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ヘヴィ・メタル筋肉超神THOR(ソー)、新作アルバムとボディビルディングの肉体レジェンド【前編】

山崎智之音楽ライター
Thor / courtesy of Thor

ヘヴィ・メタル筋肉超神THOR(ソー)はロックと筋肉の両輪を駆って、叫びの道を突っ走ってきた。

ボディビルディングでは史上初のミスター・カナダとミスターUSAをダブル獲得、アーノルド・シュワルツェネッガーやルー・フェリグノとライバルとして切磋琢磨しあう。俳優としてはスーパーマン役をクリストファー・リーヴと争奪し、『エッジ・オブ・ヘル/地獄のヘビメタ Rock’n’Roll Nightmare』(1987)などに主演。そしてロック・シンガーとしても多くの信奉者を獲得、1985年のアルバム『オンリー・ザ・ストロング』と名曲「レット・ザ・ブラッド・ラン・レッド」「サンダー・オン・ザ・ツンドラ」などは時代を超えたアンセムとして愛され続ける。

そんな多彩な活躍を続けるTHORのニュー・アルバムが2024年の『Ride Of The Iron Horse』だ。アルバム1枚分のTHOR節ハード・ロックに未発表デモを加えた全15曲は全身の筋肉をパンプアップさせる、鋼鉄のハンマーの一撃である。

現在も精力的にツアーを行っているTHORだが、2024年現在で71歳。「戦いの傷を癒やすことも大事なんだ」と自宅でくつろぐ彼の人生初の日本メディア向けインタビュー(!)全2回で、彼は新作アルバム、そして半世紀の冒険譚を語ってくれた。まずは前編を。

Thor『Ride Of The Iron Horse』ジャケット(Cleopatra Records / 現在発売中)
Thor『Ride Of The Iron Horse』ジャケット(Cleopatra Records / 現在発売中)

<ただ剣を振り回して敵を倒すのではなく、年輪を重ねるごとに賢くなっていく>

●私が初めてTHORの存在を知ったのは1984年、あなたがヴェノムのクロノスと戦う英“ケラング!”誌のフォト・コミックでした。それから40年、あなたが健在で活躍しているのが嬉しいです。

そう言ってくれると私も嬉しい。長く険しい道だった。辛いこともたくさんあったけど、もちろん良いこともあった。日本のジャーナリストとインタビューで話すのは、今日が初めてなんだ。それは良いことだと考えている(笑)。これまで日本でツアーをする機会もなかったけど、ぜひ『Ride Of The Iron Horse』ツアーで実現させたいね。アルバム・タイトルの“鉄の馬”とは俺自身なんだ。50年間走り続けて、ちょっとくたびれてきたけど、まだ生命力に満ち溢れている。THORのファンは私の音楽からインスピレーションを得ると言ってくれるけど、それは私も同じなんだ。世界各地のステージに上がることで、パワーをもらうことが出来る。アメリカの数都市でショーをやったばかりなんだ。『怒りの雷神 Keep The Dogs Away』(1977)から俺と一緒に歳を取ってきたファンもいるし、十代の新しいファンもたくさん集まって、一緒に歌ってくれた。

●『Ride Of The Iron Horse』はどんなアルバムだと説明しますか?

『Ride Of The Iron Horse』はストレートなヘヴィ・メタル・アルバムではないんだ。ロックンロールもあるしパワー・バラード、クリント・イーストウッドの映画みたいなウェスタン...さまざまなスタイルがTHOR流のインスピレーションで消化されている。アルバムの半分が新曲、半分が過去の未発表音源という構成だ。まず新曲を9曲レコーディングして、当初はそれをアルバムにして出すつもりだったけど、長年応援してくれたファンのために昔のデモを収録したら良いんじゃないか?と考えた。「100%」は1970年代に書いた曲だし、「Flight Of The Striker」は『オンリー・ザ・ストロング』の少し後にレコーディングしたけど、そのままになっていたものだ。ある意味THORの50周年アニヴァーサリー・アルバムでもあるんだよ。

●「Flight Of The Striker」のようなクールな曲が40年近く未発表だったというのは信じがたいことです。

うん、人生にはそういうことが何度もあるんだよ。1980年代後半は私にとって混沌とした時期だった。映画『ゾンビ・ナイトメア』『エッジ・オブ・ヘル/地獄のヘビメタ Rock’n’Roll Nightmare』(1987)に主演して、ミスフィッツに加入する話し合いもしたけど実現せず、すべてに疲れ切っていた。当時を振り返ることはずっとなかったけど、最近になって倉庫にあるマスター・テープを聴き返してみたんだ。大量のオープン・リール・テープがあって、良いものがあることに気付いた。ファンのみんなに聴いてもらうべきだと確信して、アルバムに収録することにしたんだ。

●1970〜1980年代から現代にかけて、自分の音楽性はどのように変化したと思いますか?

