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新生日本代表初白星!「ラグビー日本代表にとって意義ある試合」。ジョーンズHCは会見で何を話したのか

斉藤健仁スポーツライター
新生エディー・ジャパン初勝利!会見に応じるジョーンズHC(撮影:斉藤健仁)

歴史的に見て日本代表がいいラグビーをしているときは攻撃では革新的なアタックをして、守備では容赦ないタックルをしていた」。1月にラグビー日本代表の指揮官に返り咲いたエディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)がそう話していたが、まさしくディフェンスでその一端を見た。

7月6日、ラグビー日本代表は「JAPAN XV」として、「リポビタンDチャレンジカップ2024」マオリ・オールブラックスと対戦。マオリ・オールブラックスは、オールブラックス経験者や将来有望な候補者もおり、マオリの血を引いている選手だけで構成されたチームで、ジョーンズHCも「世界ランキング10位ほどの実力がある」と評していた。

6月29日の1戦目も10-36と敗戦しており、ジョーンズHCが率いていた2014年の秋には、日本代表は主力で戦ったものの連敗するなど、過去の成績は0勝4敗と一度も勝利することができていなかった。

しかし、2戦目は、特に前半、目を見張るようなディフェンス、キックチェイスを見せて8-0と相手に得点を与えなかった。後半こそモールから2トライを許したが「JAPAN XV」も後半の勝負所でPR竹内柊平、早稲田大学4年のHO佐藤健次がトライを重ねて26-14で初めて白星を奪取した。

ハカに対応する選手たち(撮影:斉藤健仁)
ハカに対応する選手たち(撮影:斉藤健仁)

歴史的勝利を挙げることができた要因を選手たちはこう話した。

デイビッド・キッドウェル ディフェンスコーチから、1戦目より(FWの)内側からのプレッシャーのスピードを上げてやろうと言われて、それができた」(LO桑野詠真)

キックでもプレッシャーをかけていくことを、チームとして意識していた。しっかりいいチェースができたので、相手にプレッシャーをかけられた」(リーダーの一人SO山沢拓也)

相手陣22m内に入ってトライを取り切れて、スコアで相手にプレッシャーをかけられたことが大きかった。プレースタイルに自信がでてきたし、自分たちの頭もクリアになってきた」(リーダーの一人WTB根塚洸雅)

FWはディフェンスコーチのシステムのなかで、しっかりファイトすることをこの1週間、ずっとやってきたので、それが結果につながったと思う」(共同キャプテンHO原田衛)

ディフェンスが我慢強くできた。(8-0という)前半のスコアにも表れているが、簡単にトライを取られることもなく、粘り切れた。本当に80分通して、全員が(マインド)オンの状態でいられたのが、すごくよかった」(共同キャプテンSH齋藤直人)

HO佐藤がトライを挙げて、喜ぶ選手たち(撮影:斉藤健仁)
HO佐藤がトライを挙げて、喜ぶ選手たち(撮影:斉藤健仁)

それではジョーンズHCは試合をどう振り返ったのか――。1戦目の試合の会見は目を赤くしながら「負けるのは嫌い」と怒りを抑えつつ話していたが、一転、時折、笑顔を見せながらの会見となった。

一度も勝ったことがないマオリ・オールブラックスに勝ったのは、日本にとっていいマイルストーンです。マオリ(・オールブラックス)はとても誇り高く、おそらく世界のトップ10にランクされるチームです。ですから、私たちはこの勝利から多くの自信を得ることができるでしょう。

特に若い選手がいる場合、彼らの信念を支える何かが必要です。こういう試合に勝つことが重要。そして今日、私たちはその一端を手に入れることができました。本当にポジティブです

試合に関して、指揮官は「(気温が30度ほどある高温多湿での試合では)ボールが滑るので長いフェーズを重ねることが非常に難しくなりますし、ボールを速く動かすことも難しいし、ディフェンスは常にやってくるので、選手たちはロングキックを蹴るという賢明な判断をしました。

時にはもっとコンテスト(キック)を使うこともありましたが、今日はロングキックが機能したし、キックチェイスも秀逸でした。選手たちがゲームにうまく対応してくれたことが本当にうれしかったです。どんなスポーツでも、日本のいいチームはいつもよくトレーニングされていますが、本当にいいチームというのは、変化に対応できるチームです。その一端を垣間見ることができました。私たちがいいチームだと言っているわけではありませんが、今日は少し対応力が見られたので、それはポジティブなことです」と選手たちの判断、プレーを称えた。

試合前に、選手たちを見つめるジョーンズHC(撮影:斉藤健仁)
試合前に、選手たちを見つめるジョーンズHC(撮影:斉藤健仁)

6月22日、日本代表として戦ったイングランド代表戦では、「超速ラグビー」を実践しようとするあまり、アタックでミスが目立った。マオリとの1戦目は、アタックではセットプレー、特にモールに固執して得点を重ねることができなかった。しかし、マオリとの2戦目ではPGを狙える場面ではしっかり狙い、バランス良くアタックを仕掛けたことが功を奏した。

ジョーンズHCは「今日は何としてもポイントを取りたかった。というのも、選手たちは、勝てば自信を持ち、その自信がもっとハードワークを重ねようという気持ちになるからです。それが若いチームに必要なことです。つまり、フィールドの選手たちが下した判断は100%正しかったということです。

私たちはいつでも〝超速ラグビー〟をプレーしようとしています。でも、その形は、スタイルではなく、コンセプトです。私たちは集団的なスピードでプレーしたいのですが、その集団的なスピードが、時にはキックを通じて、あるいはモール、スクラムを使って発揮されることもある。でも、私たちが信じるのはその組織力です。私たちはスピードに乗ったプレーでは世界の誰よりも優れていますが、それひとつだけのプレースタイルというわけではありません」と語気を強めた。

また今回の試合が単に勝利しただけでなく特に意味があるものになったのは、日本人の若手中心でマオリ・オールブラックスを下したことだった。

マオリ2戦目のメンバー23人中、2023年ワールドカップに出場した選手はFL下川甲嗣、NO8アマナキ サウマキ、SH齋藤、CTB長田智希の4人のみだった。先発15人の平均キャップ数は5にも満たず、20歳のFB矢崎由高(早稲田大2年)が先発し、21歳のHO佐藤(早稲田大4年)も控えから出場した。

プロの指導者になる前は校長先生だったジョーンズHCも「今日(の勝利は)は日本のラグビー界にとって、本当にステートメント、つまり意義のある試合だったと思います。というのも、先発15人のうち13人が日本人選手(※本来は14人だが、サウマキはトンガから日本に帰化した選手)だったからです。

ただ、それは外国人選手を決して否定しているわけではありません。でも、日本のラグビーの強さを見たかった。選手たちはマオリ相手に、彼らのような常に気迫のこもったプレーをし続けた。今日の闘いぶりに非常に満足しています。今日は私たちにとって素晴らしい一歩になるかもしれません」と先を見据えた。

日本人の若手中心でマオリ・オールブラックスを倒した新生エディー・ジャパン。大きな収穫と自信を得て、7月13日のジョージア代表(宮城・ユアテックスタジアム仙台)、7月21日のイタリア代表(北海道・札幌ドーム)をホームに迎える。

若き日本代表の選手たちは大きな自信を得て、テストマッチ2連戦に臨む(撮影:斉藤健仁)
若き日本代表の選手たちは大きな自信を得て、テストマッチ2連戦に臨む(撮影:斉藤健仁)

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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