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オンライン就活は「事実と解釈」の見極めで勝負が決まる。「御社の社風を教えてください」は禁句。

佐藤裕はたらクリエイティブディレクター
オンライン就活では何が正しい情報なのかが掴みにくいと苦戦する就活生が急増。(写真:アフロ)

「大学3年生の夏から複数社のインターンシップに参加して、オンライン説明会は10社以上参加して獲得した内定が本当に自分に合っているのか不安で就活を終えることが出来ない」と話すのはMARCHの大学生だ。

ディスコ社が発表した6月1日時点の就職活動調査によれば、「内定保持者が就活を継続する理由」は『本命の企業がまだ選考中』の55.1%に次いで『自分に合っているのかわからない』が20.7%と2位になっている。

元々、就職活動は本来キャリアデザインを考える為に必要な社会・ビジネスの知識、社会で必要とされる能力・価値観などを理解することなく、急に夢や目標を定めてインターンシップで当たりをつけて、本選考に進み狭い視野に気付かずに「古い就活の王道」でもある『自己分析』を軸に選社してしまう。それ故に入社後にリアリティ・ショックは約8割という驚異的なデータや3年離職率が30年間ほぼ変化していないという状態になっている。

そして、今年は新型コロナウイルスの影響で『オンライン就活』が主流となっている為、合同説明会、就活イベント、企業訪問などのリアルが失われた結果、視野を広げるチャンスが失われ意思決断するための『確信』が持てていない就活生が例年以上に急増している。

なぜ日本の就職活動はミスマッチがなくならないのか

これまで幾度となく「就活を変えるべき」という声が上がっている。政府も経団連も多くの発信や工夫を仕掛けて来た。ところが、リアリティ・ショックや3年離職などのデータを見ても就活の改善は見られず、ミスマッチの実態としては悪化しているように感じる。

一方で、日本の「キャリア教育」や「就職活動」を冷静に捉えるとミスマッチが起こるのは自然なことだと理解せざるを得ない点も多い。

・高校生が社会・ビジネスを捉えて自分の働く未来を意識して大学選択をしない

・大学入学で『自由』という言葉のもと、単位を取るための学びで「働く」と繋がっていない

・バイト選択に働く未来との接続や能力開発の意図はない

・大学3年のインターンシップ期まで社会やビジネスに触れていない

・『就活』を意識して急に夢や目標を過去の自分(自己分析)で定めてしまう

多くの大学生がここに当てはまるのではないでしょうか。他にも要因がありますが、これだけでもミスマッチが起きても不思議ではないと理解出来る。さらに企業の新卒採用は「学生の為」ではないので、提供する情報は限定されているのがリアルで、そこに就活生は気付かずにある意味で「情報操作」されている。

「御社の社風を教えてください」は禁句

就活生が聞きがちな質問に「社風」がある。当然、会社の雰囲気を知り自分の中でのイメージが欲しいので聞きたい、知りたいという感情は理解出来る。ただ、本当に「社風」を聞くことが入社後のイメージに繋がるのか。人事のホンネで考えてみたい

人気ランキングの常連企業の採用責任者は『逆に就活生から社風を聞かれるとラッキーと感じるリクルーターは多い』と語り、外資系コンサルティング会社の人事は『“具体”の中途採用と異なり新卒採用は“抽象”が勝負』とリアルな話をしてくれた。

つまり、就職活動は『事実と解釈』のバランスがポイントなのです。

例えば、『御社の社風を教えてください』と就活生が質問した際に人事から『みんな同じ方向に向かって切磋琢磨して勢いを感じる、何より楽しく働いているよ』と回答されると就活生はその1次情報を自分に落とし込んでしまう。ただ、それは1万人の組織の話なのか?10人の部署の話なのか?嘘ではないものの、人事の解釈を組織全体の話としているのだ。

他にも「若手は活躍できるか」「裁量権はあるのか」「海外に行けるか」「成長できるか」など人事からすれば就活生を口説く為の『解釈情報』を提供するための最高のパスになっているケースが多い。

結果、就活生は企業から得た1次情報(解釈情報)で判断をすることになるので他社との比較をすると「本当にどこが自分に合っているのかわからない」と抽象度の高い情報ばかりで混乱することになるので、会社の規模やブランド、出会った社員(人)で決めるという危険な選択方法になる。

参考までに転職活動する社会人は聞く質問すべてが「具体」で如何に「抽象」を排除するかがミスマッチを回避する方法として理解しているし、キャリアコンサルタントもそう指導する。