音楽にしても人生全般にしても、いくらかは成長したと考えたいね(笑)。俺の原点はザ・ビートルズやデイヴ・クラーク・ファイヴ、ヤードバーズなど1960年代のポップ・ミュージックなんだ。でも、同じことを繰り返すつもりはない。『オンリー・ザ・ストロング』ではヴァイキングや合戦、鉄槌や剣について歌った。それから人生でさまざまな経験、出会いや別れを繰り返して、『Ride Of The Iron Horse』には「Had It Been Another Day」のようなパワー・バラードもあるし、「Peace By Piece」は自分が書いた本を出版してもらえない男の奇妙な物語だったり、さまざまな題材を取り上げているよ。歴史やフィクション上のいかなる戦士でも、いくつもの面を持っているものだ。ただ剣を振り回して敵を倒すのではなく、年輪を重ねるごとに賢くなっていく。ロバート・E・ハワードの英雄コナンだって賢者になっていった。私もそうありたいんだ。19歳の頃はまだレナード・コーエンの音楽を判らなかったけど、今ではハートに迫ってくるよ。クラシックやヒップホップなども聴くようになったし、それを取り入れることを恐れていないんだ。KISSだって「ラヴィン・ユー・ベイビー」でハード・ロックの敵といわれたディスコを取り入れて、バンド最大のヒットにしているだろ?

●「Thunder On The Mountain」は『オンリー・ザ・ストロング』収録の「サンダー・オン・ザ・ツンドラ」とどのような関係にあるのでしょうか?

「Thunder On The Mountain」がオリジナルのデモだったんだ。でもスタジオで正式にレコーディングする直前に「サンダー・オン・ザ・ツンドラ」とした。そっちの方がTHORのイメージに合っているからね。

●「Peace By Piece」はどんなところからヒントを得たのですか?

この主人公は作家で、小説を書いても世間に受け入れられないけど、千年経ってから発見されて、高く評価されることになる。もちろんこのストーリーはフィクションだけど、私の人生を下敷きにしているんだ。アーティストの作品は、いつ評価されるか判らないものだ。画家だって存命時は無名でも没後に評価されることがある。私も『怒りの雷神』を発表した後、レコード契約を獲得することが出来なかった。何社からも門前払いを食らって、ようやく出すことが出来たのが『Unchained』(1984)だったんだ。私はこのアルバムを誇りにしていたし、今もし評価されなくても、千年後にはきっと名盤として受け入れられると信じていた。『Beastwomen From The Center Of The Earth』(2004)や『Thor Against The World』(2005)、『Sign Of The V』(2009)のようなアルバムも発表当時まったく反響がなかったけど、何かのきっかけがあれば大勢の人に聴いてもらえるだろう。今でも『オンリー・ザ・ストロング』は新しいファンを獲得しているんだ。彼らがTHORの音楽世界に興味を持ってくれたら、いろんなアルバムを聴いてみて欲しいね。

●2024年にも北米でツアーを行っていますが、『Ride Of The Iron Horse』からの曲もステージでプレイしていますか?

ツアー前半のアメリカの公演では「Ride Of The Iron Horse」、そしてカナダでは「Shields Up」もプレイした。カナダではフランク・ソーダと一緒にやるんだ。就労ビザの関係もあって、バンドはアメリカ・ツアーとは少し異なったラインアップになるんだよ。私はアメリカとカナダの二重国籍だから問題ないけど、メンバーの国境の出入りの手続きが面倒で、アメリカ側とカナダ側で異なったメンバーがプレイするんだ。

●北米以外、ヨーロッパや南米などをツアーする予定はありますか?

うん、ツアーのオファーが来ているし、ぜひ世界のいろんな場所でショーをやりたいね。

●日本でまだツアーを行ったことがありませんが、別の仕事やプライベートで来たことはありますか?

いや、一度もないんだ。『チープ・トリックat武道館』は歴史的名盤だし、KISSからブロンディまで、私が好きなバンドはみんな日本でプレイしている。THORのライヴはシアトリカルで、歌舞伎や能とも通じるものがあると思う。実際、数年前に再発されたDVD『THOR筋肉ライヴ1984 Live From London』は日本で好評だったんだ。いつかTHORのライヴを日本でやることが夢だよ。

Thor / courtesy of Cleopatra Records
Thor / courtesy of Cleopatra Records

<アーノルド・シュワルツェネッガーは誰に対しても無愛想だった>

●あなたのボディビルダー時代のことについて教えて下さい。

ボディビルディングを始めたのは7歳のとき、兄のアルフレッドの影響だった。家の地下室で彼がトレーニングしていて、見よう見まねでウェイトをやったり、いろいろ教わったんだ。スティーヴ・リーヴスの映画『ヘラクレス』(1958)を見て、自分も14、15歳の頃からボディビルディングの大会に出るようになった。それからトントン拍子に“ティーンエイジ・ミスター・アメリカ”“ジュニア・ミスター・カナダ”、そして“ミスターUSA”“ミスター・ワールド”などを獲得したんだ。その時期よく競い合ったのが『超人ハルク』(1977 – 1982)になる前のルー・フェリグノ、そして『コナン・ザ・グレート』(1982)に出演する前のアーノルド・シュワルツェネッガーだった。彼らやケン・ウォーラーはみんな映画『パンピング・アイアン(鋼鉄の男)』(1977)に出て、その後ハリウッドに進出したんだ。私は彼らより若い世代で、ロックの世界に向かっていったから、その映画には出ていない。でも自分の進んだ道が正しかったと信じているよ。

