほとんどだ。アメリカやロシアなど大国は開発も使用も反対していないため、国際社会での足並みがそろっていない。中国は自律型殺傷兵器の使用には反対しているが、開発には反対していないことから、おそらく開発は進められているだろう。CCWでも一致した結論は出ずに「これからも自律型殺傷兵器の開発や使用については継続して協議をしていく」こととなった。

▼モフセン・ファフリザデ氏の殺害現場

写真:ロイター/アフロ

写真:ロイター/アフロ

▼モフセン・ファフリザデ氏の葬儀

提供:Iranian Defense Ministry/WANA/ロイター/アフロ

写真:ロイター/アフロ

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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