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日本は「ものすごくチープに旅行できる国」ただ“おもてなし”は限界に達し...。米主要紙報じる

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
観光客に人気の京都・嵐山の景色(イメージ写真)。(写真:アフロ)

人混み、交通渋滞、騒音、ゴミの散乱から、はたまた神社を乱雑に参拝したり執拗に舞妓を追いかけ回したりなどの迷惑行為まで…毎日のように日本のオーバーツーリズムがメディアやSNSで話題になっている。

この問題はアメリカにも届いており、米主要紙も記事として取り上げている。

10日付のニューヨークタイムズは「Japan Likes Tourists, Just Not This Many(日本は観光客が好き。これほど多すぎなければ)」と、4面全ページを使って大きく報じた。

「もはや在りし日の京都ではない。ここはテーマパークではない」(地元の人の声)

記事はこのように説明している。

「日本は長年、海外からの旅行者を丁寧に扱ってきた。しかしこれまで観光客がいなかった場所にも多くの人々が殺到するにつれ、住民の中には不満を抱く人も出てきた」

京都の私有地を勝手に歩く人や執拗に舞妓を追いかけ撮影するパパラッチ、また山梨・富士河口湖のローソン前に殺到する人、富士山の登山ルートや東京、広島などで発生している大混雑、ごみの散乱、食べ歩きや外飲み、騒音など、たびたび問題になっているオーバーツーリズムの弊害を紹介している。

今年1月、ニューヨークタイムズに「行くべき52の場所」の3番目に取り上げられた山口市。以来、海外からの観光客も急増しているという。

コロナ禍で来日できなかった人が円安の好条件をきっかけに大挙して日本を訪れている。今年3月には訪日外国人旅行者は初の300万人を突破した。この数は1ヵ月としては過去最多となり2019年の同月と比べ10%増加した。

一方で「外国人訪問客の傍若無人な振る舞いや騒動は、礼儀正しい日本社会において人々がどのくらい忍耐力があるかを試すものになっている」と記事は述べている。

「もはや在りし日の京都ではない。ここはテーマパークではない」と地元の人が言うように数々の不満が鬱積する中、「それでもコロナ禍でしばらく商売上がったりだった日本の観光地が、観光需要の回復期に海外からの訪問客に頼らざるを得ない現実がある」とした。

ワシントンポストも先月、「Japan, famously polite, struggles to cope with influx of tourists(礼儀正しいことで知られる日本は観光客の流入に苦戦)」と報じた。

外国人にとって日本は「ものすごくチープに訪れることができる場所」

記事は日本について「本来は心からゲストを気遣い“おもてなし”の精神を誇りにしている国」と紹介。しかしコロナ禍以降のオーバーツーリズムにより「世界に名高い日本のおもてなしは限界に達している」。

円安について同紙は「着実に弱体化した日本円。過去5年間で米ドルに対して40%以上価値が下がり、日本はものすごくチープに訪れることができる場所」と説明。昨年、日本を訪れた観光客は約2510万人と驚異的な数で、2022年から6倍も増えた。

日本が多くの外国人にとって安く旅行できる国になった今、「富士山や京都などでは、膨大な数の観光客が大混乱を引き起こし、混雑抑止のために極端な対策が取られている」とし、富士山が見えるローソン前に巨大なスクリーンが設置されたり、広島のある飲食店が金曜のディナータイムを地元の人だけに開放したり、普段は鹿せんべいをアグレッシブに求める奈良の鹿が満腹状態となりもはやおやつに無頓着になっている現実を紹介した。

外国からの旅行者がもたらすものは弊害ばかりではない。観光庁によると、今年第1四半期の訪日旅行者の支出は114億ドル(1兆7500億円)に上り、四半期ベースでは過去最高を記録した。訪日外国人1人当たりの旅行支出(観光消費額)は平均1300ドル(20万8760円)で、2019年の同時期と比べて41.6%増加するなど、日本経済にとってはメリットをもたらしている。

一方で日本の“おもてなし”の観点では「もがいている」と同紙。

「おもてなしは日本のサービス精神の根幹だ。心のこもったおもてなしと隅々まで行き届いたサービスは日本に到着した瞬間から感じることができる。ホテルや飲食店のみならず、到着した飛行機の窓から見える滑走路にいるスタッフのお辞儀姿、タクシー運転手の白い手袋、最安値のコーヒーにさえ無料で付いてくる個包装のウェットティッシュ一つにまで…」

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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