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ロイヤルウェディング究極のエチケットとは メーガン・マークルさんとヘンリー英王子の挙式 専門家が解説

木村正人在英国際ジャーナリスト
5月19日に結婚式を挙げるメーガン・マークルさんとヘンリー英王子(筆者撮影)

ロイヤル・カーツィー

[ロンドン発]英王室のヘンリー王子(33)と米女優メーガン・マークルさん(36)の結婚式が迫ってきました。英王室伝統のエチケットに精通しているウィリアム・ハンソン氏が17日、ロンドンで記者会見し、結婚式でのエチケットについて解説してくれました。

「開かれた英王室」になったとは言え、王室はエチケットにはうるさく、ヘンリー王子が少しずつ英王室伝統のエチケットをメーガンさんに個人指導していると報じられています。

昨年末のクリスマスにはエリザベス女王に対してキャサリン妃と一緒に膝を曲げて軽く会釈をするロイヤル・カーツィーを初披露する愛らしいメーガンさんの姿が放送されました。

メーガンさんがロイヤル・カーツィーを練習して備えていたのは明らかです。5月19日にロンドン郊外のウィンザー城にある聖ジョージ礼拝堂で執り行われる2人の結婚式には家族と友人、市民が招かれていますが、守らなければならないエチケットはあるのでしょうか。

ハンソン氏は集まった報道陣と一緒にロイヤル・カーツィーのやり方を練習したあと、こう話しました。

「ロイヤル・プロトコルは前例を踏襲することです。メーガンさんが、自分が振る舞いたいように振る舞うと微妙な違いが出てきます。英国民なら国家元首のエリザベス女王にロイヤル・カーツィーをしなければなりませんが、メーガンさんはまだ英国民にはなっていないはずです」

クリスマスに女王に対してロイヤル・カーツィーをしたのは、ヘンリー王子と結婚して英王室に入り、英国民になるという意思を示したとみることができそうです。筆者が「メーガンさんはアメリカとイギリスの二重国籍を保有することは可能ですか」と質問すると「メーガンさん次第です」という回答でした。

民主党代表だった蓮舫氏の二重国籍が大問題になった日本と違って、英王室はおおらかです。

「Ms.(ミズ)」と初めて呼ばれたメーガンさん

しかし、誰に対してロイヤル・カーツィーをするかしないのかはメーガンさんがヘンリー王子と一緒にいるのかいないのかで異なり、日本の敬語、冠婚葬祭のルール以上に複雑です。伝統的なロイヤル・プロトコルでは王族は人前で手をつなぎませんが、ヘンリー王子とメーガンさんは人前でもフランクに手をつなぎます。結婚式でも手をつなぐかどうかが一つの見所です。

これまで女性は既婚女性なら「Mrs.(ミセス)」、未婚女性であれば「Miss.(ミス)」と呼ばれていましたが、離婚経験のあるメーガンさんは初めて「Ms.(ミズ)」と呼ばれています。ハンソン氏はテリーザ・メイ首相が結婚式に招待されなかったことについて「残念です。イギリスの首相は招待されるべきでした」という見方を示しました。

ウィリアム王子とキャサリン妃の結婚式に出席したデービッド・キャメロン首相(当時)のサマンサ夫人はドレスコードである帽子を着用していませんでした。イギリスはまだまだ階級社会ですが、次第に厳格なロイヤル・プロトコルは崩れています。離婚経験者でアフリカ系アメリカ人の母を持つキャリアウーマンのメーガンさんが英王室のメンバーに加わることでお硬い英王室の伝統はさらに柔軟になっていくでしょう。

ニコチンガムを噛んで批判されたキャサリン妃の母親

王位継承順位2位のウィリアム王子と結婚したキャサリン妃の場合、家族や親せきが意地の悪い英メディアの批判にさらされました。

キャサリン妃の叔父さんで、お金持ちの実業家グレイ・ゴールドスミス氏は昨年10月、4人目の妻を殴ったとして逮捕されました。ウェストミンスター治安判事裁判所で5000ポンド(約76万8000円)の罰金とアルコール中毒のリハビリを受けることを命じられたことがニュースになりました。

キャサリン妃の母親キャロル・ミドルトンさんは英航空会社ブリティッシュ・エアウェイズの客室乗務員として勤務していた時に知り合った男性と結婚。パーティーに必要なグッズの通信販売を始め、大成功します。

コモナー(一般人)の娘キャサリン妃がウィリアム王子と結婚することになり、本来なら自立した女性のロールモデルとして称賛されるべきキャロルさんは逆に「礼儀知らず」と英メディアの厳しい目にさらされます。

