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ヤマトのメール便とネコポスを郵便が配送、人口減少と偏在化が進む中で宅配便大手のアライアンスが進行

森田富士夫物流ジャーナリスト
大手宅配便会社間のアライアンスが進む(写真:イメージマート)

 日本郵政、日本郵便とヤマトホールディングス、ヤマト運輸は、物流をめぐる各種社会課題の解決に貢献し、持続可能な物流サービスを推進していくための協業に関する基本合意書を締結した。

 発表によると協業の主旨は、両社の経営資源を有効活用することで顧客の利便性を向上し、事業の成長を図る。同時にトラックドライバー不足やカーボンニュートラルへの対応などである。

 具体的には、メール便領域と小型薄物荷物領域で協業化する。メール便領域では、ヤマト運輸の「クロネコDM便」のサービスを2024年1月31日で終了し、日本郵便の「ゆうメール」を活用した新サービス「クロネコゆうメール(仮称)」をヤマト運輸が開始する。

 また、小型薄物荷物領域では、ヤマト運輸の「ネコポス」を2023年10月から順次終了し、日本郵便の「ゆうパケット」を活用した「クロネコゆうパケット(仮称)」として取り扱いをする。同サービスは2024年度末を目途にすべての地域で利用できるように移行していく。

 「クロネコゆうメール」も「クロネコゆうパケット」も、ヤマト運輸が顧客から荷物を受け取り、日本郵便の引受地域区分局に持ち込んで、日本郵便のネットワークで配送する。

2022年10月1日現在で日本人人口は1年間に75万人減少し11年連続で減少幅が拡大、人口の偏在化も進み過疎進行地域では宅配効率が低下

 今回の協業の根底にあるのは日本の人口減少だ。

 総務省が発表した2022年10月1日現在の日本の総人口は1億2494万7000人で、前年から55万6000人の減少だった。人口減少は12年連続である。このうち日本人の人口は1億2203万1000人で、前年に比べて75万人も減少した。減少幅は11年連続で拡大している。

 以下は日本人の人口だけをみるが、1年間に75万人も減少することがいかに大変なことか。総務省が同時に発表した都道府県別の日本人の人口は、一番少ない鳥取県が53万9000人。続いて島根県64万8000人、高知県67万1000人、徳島県69万8000人、福井県73万8000人、山梨県78万4000人、佐賀県79万3000人である。5番目に少ない福井県よりも1万2000人も多い人が1年間に減っているのだ。

 さらに人口の偏在化が進んでいることも、宅配の非効率化につながる。2021年10月1日時点では、1年間に人口が増加したのは沖縄県だけだった。転入者より転出者が多い社会減少だったが、死亡者より出生者が多い自然増加が上回ったために、トータルで沖縄県は人口が増加した。

 だが、2022年10月1日では、1年間に人口が増加したのは東京都だけである。東京都は自然減少だが社会増加だったのでトータルで人口増加になった。前年はコロナの影響で東京からの転出者が増えて人口が減少したが、その後、社会増加に転じつつある。

 その他、自然減少だが社会増加した道府県をみると、大都市のある府県への人口流入がみてとれる。このような人口の偏在化の進行は、都道府県内あるいはもっと狭域の市町村内においても同じような傾向がみられる。同一自治体内でも生活インフラの整っている地域に人口が集中する傾向である。

 これは物流とりわけラストワンマイルの宅配においては、配送密度の地域間格差が大きくなり、非効率化につながってくる。

 ヤマトホールディングスの有価証券報告書(2023年3月期)によると、「地域の過疎化によるリスク」のなかで以下のように書かれている。「過疎化や高齢化が進む地域では、配送効率の低下や集配を担う人材不足が顕在化しており、今後、地域経済が縮小することにより地域社会インフラの衰退などの問題が深刻化する場合や、そのような地域における収益性が低下することで、中長期的な観点で全国をきめ細かくカバーする物流ネットワークの維持が困難になる場合、ヤマトグループの経営成績等に影響を与える可能性があります」。そして「物流ネットワーク全体の生産性を向上させるため、都市部を中心とした拠点の集約・大型化」など「既存ネットワークの強靭化に取り組んで」いく。

 今回の日本郵便との協業化もこのような認識と方針に基づいていると思われる。

郵便受けに配達する小型薄物荷物領域は一般の宅配便より単価が安いが、フリーマーケットの拡大などでCtoCの荷物が増加

 国土交通省の「宅配便取扱個数の推移」によると、2021年度の宅配便取扱個数(トラック)は48億8200万個で、前年度比102.0%だった。宅配便各社の取扱個数は、ヤマト運輸が22億7562万個(前年度比108.5%)で、シェアは46.6%。佐川急便は13億6918万個(101.6%)で、シェアは28.0%。日本郵便が9億8858万個(90.6%)で、シェアは20.2%である。

 一方、メール便は2021年度が42億8700万冊(前年度比101.1%)である。そのうち日本郵便が33億4630万冊(101.4%)で、シェアは78.1%。ヤマト運輸は8億2438万冊(99.8%)で、シェアは19.2%である。このようにメール便では日本郵便が圧倒的に強い。

 ヤマト運輸は2021年度にメール便が微減だったが、宅配便では8.5%の増だった。だが、内訳をみると「宅急便・宅急便コンパクト・EAZY」は1.9%の伸びなのに「ネコポス」は7.4%と伸び率が高い。