The Metal Voiceウェブサイトのニール・タービン(元アンスラックス)との対談で、アーノルド・シュワルツェネッガーが若いライバルであるあなたに対し無愛想だったと話していましたが、彼とは打ち解けることが出来ましたか?

いや、それから一度も会っていないからね。私だけではなく、アーノルドは誰に対しても無愛想だったよ。1973年だったか、ニューヨークで行われた“ミスター・ワールド”コンテストのバックステージで、私は“マッスル&フィットネス”誌向けに写真家ジミー・カルーソとのフォト・セッションをやることになっていたんだ。そこにアーノルドが入ってきて、自分より若くてハンサムなボディビルダーがいるのが気に入らなかったのか、「出てけ!」と怒鳴り散らしてきた。『ターミネーター』だかで「ゲット・アウト!」と言う、そのままの口調でね(苦笑)。編集部のジョー・ウィーダーが「まあ落ち着きなよ」となだめなければならなかった。アーノルドは自分の領域を大事にする人で、踏み込んでくる人間を許容しなかったんだ。ただ、彼はボディビルダーとしては無敵だった。それは認めなければならないよ。

●あなたが映画『スーパーマン』(1978)でスーパーマン役の候補になったときのことを教えて下さい。

スーパーマンはずっと好きだったんだ。1950年代、ジョージ・リーヴスがスーパーマンを演じたテレビ・シリーズの大ファンだったよ。小学校の頃は服の下にスーパーマンのコスチュームを着て、万が一のときはいつでも変身出来るようにしていた(笑)。校舎の2階から飛び降りて、病院に担ぎ込まれたこともある。私は1976年、人気テレビ番組『マーヴ・グリフィン・ショー』に出演したんだ。ラスヴェガスの“シーザース・パレス”から生中継で、全米の視聴者から物凄い反響があって、放映後にありとあらゆるオファーが舞い込んできた。そのひとつが『スーパーマン』のオーディションだったんだ。当時のマネージャーの勧めもあったし、受けることにした。そのときはTHORのツアーでカナダを回っていたんで、ブロンドの長髪を黒く染めて、後ろで束ねて、ニューヨークのオーディション会場に向かったんだ。ただそれっきりで、残念ながら合格はしなかった。クリストファー・リーヴが選ばれたんだ。まあ努力はしたんだし、悔いはないよ。

●映画『ザ・フラッシュ』(2023)にはさまざまなマルチバースのヒーローが登場して、ジョージ・リーヴス、クリストファー・リーヴ、ニコラス・ケイジ版のスーパーマンまでが現れましたが、THOR版のスーパーマンにも出て欲しかったです!

『ザ・フラッシュ』は数回見たけど、歴代のヒーローが登場するあのシーンは最高だね。すごく興奮したよ。私も出たかった(笑)。

●近年では“マーヴェル・コミックス”のTHORが実写映画化されていますが、コミック版のTHORから影響は受けましたか?

子供の頃からコミックは読んでいたけど、私がやっているTHORとは世界観が異なるものだ。私はジョン・マイクル・ソー、またの名をソー・ザ・ロック・ウォリアーだし、彼らのザ・マイティ・ソーとは別物だよ。実は“マーヴェル”社の弁護士から告訴をちらつかされたことがあるけど、どっちも元ネタは北欧神話だしね。実写映画シリーズよりはるか前からこっちがTHORを名乗ってきたし、すぐに和解したよ。“THOR”の名称を登録するのは大変だったんだ。カナダの著作権法は英連邦の管理下にあるから、イギリス女王の許可を得なければならなかったり、あとアメリカでもソー・ミサイルがあるし...でもすべてがクリアになった。私は自分が歌いたいことを歌うし、着たいものを着る。誰にもそれを止めることは出来ない。ファンが求める限り、鋼鉄のハンマーを天に振りかざすことは止めないよ。

後編記事では伝説の映画『エッジ・オブ・ヘル/地獄のヘビメタ』やプロレス・マットでの“黒い呪術師”アブドーラ・ザ・ブッチャーとの対戦など、THORの驚愕の軌跡をさらに語ってもらおう。

【最新アルバム】
THOR
『Ride Of The Iron Horse』
https://thormusic.bandcamp.com/album/ride-of-the-iron-horse

【公式サイト】
http://thorcentral.net/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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