今季打者単体のWARが大幅に増加している大谷翔平の市場価値が更に高まっていると考えられる背景
【早くもMVP争いで独走態勢を整え始めた大谷選手】
6月に入り、大谷翔平選手の快進撃が止まらない。
首位地区のレンジャーズとの4連戦では、打者として12打数7安打(うち4本塁打)8打点と爆発し、最終戦に登板した投手としても、現在チーム得点MLB1位の強豪打線を相手に、6回を投げ6安打2失点3三振に抑える好投で今シーズン6勝目を挙げている。
二刀流ならではの投打にわたる活躍で、チームが3勝1敗で勝ち越す原動力となった。この4連戦を機に、チームも本格的にポストシーズン争いに加わるようになり、すでに大谷選手はア・リーグMVP争いで他の追随を許さない独走態勢を整えつつある。
例えばESPNが報じているところでは、ア・リーグMVP予想は大谷選手がマイナス300でトップを走り、2位のアーロン・ジャッジ選手(プラス1200)に圧倒的大差をつけている。
【選手の活躍度を示すWARでもMLBを独走中】
もちろん大谷選手の異次元の活躍ぶりは、データ上でもしっかり裏付けされている。選手の活躍度を示す指標として一般的になっている「WAR(Wins Above Replacementの略)」でも、MLB全体で断然トップを走っているのだ。
データ専門サイト「Fan Graphs」が発表している6月15日の公式戦終了時点でのWARを見ると、大谷選手のWARは4.2でMLBトップを走っている。
ちなみに2位に入っているのは、MLB史上初めて開幕70試合で「15本塁打&30盗塁」に到達したロナルド・アクーニャJr.選手だが、彼でもWARは3.4に止まっているほどだ。
大谷選手の場合、打者と投手の両面でWARを伸ばしていくことができるという有利な面がある。それでも試合に出場するだけではWARを伸ばしていくことはできないし、しっかり活躍できなければ逆にWARが減っていくこともある。それだけ他の選手よりも負担が大きいというわけだ。
【今シーズンは打者WARが投手WARを圧倒】
ところで今シーズンの大谷選手のWARを見ると、例年とは違った傾向が現れているように思う。
ちょっと下記の表を見てほしい。ジョー・マドン前監督の発案で二刀流の起用法が限定解除された2021年以降の投手、打者、全体のWARを比較したものだ(括弧内はMLB全体の順位)。
投手WARと打者WARの割合を見てみると、2021年が3:5で、2022年が3:2と比較的バランスよく均衡しているが、2023年に関しては3:7と打者WARの割合が大きく上回っているのだ。
あくまでシーズン途中のデータであり、今後この割合も変化していくはずだが、打者単体でMLB8位にランクするWARを記録していることはやはり特筆すべきことだろう。
【打者としての大谷選手の質が明らかに向上】
たぶん説明は不要だと思うが、その背景には6月に入ってからの打撃好調ぶりが大きく影響している。
6月15日時点で打率.426、7本塁打、16打点を記録するとともに、OPS(出塁率と長打率を足したもの)に至っては1.460と、まったく手がつけられない状態で打ちまくっている。
だが単純に打ちまくっているだけでなく、レンジャーズ4連戦でも大谷選手が放った4本塁打中3本が、同点、決勝、ダメ押しと勝敗を左右する場面で記録されたものだ。
前述通り打者WARがMLBトップクラスに入っていることでも分かるように、今シーズンの大谷選手の打撃は質という面で、確実に向上していることを意味している。
【今も上昇し続ける大谷選手の市場価値】
シーズン終了後にFAとなる大谷選手の獲得を目指しているチームにとって、打者としての質が上がっている傾向は大歓迎でしかないだろう。迷うことなく長期間の大型契約をオファーできるからだ。
昨今の大物FA選手たちの契約状況を見ると明らかなように、ほぼ40歳前後まで保証されている長期契約で合意している。ただ大谷選手がそうした年齢まで二刀流を続けられる可能性は低く、いつかは二刀流を諦める時機が訪れると誰もが想定しているところだ。
それが大谷選手の契約問題の1つの懸念事項だと考えられていた。
仮に二刀流を諦めることになった場合、投手専念になったとしても他のエース級投手のように中4日でローテーションを回せるか未知数であることを考えると、必然的に打者専念という可能性が高くなる。
それらを踏まえた上で今シーズンの大谷選手は、ここまで打者単体でもMVP争いに加われそうなWARを残す打撃を披露し続けているわけだ。つまり二刀流でなく打者大谷選手としても、高額年俸に見合う選手だと証明しているようなものなのだ。
すでに米メディアの間では、MLB史上初めて契約総額が5億ドルを超えることが確実視されている大谷選手。彼の市場価値はまだまだ上がっていきそうだ。