 一方、2023年3月期における荷物1個の平均単価では、「宅急便・宅急便コンパクト・EAZY」が703円なのに対し、「ネコポス」は189円となっている。同じく「クロネコDM便」の単価は76円である。

 このように「ネコポス」は「宅急便」に比べて単価が安い。また「クロネコDM便」はメール便なので当然だが単価がもっと安いうえに2021年度は取扱個数が微減だった。つまり、ラストマイルを日本郵便の配送網に委託する荷物は、ヤマト運輸にとって生産性の低いサービスなのである。一方、信書が減少している日本郵便にとっては、ヤマト運輸のメール便や小型薄物荷物の配送を受託すれば、配達密度を高めて生産性を向上することができる。

 ところで、国土交通省の宅配便取扱個数は宅配便会社が取り扱う宅配荷物についての集計であって、自社で構築したネットワークで宅配をしている大手ネット通販会社の宅配荷物の個数は含まれていない。したがって「宅配便の個数」と「宅配の個数」はイコールではない。この間、ネット通販会社の宅配個数は増加してきたが(2022年度については物価高騰の影響もあって減少していると思われる)、国土交通省集計の宅配便取扱個数の推移には、その一部しか反映されていない。宅配便以外で配達されているネット通販の荷物はかなり多いのである。

 また、経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」では、BtoC-ECのほかに個人間EC(CtoC-EC)の市場規模も推計されている。それによると2021年のCtoC-ECの市場規模は2兆2121億円で前年比112.9%となっている。これは「メルカリ」などのフリーマーケットで、主に「ネコポス」など小型薄物荷物領域のサービスが利用されている。

 ヤマト運輸の宅配便取扱の内訳をみても、単価の安い「ネコポス」の伸び率が高くなっている。また日本郵便の「ゆうパック」の取扱個数の内訳をみると、以前から「ゆうパケット」の比率が高かった。

宅配便大手3社といっても各社各様に得手不得手があり、それぞれの強みを活かせるようなアライアンスが進行

 実は宅配便大手3社といっても、それぞれに得手不得手がある。佐川急便は企業間(BtoB)の小さな荷物から出発し、そのネットワークにネット通販などBtoCの荷物を載せるという形で事業展開をしてきた。そのためCtoC領域の取り扱いを積極的にはしてこなかった。そこで2021年9月には日本郵便との協業を発表。当時の発表内容によれば日本郵便の「ゆうパケット」を活用したサービスの取り扱いを始める、ということだった。

 それに対してヤマト運輸の「宅急便」は、そもそもは個人間(CtoC)の小さな荷物から出発している。その後、企業から個人(BtoC)への荷物が増えてきたが、個人宅への宅配(toC)を得意としている。

 一方、日本郵便は手紙やはがきなど信書のCtoCの配達ネットワークが事業ベースである。この信書が減少している中で、信書や「ゆうパケット」と同じように郵便受けに届ける小型薄物荷物領域の「ネコポス」を一緒に配達することになれば配送効率の向上が図れる。そしてヤマト運輸は単価の高い「宅急便」に労力を集中するというのが今回のアライアンスの狙いといえる。

 一般の宅配便は業界用語で「ハンとり」といわれる、手渡しでサインをもらうのが原則だった。最近は再配達を減らすために置き配や宅配ボックス、その他の非対面の荷渡しへの移行が進んでいるが、そもそもは対面の荷渡しだったのである。

 それに対して「ゆうパケット」や「ネコポス」、メール便の「クロネコDM便」は郵便受けに配達するだけでサービスが完結する。郵便受けへの配達を得意にしている日本郵便に、メール便や小型薄物荷物のラストマイルを委託すれば、お互いに効率的で生産性が向上する。

 人口の減少と偏在化が進むという日本社会の構造的な変化、さらに当面する課題としてはドライバー不足への対応などから、大手宅配便会社間での事業インフラの違いなどが鮮明になってきた。そこで、それぞれの得手不得手に応じたアライアンスが進行している。

 その結果、非信書のメール便も実質的には日本郵便1社に集約される。筆者の取材した範囲では、いまでいうメール便を本格的に始めたのは首都圏の中小運送事業者で構成する協同組合で、1983年だった。通信販売の商品の配送業務を請け負っていた事業者たちである。当時はネット通販ではなくカタログ通販だったが、販促ツールのカタログやDMなどは信書ではないので民間が配達してもかまわないだろうとサービスを開始したのが最初だ。

 その後、ヤマト運輸がサービスコンセプトを明確にした「クロネコメール便」を1996年6月から開始し、メール便という呼称が一般的になってきた。おりしも郵政民営化などの動向とも相まって非信書のメール便を取り扱う事業者が急増。国土交通省は2000年4月27日づけの通達でメール便を定義した。

 そのような経緯を経て、非信書のメール便も今後は日本郵便に実質的に1本化されることになる。

物流ジャーナリスト

茨城県常総市(旧水海道市)生まれ 物流分野を専門に取材・執筆・講演などを行う。会員制情報誌『M Report』を1997年から毎月発行。物流業界向け各種媒体(新聞・雑誌・Web)に連載し、著書も多数。日本物流学会会員。

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