転職する社会人は社会・ビジネスを理解している、つまり学生と異なる視野を持っている。そして自己分析のような過去の自分を軸に今、そして未来のキャリアを決めない。より現実的に今と未来を捉える、そしてその情報を持っているから活動そのものが違っている。

オンライン就活では特に「事実と解釈」を見極めろ

今年の就活、インターンシップはオンラインが主流となっている。となれば、リアルよりも得られる情報が少なくなる。活動している学生は良く分かると思うが、企業からの情報提供がどうしても定型になっていて、リアルや裏側を感じる機会は少ない。

そこに加えて「解釈情報」を提供されたら学生は判断を間違える、困惑するのは当然だ。

そこで、オンライン就活は特に意識して欲しいのが「事実と解釈」の見極めで、ポイントを整理して紹介するので、今日から意識して実践することをおすすめしたい。

1、情報を常に客観的データで確かめる

「若い時から新規事業に挑戦できるよ」であれば、直近の事例として何年目の社員なのか、過去に新規事業に挑戦した件数など可能な限り客観的かつ具体に落とし込むように心がけると手元情報の質が変わってくるので、判断がしやすくなる。

2、「あなたの」アプローチを仕掛ける

「御社の社風」から「あなたの部署の雰囲気」を教えて下さい。と問いかければ1万人のざっくりとした雰囲気ではなく、一部部署のより現実的な雰囲気が理解出来る。そして他の部署でも情報が取れれば、部署ごとに雰囲気が違うのか、どの部署も同じ温度感などの全体感を捉えることが出来る。他にも「成長できますか」から「あなたの部署の3年目の女性はどんな成長をしていますか」など必ず具体で回答されるように意識して質問をすると得る情報が大きく変わるでしょう。

3、就職最前線のプロフェッショナルの視点を

人事から得た1次情報(解釈情報)、客観的なデータ、具体的な情報に加えて対象企業以外でその企業の理解、市場の理解のあるプロフェッショナルからの情報を取り入れることで、自分なりの解が導き出される。

デジタルネイティブだからこそ幅広い視野を持とう

オンライン就活は情報収集が乗り切るために大きなカギになりそうだ。だからこそ、学生は自分達がデジタルネイティブだという自覚をもって就活に臨んで欲しい。プライベートで日々得ている情報は「自分が欲しい情報」を取りに行っている仕組上、自然に届けてもらっているもので興味がない領域は目に入っていないのが現状。

就活に置き換えれば、興味のある業界以外の情報は意図して行動しないと手に入らない。就活は興味だけの情報で判断するから可能性を狭めたり、判断を間違えてしまう。さらに人事視点では、「〇〇業界はなぜ興味がない、なぜ自分には向いていないと感じるのか」を自分の言葉で語れる人こそ志望業界への想いに厚みが出ると感じるのだ。

つまり、就活生やこれからインターンシップに参加する学生は意図してまだ興味の持てていない、嫌だと考えてしまっている業界の情報を取りにいくこと。そこで得た情報を自分事に落とし込んで、語れるようにする。

その際に忘れてはいけないのは、企業から得る情報が「事実なのか解釈なのか」を見極めて常に「事実情報」を掴むように習慣化して欲しいことだ。

これまでイメージしていた就活はもうありません。『新しい就活』に切り替えて正しい情報を手にして、周囲に流されずに自分の働く未来を軸に『就社から就職』の意識に変革していきましょう。

はたらくを楽しもう。

【参考】

コロナ禍の就活、キャリアについての相談をCSRで対応しております。

『新しい就活』

就活のリアルを公開:YouTubeチャンネルはこちら

はたらクリエイティブディレクター

はたらクリエイティブディレクター パーソルホールディングス|グループ新卒採用統括責任者、キャリア教育支援プロジェクトCAMP|キャプテン、ベネッセi-キャリア|特任研究員、パーソル総合研究所|客員研究員、関西学院大学|フェロー、名城大学|「Bridge」スーパーバイザー、SVOLTA|代表取締役社長、国際教育プログラムCAMPUS Asia Program|外部評価委員などを歴任。現在は成城大学|外部評価委員、iU情報経営イノベーション専門職大学|客員教授、デジタルハリウッド大学|客員教員などを務める。 ※2019年にはハーバード大学にて特別講義を実施。新刊「新しい就活」(河出書房新社)

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