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秋の早慶戦は優勝をかけての直接対決。カギを握るのは「ドラ2」と「遅咲き」の四番打者か⁉

上原伸一ノンフィクションライター
伝統の早慶戦はこれまでも数々の名勝負を生んできた(写真は今春の試合前。筆者撮影)

昨秋は9回2死からの大逆転劇で優勝が決まる

秋の「早慶戦」(10月30、31日)は優勝をかけての直接対決になる。慶應義塾大学は1引き分け以上、早稲田大学は2連勝が天皇杯を手にする条件だ。

1903年11月に初めて開催されて以来、数々の名勝負を生んできた早慶戦。昨秋もドラマチックな展開となった。

早大と慶大がともに全勝(早大は5勝3引き分け、慶大は6勝2引き分け)で迎えた1回戦、慶大は引き分けでも優勝だったが、早大が先勝。続く2回戦は慶大が9回表2死まで1点をリードし、優勝まであとアウト1つと迫った。だが、蛭間拓哉(現3年、浦和学院)が1塁に走者を置いて、劇的な逆転本塁打を放つ。早大はこのまま逃げ切り、勝ち点ポイントを8.5とし、10季ぶり46度目の優勝を飾った。

昨年のアマチュア野球で「ベストゲーム」と称されたこの早慶2回戦。慶大にとっては痛恨の一戦となった。しかし、ここからスタートした今年のチームは、この無念、この悔しさを糧に、今春は3季ぶり38度目の優勝を飾る。大学選手権(第70回全日本大学野球選手権)も制し、1987年以来4度目となる春の大学日本一にも輝いた。

春秋連覇と「4冠」を目指す慶應義塾大学

春秋連覇と(明治神宮大会を含む年間での)「4冠」を目指す慶大は、ここまで4勝4分け。コロナ禍で試合が9回で打ち切りになる関係もあり、引き分けの数が多いが(ちなみに法政大学は引き分け6である)、負けはない。これは先発2本柱である森田晃介(4年、慶應義塾)と増居翔太(3年、彦根東)をはじめとする投手陣が安定していることを物語る。森田は立教大学と法大のカードが続く4連戦では、立大2回戦からリリーフに回って3試合に登板。フル回転でチームに貢献した。

打線は下山悠介(4年、慶應義塾)と、ドラフトでオリックスから4位指名された渡部遼人(4年、桐光学園)が好調を維持している。大学選手権で首位打者になった渡部遼は、もともと50メートル5秒9の快足を活かした外野守備に定評があったが、打撃も磨かれ、リードオフマンとして引っ張っている。

一方、打率1割台と苦しんでいるのが、ソフトバンク2位指名の正木智也(4年、慶應義塾)。春はリーグトップの4本塁打に、トップタイの12打点をマーク。大学選手権でも2本塁打9打点と活躍し、最高殊勲選手にもなった。春の成績に満足することなく、さらなる進化を求めて修正した打撃フォームも、現状では結果につながっていない。

それでも東京六大学リーグを代表するスラッガーは「早慶戦は特別なもの。噛みしめながら勝ちにいきたい」と前を向く。

ドラフトではチームへの思いを新たにした。「本気で自分の指名を喜んでくれる仲間の姿を見て、秋もこのチームで日本一になりたい気持ちが強くなりました」

誠実な男である。スコアレスドローに終った法大2回戦の後も、悔しさを胸の内にしまって会見場に現れた。自身は9回無失点と好投した山下輝(4年、木更津総合)の前に無安打2三振。あまり話をしたくなかったのが本音かもしれない。会見の指名選手になったのは、ヤクルト1位指名の山下とソフトバンク2位の正木の対決が注目されていたからである。そういう状況でも、質問をされると、いつものように顔だけでなく上体も向け、丁寧に答えていた。囲み取材で、質問した記者に体も向けて話す選手はなかなかいない。

「(この時点で)早慶1回戦まであと10日あるので、課題を絞って、やるべきことをやってきます」

四番・正木のバットはチームに勢いをもたらす。慶大の連覇は正木の復調がポイントになりそうだ。

「4年生力」で優勝争いに踏みとどまった早稲田大学

DeNA2位指名の早大・徳山壮磨(4年、大阪桐蔭)と楽天6位指名の西垣雅矢(4年、報徳学園)というドラフト指名コンビを擁する早大も投手力が高い。チーム防御率は慶大の1.88(リーグ2位)に対して1.77(リーグ1位)である。特に西垣は先発4試合のうち3試合で完封しており、目下30イニング連続で無失点である。

ただ、早大のエース番号「11」を背負う徳山は、防御率が3点台後半と状態がいま一つだ。開幕カードの立教大学との2回戦では7回5失点と乱れ、チームが連敗スタートとなる要因に。東大1回戦では6回1/3を無失点、DeNA4位指名の三浦銀二(4年、福岡大大濠)との投げ合いになった法大1回戦では7回無失点とエースの意地を見せたが、負けたら優勝争いが厳しくなる4カード目の明大1回戦では4回5失点。信頼に応える投球ができなかった。

この明大1回戦でのエースの乱調が、最後のシーズンを戦う4年生の心に火をつける。2点差を追う9回、すでに2死になっていたが、蛭間が四球で塁に出ると、5連続長短打で一挙5点を奪って逆転。4点目となる適時三塁打を飛ばした主将の丸山壮史(4年、広陵)も、5点目となる適時二塁打を放った岩本久重(4年、大阪桐蔭)も、大学最後の試合であるかのように目を赤くはらした。4年生はこの試合の意味を、重さをよくわかっていた。

土壇場の逆転劇で「4年生力」を高めた早大は次戦の2回戦にも勝利。4年生を中心にチームの結束も強まっている。

「4年生力」の象徴的な存在が、明大1回戦で2打席連続の本塁打を飛ばし、4安打5打点と大暴れした今井脩斗(4年、早大本庄)だ。遅咲きの苦労人である。神宮デビューは2年秋も、3年時は試合出場がなく、初スタメンと初安打は4年春。今秋は開幕の立大戦では出番がなかったが、次の東大とのカードでスタメンに名を連ねると、1回戦では3ランを含む5安打7打点、2回戦でも3安打2打点と起用に応えた。

その後も快音を響かせ、現在、打撃3部門でトップ。「三冠王」を射程にとらえる。元プロで数々の強打者と対峙してきた小宮山悟監督は、今井の打撃を「プロのレベル」と評す。明大1回戦からは四番に据えた。どこに投げてもボールをとらえそうな打席での雰囲気も出てきた。競技としての野球をするのは今季限りなのが惜しいバッターである。

初戦が引き分けなら慶大が優勝という状況は昨秋と同じ。慶大が有利ではあるが、早大が先勝すれば、立場が変わる。これも昨秋と似通るが、いずれにしても名勝負が繰り広げられそうだ。筆者は両校とも投手力が高い中、「四番」の働きがカギとなると見ている。

ノンフィクションライター

Shinichi Uehara/1962年東京生まれ。外資系スポーツメーカーに8年間在籍後、PR代理店を経て、2001年からフリーランスのライターになる。これまで活動のメインとする野球では、アマチュア野球のカテゴリーを幅広く取材。現在はベースボール・マガジン社の「週刊ベースボール」、「大学野球」、「高校野球マガジン」などの専門誌の他、Webメディアでは朝日新聞「4years.」、「NumberWeb」、「スポーツナビ」、「現代ビジネス」などに寄稿している。

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