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84歳現役弁護士に聞く「生涯現役のススメ」後編

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

倉重:生涯現役を貫く上での体力づくりはどうされてますか?

森田:やはり体力づくりというのは40代から始めないと間に合いません。テレビに出て来る人たちで、70、80になって運動しています。これも貴重だとは思いますが、その基になるのはやはり40代から始めないと、とても活性化はできないのではないかと思います。

倉重:先生は40代のころはどのようなことをされていましたか。

森田:40代末になって、自分で独立したときにやはり自分の時間というのは貴重だと思いました。自分の時間は勤務している限り勝手なことはできません。でも自分で独立して、自分の責任で弁護士の業務をやる以上、その時間の配分を考えて、自分で体力づくりをする時間、ストレスを発散する時間、趣味に集中する時間をきちんと区分けして、それで始めたということがあります。

倉重:体力づくりとメニューという意味ではどういう訓練を始めましたか?

森田:まず山へ行って歩きます。それは決して高い山に行くということだけではなくて1日数時間、1週間に1回行かないと体は不調を来します。2週間過ぎて山へ行くと、ここはこの間来たときは1時間で歩いたのが、今回は1時間10分、そこでもう休みたくなってしまう。

倉重:筋力が落ちているわけですか。

森田:そう、筋力が落ちているのではないか、そのように思います。

森田:山は体力づくりも兼ねてということですね。

森田:そうです。体力づくりが主たる目的と言ったほうがいいかもしれません。

倉重:先生は今でも事務所でスクワットや腕立て伏せなどをされていますね。初めて見たときはびっくりしました(笑)

森田:スクワットは、もともとはケンケンをしたり、腹筋運動をしたりしていたのですが、ケンケンをやるとやはり筋力が落ちているのでしょうね、肉離れを起こしたりします。

倉重:ケンケンというのは片足で立つアレですか?

森田:片足でタップを踏みます。ただし、それはやめて、スクワットで何とかという感じです。

倉重:すごいです。なかなか84歳で法律事務所の中でスクワットをする人はいないと思います。

森田:これはまた心がけ、前向きな気持ちを持たずには84歳で元気でやるわけにいかないねと考えています。

倉重:40、50代は将来を見据えた体力づくりをするべきである、それから趣味を持つべきであるという話だと思います。それではいざ、60の定年を迎えた人にはどのようなアドバイスというか、声を掛けるとしたらどうしますか。

森田:知力・気力・体力というのはやはり一致しているものであって、どれが欠けても駄目だと思います。例えば20代、30代で仕事に不満を持ちながら、あなたがよく言うローテーション人事で不満を持ちながらやっているというのは絶対によくないです。そうではなくて、今の時代だから不満があったら、それを解消する方策を講じて、解消できないのなら他に転職するぐらいの気持ちを持たないと、やはり60代、70代を元気に過ごすわけにはいかないという感じはします。

倉重:要するに定年後雇用で自分の望みどおりの職種に就けないだとか、給料を何割減らされて不満だとか、ないものねだりというか、不満な点ばかりを見ても仕方がないですね。

森田:そうです。不満がない人はいないと私は思っています。でもその不満をどのように最小限に抑えられるかは、結果的には人に言うのではなく、自分でやはり解消していかなければいけないのではないかと思います。それで60過ぎて、70過ぎて不満ばかりを持っている人はやはり「幸せな人生を送っていないな、おぬしは」という感じはします。

倉重:食生活という意味ではどうですか?

森田:80過ぎてからは野菜中心にならざるを得ないのですが、それでも肉を食べないと、やはりどこか抜けていってしまうところがあるような気がします。

倉重:やはり肉は大事ですよね。

森田:肉は大事です。

倉重:先生と前にご一緒したときも、300グラム以上のステーキをぺろりと食べていましたね。

森田:そういう意味では、むしろ肉は魚よりも重要なたんぱく質ではないかと思います。雑談で申し訳ないのですが、私の依頼者に89歳のおばあさまがいらっしゃって彼女はとても元気です。このおばあさまが家に居ると家族から肉は食べさせてもらえないと、1週間にいっぺん、必要があるなしに関わらず、医者の所へ行くと称して出てきて、六本木辺りで肉を食べて帰ります。

倉重:89歳で!すごいですね。やはり肉を食べられる人というのは元気な人が多いですね。

森田:そんな感じはしますね。

倉重:やはりそういう生涯現役で働くという意味ではやはり食と体力と合わせて気力・知力と結び付いてくるというのが重要ですかね。

あとは、若い弁護士などに少し言いたいことがありましたら、ぜひこの場で一言いただければと思いますが、いかがですか。

森田:よく若い人たちと会ったときにこういうことを言います。まず勉強してほしいと。勉強というのは法律などの勉強はとても裁判官には及びもつかないことはまず置いて、勉強で一番大事なことは、自分が何を目指すかということ、まず自己を知るべきだ、自分がどういうタイプの弁護士になるかということをまず自覚してほしいということです。

