”正体多様化人間”が消費のキーに!? 韓国ロングセラーシリーズによる「2020年の韓国」の展望とは
2020年が明けて1ヶ月が過ぎようとしている。
韓国の場合、先週末に旧正月での連休があり、気分新たに”新年”の時を迎えているというところだ。
韓国のロングセラーシリーズの書籍は、2020年はいったいどう展望しているのか。
例年11月頃に発売される「トレンドコリア」という書籍がある。ソウル大学の生活科学研究所消費トレンド分析センターの研究陣が執筆する。
今年は10月29日に発売され、11月14日には10刷りとなっているから、その影響力が伺い知れる。韓国でも発売直後からYouTubeなどであらすじが多く紹介されている。
主筆の同センターキム・ナンド教授は、2020年を近年と同じく「経済的な不況の解決」が社会全体の大きな課題とする。今年は世界の投資家の動きが盛んにはならず、経済が萎縮し、韓国のような輸出国家は特に苦しむと。
そういったなか、同シリーズは毎年その年の干支に合わせてトレンドのテーマを表紙に入れている。今年はこうだった。
"MIGHTY MICE"
MICEとは「MOUSE(ねずみ)」の複数形。オリジナルの個性を志向する個々が集合体となり、経済的な困難を克服していくというものだ。
当然、書籍には韓国の事情が書かれているので、日本と事情が違う部分もある。それゆえ、日本にもプラスとなりそうな情報の紹介を。
マルチ・ペルソナが基本中の基本ワードに
そういったなかで、同著が2020年の韓国での消費トレンドの根底をなすキーワードを紹介している。
”マルチペルソナ”だ。
”ペルソナ”とはもともと、古代ギリシャの演劇俳優が演技をする時に使う仮面だ。同著では今日的な意味として「他人が観る自分の外的な面」という定義を紹介している。
マルチ・ペルソナとは「現代社会に暮らす人びとが多様に分化していく様」を表している。現代人はまるで仮面を変えていくように、いくつかの正体を持ちながら暮らしている。
日本の読者にも、「モードが切り替わる」という時があるだろう。会社員の姿から、ライブ会場では一気に好きなアーティストのファンに変わる。家庭では母となり、父となる。あるいはSNSで複数のアカウントを作り、違うキャラクターとして投稿を行うこと。
こういった現象が「マルチ・ペルソナ」だ。ここが韓国では消費のヒントになると、同著は記している。
過去の韓国人は血縁、地縁、職業によって安定性のある生活を送っていた。それが個人の「正体」だった。しかし現代では血縁・地縁の意味が薄くなっていき、かつ職業が多様化している。「正体」の基盤が揺らいでいるのだ。
ここに多様なSNSが加勢することにより、現代人の正体が複雑に、そして多様化していく。
これが消費形態に変化を与える。
一人の人が複数の”仮面”をつけ、極端に違うキャラクターに沿って商品を購入し始めると。
このために、企業は新たな消費者ニーズを把握する必要が出てくる、と同著は予測している。
これらを今年の干支のねずみに例え、消費力のある個々人が複数形の「MICE」となり、不況を脱していこうという話だ。
下半期は「ドバイエキスポ」に注目も。韓国国内では「YouTube隆盛」が続く。
同著は当然ながら韓国社会の展望を描いているから、あちらならではの内容も多い。ここでは日本とも関連のありそうな「社会・文化」のテーマから内容の紹介を。
この項目では2020年の韓国にとっての大きな出来事として、4つのイベントを挙げている。
4月 韓国国会選挙。
6月 国連主管の「緑の成長とグローバル目標、2030のための連帯首脳会談」がアジアで初めてソウルにて開催される。
8月 東京オリンピック。
10月 ドバイエキスポ。世界最大規模の万博。韓国ブースのテーマは「世界をあなたのもとに連れて行く、スマートコリア」。
また、韓国社会文化の傾向についてこう整理している。
■1月1日より50人以上300人未満の中小企業の”週52時間勤務体制”スタート。経営側とすれば不況にもかかわらず最低賃金がアップするため、苦しい状況になるのでは。
■メディア環境 YouTubeやNetflixの成長により、既存の放送局の威勢が弱くなる。特に多数のスタッフや出演者が集まり作られるTV番組より、少数で作る破格的なB級映像コンテンツに主客が渡る様相を呈している。「ワークマン」「ワソップマン」「チャンネルナナナ(チャンネル十五夜に名称変更)」などの番組が人気の流れが続く。
チャンネル十五夜。地上波バラエティーのスピンオフ版。少数スタッフで制作
■流通業界の大変化が続く。韓国の一部大型スーパーマーケットでは、レジを置かない場所が出てきている。スマートフォンのアプリにより決済するため、そのまま棚から商品を持ち帰る形態となっているのだ。無人販売により扱われる商品もまたどんどん多様化していく。
■余暇の過ごし方は2つのパターンに大きく分かれる。一つは「暇つぶし余暇」。家の近所や国内の近隣への小旅行などで気分転換を行うパターン。いっぽう、済州島、チェンマイ、バンコクなどで大胆に1ヶ月暮らし、休みながら見識を広める形態も流行すると見られる。いずれもせよ、消費者の趣向はマルチとなっていく。
日本にも参考になる観点があるのではないか。「韓国のいいもの」を採り入れよう。これが筆者のスタンスだ。
447ページの分厚い本の内容をすべては紹介できない。最後に同著に描かれる「2020年キーワード」を筆者の整理によりかいつまんで紹介しておこう。
以下のトレンドにより、2020年の消費傾向分析は消費者の「細分化・両面化・成長(への渇望)」を見ていく必要があるとしている。
■マルチ・ペルソナ
■ラスト・フィット・エコノミー
商品と顧客との最後の接点。ここでの満足度を意味する「ラストフィット」が重要となる。これにつれて購入決定基準が細密化されていく。
■フェアプレイヤー
日常のすべての領域で公平性を追求し、企業の「良い影響」を購入基準とする「フェアプレイヤー」がもたらす消費の変化にも注目する必要がある。
■ストリーミング・ライフ
消費者は一つのものを長く所有するよりも、様々な経験をその都度楽しみたい傾向を強調していく。例えるならば、インターネットでの「ストリーミング」だ。こういった楽しみ方が、ライフスタイル全般に拡張されている。
■超個人化技術
マルチ・ペルソナによって生まれる多様な個人を消費につなげる術。個人の「細分化」が可能となったのは、データと人工知能アルゴリズムをベースにした「超個人技術」が裏付けされたていったからだ。
■ファンシューマー
単にその一員として属していることを超えて能動的に消費するファンのこと。
■特化生存
個性・長所を特化し強調してこそ企業は生き残れる、という意味。
■オパール世代
新中年層という意味にも捉えられる「オパール世代(健康で活動的な中高年世代)」の歩みにも注目なければならない。
■便利ミアム
自分の経験や好みに惜しみなく投資する傾向は、2020年にさらに普遍化される見通し。「時間不足」に悩まされている「ミレニアル(2000年以降に成人となった若い世代)」世代の訴求に合わせて「便利さ」がプレミアム価値を持つ「便利ミアム」が新たな話題として浮上している。
■顔人間
会社での昇進より、自分の成長を追求する新しい自己開発型人間。すなわち他者との競争を意識した自分のスペック向上よりも「機能よりもより自分らしい自分」をアップグレードさせようとする個人を指す。
了