【アジア杯日韓比較】韓国の敗退から考える、日本代表メンバー構成の「東西比」。そしてイラン戦必勝の理由
韓国紙「大会で一度もすっきりと勝つゲームがなかった」
似た道を歩むのだろう。そんな想像もした。
UAEで開催中のAFCアジアカップ2019での日韓両国の姿だ。
”決して楽な戦いではない。しかしのらりくらりと勝ちながら、決勝に向けてギアを上げていく”
そういう共通点があるのではないかと見ていた。
しかし日本がベスト4進出を決めたのに対し、韓国は先に敗れた。25日のカタールとの準々決勝にて0-1の敗戦。59年ぶりのアジアカップ制覇の目標は果たせず、逆に15年ぶりのベスト8での敗退となった。
カタール戦後、 韓国紙「スポーツ・ソウル」が自国代表の戦いぶりをこう報じた。
「この大会では一度もすっきりと勝つゲームがなかった。毎試合、ホイッスルが鳴るまで緊張を強いられ、すっきりとゴールが決まってほしい場面でイライラすることばかりだった」
時制を現在形に変えると、森保ジャパンにも当てはまる話ではないか。韓国はアジアカップで5試合中3試合が1点差の勝利だった。日本もまた、ここまですべて1点差の勝利だ。今後の結果によっては同じような評価になりうる。「なんか、苦戦してるよね」という試合展開が、一撃で命取りになりかねない。
政治での両国関係が険しい状況だからこそ、日韓戦を見たい思いはあった。また、先のロシアW杯で韓国の成績を上回ったため、「W杯、アジアの2大会連続で韓国を上回る。それも直接対決で勝って決める」という機会がなくなった。ましてや韓国では「先のロシアW杯ではドイツに勝ったインパクトを与えた韓国のほうが日本よりも上」という評価もあるから、そこを決定的に覆してみたかった。
するともはや、日本は優勝することで決定的に差をつけることだ。なんだかんだで結果が似る傾向のある近年の日韓のサッカーシーンに決定的な違いを生みたい。
かなり思い切った角度をつけた「日韓比較」の観点から、今回の韓国の敗戦について考えてみたい。
韓国代表の問題。ソン・フンミンとファン・ウィジョの共存。そして「ポゼッション志向」が批判対象に。
では韓国の敗退に何を見るべきか。「日韓比較」の前に、”韓国自体の問題”こそがまずは重要なポイントだ。
25日の敗戦後、韓国ではかなりパウロ・ベントやチームに対する厳しい論調が出てきている。
「信頼を失ったベント、そしてロンドン五輪世代の退出。危機の韓国サッカー、二重苦を突破せよ」
(『スポーツソウル』 1月28日付け)
パウロ・ベントに関しては「戦術のこだわりが強すぎ、融通を欠いた」と。
「キム・パンゴン技術委員長『医療トレーナーの離脱、協会側の未熟さ』と謝罪」
大会前にパウロ・ベントが臨む医療体制の契約が進まず。結局、前任者を呼び戻したが、大会中にチームを離れる事態に。コンディション調整失敗の一因と批判されている。
「クォン・チャンフン、イ・ガンイン、ペク・スンホ…‥アジアカップ敗退を気に世代交代論が急浮上」
(Footballist 同日)
クォン(ディジョンCFO/フランス)、イ(バレンシア/スペイン)、ペク(ジローナ/同)ら若手を呼ぶべきだと。またスポーツソウルは「保守的なベントが新鋭を呼ぶ可能性があるだろうか」と論じている。
全般的には、ベントの保守的な選手選抜、ポゼッションにこだわりすぎる傾向、ビルドアップで無駄なパスが多すぎる、また左サイドバックの選手選考の失敗などが批判されている。
いっぽう、今大会では、大エースソン・フンミンの合流が遅れ、グループリーグ第3戦からとなった。昨秋からの合意事項とはいえ、彼の得点力を大会でどう生かすかという問題が起きた。
もともとは韓国代表でもサイドでの起用が多かったソン。このポジションではロシアW杯最終予選で通算1ゴールしか挙げられず、チームが大苦戦する原因のひとつにすらなった。いっぽう、予選突破後の2017年9月の国際親善試合コロンビア戦で2トップの一角に起用され、2-1で勝利した韓国の全得点を決めた。ここから「ソンの得点力を最大に生かすべき」という論調が巻き起こる。ロシアW杯本選では、メキシコ戦とドイツ戦でゴールを挙げたがいずれも2トップ、もしくは1トップで起用されての結果だった。
いっぽう、ロシアW杯後には得点源としてファン・ウィジョ(ガンバ大阪)の存在が急浮上した。今大会で象徴的なシーンがある。グループリーグ第3戦の中国戦でのことだ。12分にソンがゴールエリア右の混戦からPKを得たが、キッカーはファンだった。「ゴールに関する序列」を見た思いだった。ファンはパウロ・ベントが唱える「6つの選手選定基準(攻守の切り替えなど)」に適した選手として重用され、結果を残してきた。