これから100歳時代になって、弁護士が幾つまで働くかということもやはりきちんと、今のうちから若い人たちが知っていてほしいと思います。だいたい私の仲間を見ると70歳~80歳の間に現役を引退する人が圧倒的に多いです。でも80歳を過ぎても、元気で働こうという人たちは大勢いますから、そういう人たちが働けるように、自分で環境を整えなえなければいけないのではないかと若い人たちには申し上げています。与えられるものではなくて、自分が努力してつくるべきものだということは何も一般社会だけではなく、弁護士の世界でも言えるように思います。

倉重:弁護士資格を取って満足するのではなくて、その後も努力を続けるという王道ですね。

森田:そうです。努力を怠ると、70代、80代、下手をすると90代まで働けることを自ら放棄してしまうことにつながりはしないかと思います。そういう意味では、やはり趣味も必要だとよく言っています。

倉重:そうですね。プライベートの趣味もそうですし、やはり弁護士の仕事自体もある意味面白がってではないですけれども、何か楽しんでやらないと。

森田:嫌々などという、これは生活の道具だと思ってしまったら、これほどつらい仕事はありません。私たちはいろいろなことを申し上げましたが楽しんでやってきました。

倉重:ですよね、先生を見ていると本当にそう思います。やはり弁護士の方は誰かに言われてやるのではなくて、好きでやっていますものね。

森田:私よりもIQがずっと高い人たちが、おまえはいい仕事を選んだ、おまえに向いている仕事を選んだのがうらやましいと言っています。

倉重:先生は御三家の中学出身ですから、東大に行った人もたくさんいたでしょうし。

森田:これも雑談になってしまいますが、私が中学に入ったときに、隣の席に座ったのが東大名誉教授になった男です。おやじに言いました。申し訳ないけれど、成績がよくないというのは、こういう優秀な遺伝子を持った人たちと俺を一緒にするなと。悪いのはおやじだと。

倉重:なるほど。麻布に入れたのはと。

森田:そう、おやじはお前が間違えているのではないかと、笑いましたけれども。

倉重:さて、最後に聞きたいのは、先生の夢は何ですか?ということです。

森田:できる限り多く本を読んで、できるだけいい音楽を聴きたいですね。

倉重:いい音楽を聴き、いい本を読み、うまいものを食べると、最高ですね。

森田:うまいものの話はまたゆっくりしましょう。私は昔からうまいものを食べるのが好きで、修習生のころ、1万9,500円が給料でした。そのうち3,000円を払って有名な肉屋に食べに行きます。3,000円がなくなります。あと1万6,500円でどうやって1ヶ月生活するか。主婦の店ダイエーに行って39円のラーメン、あれもだいたい1週間も食べると嫌になりますが。

倉重:そういう原体験があるからこそ、食に対するこだわりがあるのですね。

森田:唯一弁護士として仲間から評価されることなく、「あいつはグルメだ」という評価です。

倉重:やはり先生の今の話を伺っていても、常に何か新しい本、新しいよりよい音楽、新しい食、それから時々かわいい女性(笑)など、そういういろいろなものに対する好奇心や興味などが旺盛ですよね。

森田:そうですね。

倉重:それが生きる力というか。

森田:そう、パワーの源泉はいろいろなことを言いましたが、好奇心です。

倉重:話をしていてそう思いました。好奇心とそれを支える体力、この2つが大事だということですね。

森田:気力・体力・知力と言いましたが、源泉は好奇心ですね。

倉重:そうですね。はい、何か好奇心の塊だなと思いました。

森田:そう思います。自分でもそう言っています。

倉重:そういう人が1人でも増えるとやはり日本というのは今後もいい方向に向かいますね。そうして世の中の経済が回っていくわけですから。好奇心を忘れずに体力をもってやっていきましょう。

森田:あと何年活動できるか。

倉重:人生100年時代ですからあと16年です。はい、ということでこれぐらいにしたいと思います。今日はどうもありがとうございました。

森田:ありがとうございました。

(おわり)

森田 武男 弁護士

東京都世田谷区出身早稲田大学法学部卒、神戸地方裁判所にて司法修習

1964年 馬場東作法律事務所

1990年 森田綜合法律事務所

2018年10月 倉重・近衞・森田法律事務所

第一東京弁護士会 経営法曹会議会員 日本山岳会会員

弁護士登録以来、一貫して経営者側弁護士として経験を重ねる。

日本食塩製造事件(昭和50年4月25日最二小判、労判227号32頁)をはじめ数多くの労働紛争事件を手がける。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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