キャロルさんはウィリアム王子の陸軍士官学校卒業式でニコチンガムを噛んでいるのを批判され、一時は2人の破局の原因とまで叩かれました。

英メディア「メーガンさんは奴隷の子孫」

メーガンさんの家族もイギリスの保守系大衆紙デーリー・メールに徹底的にたたかれました。メーガンさんの母親ドーリア・ラグランドさんがアフリカ系であることから「奴隷の子孫」と報じられました。

チャリティー活動に熱心なメーガン・マークルさんとヘンリー王子(筆者撮影)
チャリティー活動に熱心なメーガン・マークルさんとヘンリー王子(筆者撮影)

メーガンさんの父親トーマス・マークル氏はTV照明技師として成功を収めましたが、2016年に2万4181ポンド(約372万円)のクレジットカードの負債を抱えて自己破産を申請。貯金は160ポンド(2万4600円)しかないそうです。現在はメキシコに住んでおり、スターバックスでイギリスのガイドブックを読んで準備している様子が報じられました。

トーマス氏は結婚式でメーガンさんの手を引いてエスコートするのを希望しているそうです。しかし英王室が、トーマス氏がエスコートするのかしないのか明らかにしないため、トーマス氏側の家族や親せきが理由を公表するよう英メディアを通じて迫っています。

メーガンさんは父親トーマス氏側の家族や親せきとは疎遠で、多発性硬化症を患う義理の姉サマンサ・グラントさんは暴露本を出すと息巻いています。メーガンさんが公式の婚約写真で5万6000ポンド(860万円)もするドレスを披露した際、サマンサさんは「もしドレスに使う金があるなら、どうして父親のために使ってやらないの」と批判しました。

トーマス氏を除いて父親側の家族や親せきは結婚式には招かれておらず、サマンサさんは「全く付き合いのない2000人を結婚式に招待するなら、どうして30年来付き合いのある親せきや家族を招かないの。家族は家族よ」とさらに批判をエスカレートさせています。

カメラシャイだったダイアナ元妃との対比

1992年、チャールズ皇太子と故ダイアナ元皇太子妃の結婚生活の破綻を暴露したミリオンセラー『ダイアナ妃の真実』で世界中にセンセーションを巻き起こし、このほど新著『メーガン:ハリウッドのプリンセス』を出版した英作家アンドリュー・ モートン氏はメーガンさんについてこんな見方をしています。

「メーガンさんは奴隷と王様の子孫」というアンドリュー・モートン氏(筆者撮影)
「メーガンさんは奴隷と王様の子孫」というアンドリュー・モートン氏(筆者撮影)

「メーガンさんはウィンザー城で生まれたエドワード3世(イングランド王、1312~1377年)の24代目の子孫です。だから奴隷(母親方の祖先)と王様(父親方の祖先)の子孫だということです」

アメリカで異人種間の結婚が合法化されてから生まれた世代を「ラヴィング世代(Loving Generation、異人種間結婚を禁じる法律の無効を訴えた被告の姓に由来)」と呼びます。そのラヴィング世代のメーガンさんは奴隷と王様の血を引いているというのです。

モートン氏によると、カメラシャイだったウィリアム王子とヘンリー王子の母親、ダイアナ元妃と違って、女優のメーガンさんはカメラにどう映るか知り尽くしています。メーガンさんこそ、ダイアナ元妃がもがき苦しんだ末にようやくたどり着いた「バランスと自信を兼ね備えた女性像」だと言います。

「しかし、その一方でこんな冷たさも」とモートン氏は指摘します。最初の夫で映画プロデューサーのトレバー・インゲルソン氏とは2011年に結婚。人気TVシリーズ「Suits(スーツ)」に出演、レイチェル役で人気が出たメーガンさんは撮影現場のトロント、夫はロサンゼルスという遠距離の結婚生活が始まりました。

しかし、すれ違い生活のため、インゲルソンさんのメーガンさんに対する愛情は「いつしか、彼女の靴底にひっついた何かになったような気持ちになった」(『メーガン:ハリウッドのプリンセス』より)と言います。メーガンさんがダイヤの婚約指輪と結婚指輪をインゲルソン氏に郵便で送り返し、結婚生活は2年で突然、終止符を打ちます。

女優、アクティビストとしてのキャリアを登ってきたメーガンさんは後ろを振り返りません。それが過去の友人や夫、父親トーマス氏側の家族や親せきには非常に冷たく映っているようです。

火災で71人の死者を出したグレンフェル・タワー(筆者撮影)
火災で71人の死者を出したグレンフェル・タワー(筆者撮影)

メーガンさんは今年2月、死者71人を出したロンドンの高層住宅グレンフェル・タワー火災の被災者を極秘で見舞いました。ホームレスの施設を突然訪問したダイアナ元妃を思い起こした人もきっと多かったでしょう。英王室伝統のエチケットより、ヘンリー王子に対するメーガンさんの愛と優しさの方が大切なのは言うまでもありません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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