世界一可愛い妖怪?心を読む能力と剣術に長けているのにポンコツな「鴉天狗」の伝説を紹介
古来より日本では、人間の理解を超える奇怪で異常な現象や科学的に証明できないことを妖怪のしわざとして言い伝えてきた文化があります。
現代まで語り継がれてきた妖怪には、人間に悪意をもって接するものから、友好的なものまで様々。そのなかには、古来より日本各地に伝説が残る「鴉天狗(カラスてんぐ)」のようなカラスと天狗を合体させ、疑似化したものもいました。
今回は、そんな鴉天狗にまつわるエピソードを紹介します。
鴉天狗とは
鴉天狗とは、山伏装束を身に纏った、カラスのような嘴(くちばし)を持つ空想上の生きものです。
アニメや映画などで、大きなウチワを使って滑空するシーンを見たことがある方も多いのではないでしょうか。
そんな鴉天狗は手先が器用で、剣術の扱いにも長けていたのだとか。
このことを裏付けるように、京都では「鞍馬山に住まう鴉天狗が幼き頃の源義経に剣技を教示した」という伝説が残されているほどです。
源義経といえば、屋島の戦いや弁慶との一騎打ちで功績を残した「戦の天才」と称される平安時代屈指の武将です。
そんな人物に剣術を教えた鴉天狗は、かなりの手練れだったのかもしれません。
また、大山地方に伝わる鴉天狗は「心の内を読み取る能力」を持つとされていますが、人間に直接危害を加えてくることはなかったようです。
鴉天狗の天敵は人間?
類まれなる剣術の才能や飛翔能力、心を読み取る能力まで兼ね備えた鴉天狗は、妖怪のなかでもトップ層の実力を持っていたのではないでしょうか。
しかし、そんな鴉天狗にも弱点はありました。
鴉天狗が思わず逃げ出してしまった伝説がこちらです。
ある日のこと、鳥取県にある大山の麓で1人のきこりが仕事をこなしていました。 すると、木と木の合間から鴉天狗がニョッキリと現れたのです。 驚いたきこりですが、「これは珍しい生きものだ。なんとか生け捕りすることはできないか」と心の中で考えはじめました。 すると、鴉天狗は「きこりよ、ワシのことを生け捕りしようと考えているだろう」と言ったのです。 心の内を言い当てられたことに不気味がったきこりは、何も考えることなくひたすら仕事を続けることに。 しばらくの間、鴉天狗はきこりの様子を見て面白がっていました。 そのとき、無心で木を伐採するきこりの方から木片が飛んできたのです。鴉天狗は腰を抜かすほど驚き、不気味がってそそくさと逃げ去ったといいます。
無心で作業を続けながら木片を飛ばしてきた人間は、心を読むことができる鴉天狗にとって、よほど不気味な存在に映ったのかもしれませんね。
間抜けな鴉天狗
次は、人間の子供にまんまと騙されてしまった間抜けな鴉天狗のお話です。
1人の少年が杖をつきながら山を登っているときのことです。 少し離れたところにウチワを扇いで、空を飛んだり降りたりして遊んでいる鴉天狗が見えました。 そんな鴉天狗のウチワが欲しくなった少年は、持っていた杖を望遠鏡のように覗いて「京都が見えるぞ!江戸が見えるぞ!あっちは大阪だ!」とはしゃいで見せたのです。 少年の様子を見た鴉天狗は、少年の持っている杖がたまらなくほしくなってしまいます。 迷った挙句、持っていたウチワと交換して少年の杖を貰うことに…ウチワを受け取った少年はすぐさま空に飛んで行ってしまいました。 そんなことに気が付かず、鴉天狗は大喜びで杖を覗いてみます。 しかし、なにも見えないではありませんか。 その後、しばらくしてから鴉天狗は騙されたことに気づいたのだとか。
人間の子供にまんまと騙されてしまった鴉天狗。
一見すると強力な能力をもった妖怪のようにも思えますが、もしかすると人間のように好奇心旺盛で、天然の部分も持ち合わせた可愛い生物なのかもしれませんね。