Yahoo!ニュース

新型コロナで日本が「首都封鎖」なら中国は「鎖国」へ

宮崎紀秀ジャーナリスト
感染抑制を守るため中国はついに「鎖国」へ(2020年3月27日北京・筆者撮影)

 中国では新型コロナウイルスの国内での新たな感染者が抑えられつつある一方で、国外からの感染者の流入が深刻になっている。新たな脅威と位置づけ、中国は事実上の“鎖国”に乗り出した。

国際線は1社1便に制限

 中国では3月半ばから国外から流入した新たな感染確認数は2桁が続く。

 この数日を振り返っても、昨日26日は本土での新たな感染確認が1人に対し、国外からの流入が54人。25日、24日の新たな感染者はいずれも全て国外からの流入で、それぞれ67人と47人だった。

「国外で感染症の大流行が加速する中、流入を防ぐプレッシャーは引き続き大きい。入国者に対する管理を一層厳しくしなくてはならない」

 李克強首相の主催する対策チームが26日の会議で示した方針の下、同日、立て続けに厳しい措置が発表された。

国内での感染は抑えられつつあるが...(2020年3月27日北京・著者撮影)
国内での感染は抑えられつつあるが...(2020年3月27日北京・著者撮影)

 1つは中国民用航空局が発表した措置。29日の日曜日から実施される。

 各航空会社に対し、中国に乗り入れる国際線は1路線、かつ、週に1便のみと制限した。

 更に、その便の搭乗率を75パーセント以下に抑えなければいけない。

 文字通り解釈するならば、東京・北京や大阪・上海などといった都市間を結ぶ路線の話ではなく、日本と中国をつなぐ路線が、航空会社1社当たり、週に1便しか飛ばせない。ほぼ”鎖国”状態だ。

 民用航空局は、関係部門の責任者が記者の質問に答えるという形で、この措置について解説している。

 それによれば、1週間の航空便は約130便に抑えられる。現在、飛行機で毎日入国する2万5千人前後の旅客は、5千人前後まで減少するという。

実は自国民に対する入国制限?

 中国が危機感を持つ国外からの感染者流入。実は、流入する新たな感染者の90パーセントは中国のパスポート所持者であるという。しかも、そのうち40パーセントは留学生。26日の記者会見で羅照輝外務次官が明らかにした。

 国外からの感染者の流入を抑えるために採った対策とは、自国民の帰国を極力抑えようとする措置だったわけだ。

かつてはこう言っていたのに…

 今月初めの3月1日。中国外務省の崔愛民領事局長は、感染症が深刻な地域から中国人をチャーター機で帰国させることを考えているか、という質問を受けた。

「感染が多い韓国、日本、イタリア、イランなどには、少なからぬ華僑や留学生がいる」

 その上で崔局長は、海外の中国人の帰国に問題はないという認識を示していた。

「現在のところ、感染症が深刻な国は、まだ外国との公共交通を完全には絶っていない。現地にいる人は、直行便や経由便で帰国する方法を選択できる」

国を守るため棄民?

 実は中国も感染拡大初期、チャーター機を飛ばしている。1月23日に武漢が封鎖され、武漢市民らが帰国の足を失い海外に取り残された際だ。日本政府は、1月28日、諸外国では初めて武漢から日本人をチャーター機で帰国させたが、中国政府はそれに習うように、チャーター機で海外にいた国民を中国に戻した。その様子は大々的に宣伝された。

 ただ、その頃はまだ海外での感染はほとんど確認されず、感染が深刻なのは中国国内だった。

消毒をする姿をよく見かける(2020年3月6日北京・撮影筆者)
消毒をする姿をよく見かける(2020年3月6日北京・撮影筆者)

果たしてチャーター機を出すか?

 状況が変化したといえども、わずか1か月前には「通常通り帰国できます」と説明しておきながら、中国政府自らが国民の帰国する手段を限りなくゼロにするという決断を下してしまった。これは“棄民政策”に近くはないか。

 先にも触れた今回の措置を受けた民用航空局の解説の中にも、海外の中国人を帰国させるためのチャーター機を出すか否かという問いがある。

 その回答は先ず「長距離の旅行は確実に一定の危険が存在している」と強調している。その上で、引き続き中央の対策部門に従い、「状況を見て」と一言あった後「臨時便やチャーター機を運航する」と答えるに止まった。

一時帰国中の中国人留学生は...

「国により抑圧的な措置が採られるから、誰も感染症が続くことは望みません。だから国内での感染拡大を抑えるには有効な措置だと思います」

 こう話すのは中国に一時帰国中の中国人留学生。今回の措置は当然、中国から海外への渡航手段も著しく限定する。彼は日本の大学に通っているが、日本に戻る予定で買ってあった4月の飛行機のチケットはキャンセルされてしまった。

「政府の能力には限界があります。留学生や父母の気持ちまでは考えが至らないでしょう」

少し前は外国人はこのような特別な場所で登録し入国できたが(2020年3月12日北京・関係者提供)
少し前は外国人はこのような特別な場所で登録し入国できたが(2020年3月12日北京・関係者提供)

ビザがあっても外国人は入国停止

 国外からの感染流入に危機感を感じる中国が発表したもう1つは、外国人を入国させない措置。外交官や乗務員は除くものの、中国の有効なビザや居留許可を持っている外国人に対して、暫定的に入国を停止するとした。

 中国外務省と国家移民管理局による発表文には、言い訳のような説明がついている。

「多くの国のやり方を参考にし、やむを得ず採る臨時的な措置」

戻りたくても戻れない

 中国に駐在するビジネスマンやその家族が国外にいる場合、この影響は避けられない。

「厳しくなる前のタイミングだったので、自宅隔離で済んでラッキーだったと思います」

 そう話すのは、”鎖国”の直前に中国に戻った北京で働く日本人女性。

 これまでの措置では、日本から入国した人は2週間の隔離が義務付けられていた。その期間に発熱などの異状がなければ、出勤など通常生活に復帰できた。

 今後は彼女のように中国での正式な労働ビザを持っている人でも、入国が許されない。

「これから(中国に)戻る予定や赴任する予定だった人が心配ですね。今朝、うちのスタッフからも『戻りたいのに戻れなくなった』と連絡を受けました」

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

宮崎紀秀の最近の記事