しかし、ここでソンにキッカーを任せる手もあったのではないか。ゴールを決め、勢いに乗せるという考えだ。
もっとも、この話をソンにしたらよくない顔をすると思うが。ロシアW杯前に日韓比較の観点から韓国での「国内組・海外組の融合」という話を聞こうとしたところ、「何を言うんですか? 同じ大韓民国代表選手にそんな区別はありません」と一蹴されたことがある。
今回のカタール戦の敗戦後も「コンディションをしっかり準備できなかった自分のせいだと思う」と言い切った。突出した力がありながら、自らの特別扱いを嫌う男なのだ。ソンをどのポジションで起用するのか。今後も大きな課題になっていくだろう。
日本が見るべき点。韓国との比較でこそわかる「メンバーの東西比」。
そういったなかで、バーレーン戦翌日の「スポーツ・ソウル」の記事が興味深かった。
「体力管理の失敗が呼んだ惨事、ベント・コリアは46日間何をしていたのか」
(スポーツ・ソウル)
記事では、メンバーを韓国・Jリーグ・中国でプレーする「東アジア組」と「欧州・中東組」に分け、チームが克服できなかった課題を伝えている。
「東アジア組はリーグが終了した後に代表に呼ばれたため、十分な休息が取れていない点、再びコンディションを上げていかなければならない点が問題点だった。いっぽうシーズン中の欧州・中東組は現在リーグが進行中のため、疲労度の調整が課題として挙がった」
つまりチームの中で一方は休ませた後に負荷をかける必要があり、一方は休ませなければならなかった。「東アジア組」は春秋制(春に開幕し秋に閉幕)のシーズンを送り、「欧州・中東組」は秋春制(秋に開幕し、年をまたいで翌春に閉幕)を送る。
韓国は2018年12月に国内組のみで合宿を組んだが、結局はコンディションがバラバラの状態で大会に入り、試合・回復のサイクルに入らなければならなかった。この点でパウロ・ベントは「コンディションよりネームバリューを重視し過ぎた」とも批判されている。
言うまでもないが、これは日本でも改めて考えなくてはならない問題だ。あるいは世界中で日本と韓国だけが抱えうる問題というか。「国内組、欧州組でコンディションがバラバラな大会」。ワールドカップでも似た問題が起きうるが、欧州組は「シーズン後」「オフ前」の状態で大会に臨む。いっぽうアジアカップは1月開催ゆえ国内組が「オフ明け」の状態で臨むことになる。森保一監督も当然のごとく、年末の国内合宿@千葉ですでに「コンディションのバラつき」を口にしている。また、大会初戦のトルクメニスタン戦のメンバー選定方針を「コンディション優先」とした。
ただし、今大会の日韓両国代表の選手所属リーグの「東西」の比率を見ると、日本に”希望”があるようにも見える。
◆日本 国内組9人:欧州・中東組13人
(青山敏弘/サンフレッチェ広島離脱のため22人)
◆韓国 東アジア組15人:欧州・中東組8人。
韓国との比較からみると、森保一監督が欧州組を中心に「主力組」を作り、過酷な日程のなかもメンバーを変えない点は合理的にも見える。日本はエントリーメンバーの構成上、やろうと思えば「欧州・中東組」を中心にチームを作ることが可能なのだ。
もちろんこの点は「優勝してこその合理的理由」ということだ。言うまでもない。仮に決勝にすら進めないとなると、ただの数字の戯れ言で終わってしまう。
韓国ではバーレーン戦の敗戦後、上記のようにパウロ・ベントに対して手の裏を返したかのような批判が始まった。就任後、高評価だった監督の株が急落しているのだ。せっかく得たロシアW杯での”成功”に早くも水が差されている。パウロ・ベントの指揮するチームが、就任後12戦目に喫した初敗戦が25日のカタール戦だった。森保一監督のチームは10戦でまだ無敗(9勝1分け)。日本だって、1敗目というのが大きな打撃になりうるのではないか。
もちろん、日本と韓国で違いはある。パウロ・ベントは「ポゼッションを志向しすぎ」という点で批判を受けているから、またいつものとおり外国人監督が上手くいかない際の「韓国スタイルに戻せ(つまりロングボールを使っていけ)」という議論が始まるか。日本は森保一監督のこの時代も含めて「日本スタイル」を探している段階だ。原点に戻るという議論にはなりにくいだろう。
いっぽうで、この先のアジアカップの戦いはこういった意味を帯びていく。「日本と韓国が、ロシアW杯も似ていくのか、いかないのか。その分岐点」。フル代表の過程と結果が似た傾向にある日韓のサッカーシーンにあって、代償の大きい一敗など経験したくはない。森保一監督のチームはまだ何も得ていない。28日の準決勝イラン戦では「選手のコンディションにばらつきがある」という点をしっかり見極めつつ、重要な戦いに挑んでいこう。