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家族4人で食費3万円!極端な節約術にご用心

成田崇信管理栄養士、健康科学修士
(写真:イメージマート)

 燃料費の高騰に加え、秋の値上げラッシュに多くの人が頭を悩ませています。賃金上昇を伴わない物価上昇により、生活必需品や食費までも切り詰めなければならない人も多いと思います。

 テレビやネット記事で食費節約術の特集が組まれることが増えておりますが、中にはそのまま実践すれば健康への影響が懸念されるようなものや非現実的な節約術もあるので注意が必要です。

 極端な食費節約術の見分け方や、栄養バランスを崩さないで食費を節約する方法をお伝えします。

■真に受けてはダメな危険な食費節約術

 特に気をつけてほしい節約術として「家族4人で食費○万円」として紹介される食費節約法です。○には2~4万円ぐらいの非現実的な数字が入ります。家計簿や献立例などの例を元に節約術が紹介されるため、自分たちにもできるかもと挑戦してしまったり、実行しなくても「我が家は食費使いすぎかも」と罪悪感を与えてしまう可能性があります。

 極端な節約術に翻弄されないためにも、健康な体を維持するために必要な栄養を確保するため必要な食べ物を買うのにどれぐらいお金がかかるか、だいたいの相場を知っておくことが大事です。

 大量仕入れで食材を比較的安く購入できる給食でも、栄養価を満たせるような献立をたてると食材費は1食あたり250~300円はかかってしまいます。これを単純に家族4人で1日3食に当てはめてみると、9万円から10万8千円という水準です。家族4人で1ヶ月3万円だとすると、1人分の食費は1食100円もかけられない事になります。これではご飯に卵1個分と漬物少々しか食べられません。

 こうした節約術のほとんどは、よく見ると「お米は実家から送ってもらう」「交際費や外食は別」「子どもの給食費は含まない」など色々な但し書きがついていたりします。食費節約術を評価する場合にはどこからどこまでの範囲が食費に含まれるのかを事前に確認しておくことが大事です。

 家族4人が栄養不足にならない程度の食費(給食費も含む3食+間食)は節約を頑張っても月に6~7万円ぐらいはかかってしまうと考えておきましょう。

■見切り品や特売品狙いの節約術の問題点

 極端な節約には、見切り品や特売品を狙う方法がよく紹介されますが、これにも根本的に大きな欠点があります。

 見切り品や目玉商品などの特売品を積極的に狙う方法が有効なのは、通常価格の商品を購入してくれるお客さんが十分にいるからです。見切り品には数限りがありますので、それを狙う人ばかりになれば、その節約術はなりたちません。また、特売品しかお客さんが買ってくれないと店は利益がだせなくなりますので、持続可能な商売が成り立たなくなります。儲からなければ店は従業員に給与を支払えなくなりますから、国民の購買力も低下していくわけです。貧困の連鎖を生むような節約術をSDGs を謳うメディアが広めるのには少々疑問を感じます。

 次もSDGs に関係するものですが、安い規格外の生鮮食品で節約というものも同様の危険性があります。

 規格外の野菜は栄養はちゃんとあるから、もっと活用すれば、安く買えるだけでなくフードロス対策になるという一見よさそうに見える主張についても疑問があります。

 商品自体に問題はなく、皆が求めるのであれば安く売る理由はなくなるし、高い正規品の売り上げは落ちることが予想されますので、規格外野菜の活用は農家にとってメリットはありません。これも持続可能性を考えると望ましくない方法だと考えられます。たまたま規格外品を安く買えてラッキーぐらいであれば良いのですが、多くの人がそれを求めるようになれば破綻してしまいます。

 未利用魚の利用も、売れるようになればそれを目的とした漁獲も行われる可能性があり、持続可能な資源管理とは矛盾してしまいます。

 裏技的な節約術は、それを利用する人が少ないからこそ裏技として通用するものです。多くの人が物価高に困っている現状の切り札にはなりません。

■物価高騰でも栄養不足にならないために気をつけたいポイント

 人それぞれ嗜好は異なりますし、家庭環境も様々であり、正解といえるものはありませんが、持続可能な節約のポイントをお伝えします。微量栄養素の欠乏はすぐに問題にならず、数年後に急に訪れることもありますので注意が必要です。

その1:食費を節約すると不足しがちな食品や栄養素を覚えておく

 貧困や節約などで食事にお金をかけられなくなると、お腹を満たすために高エネルギー(カロリー)の食事になりやすい傾向があります。節約中は炭水化物や油が多い食生活になっていないか、野菜は十分に食べているかを意識しましょう。肉や魚を食べる頻度が減るとタンパク質や鉄が不足しやすくなります。買い物の時には財布と相談しながら、肉、魚、卵のようなタンパク質をしっかり摂れるような食材は選ぶようにしましょう。大豆製品も良質なタンパク質源になります。

その2:食材の置き換えで栄養バランスを維持

 前述したように肉は高いからと、代わりにお腹を満たすためお米やスナック菓子を多く食べていれば、栄養が偏ってしまう心配があります。良質のタンパク質源である肉であれば牛肉→鶏肉のように比較的値段の安い食品への置き換えがおすすめです。循環器疾患のある人では牛肉を鶏肉に置き換えることで血中脂質の改善も期待できるかもしれません。葉物野菜が高いときには根菜類やかぼちゃなどの果菜類に、麺類が高いときにはご飯に、というような同じカテゴリー内での置き換えが栄養不足対策に有効です。

その3:値段の割に栄養価の高い食品を積極活用

 これはすでに実行している人は多いと思いますが、昔から物価の優等生といわれてきたような卵や牛乳などの食材です。その他、鶏肉や冷凍のアサリ、小松菜や水菜、大豆加工品などがあてはまります。甘味料を加えていない野菜ジュースもおすすめです。

その4:品数不足を補える微量栄養素が豊富な食品を活用

 買い物に時間をかけられない人や、料理が苦手な人では、ここまで紹介した栄養不足改善のポイントを実行するのは難しいと思います。そうした人におすすめしたいのが、完全栄養食や大人用の粉ミルクです。物価高では、購入する食品に偏りが生じやすく、微量栄養素の不足が懸念されます。最近流行している大人用の粉ミルクは、飲むだけで手間がかからず不足しやすい栄養素を補うことが期待できるのが良いところです。同じ理由で冷凍食品やインスタントの完全栄養食もすすめられますが、値段設定が高いこと、食べた後の満足感が乏しいことがやや気になるところです。豆や種実類、果物など、食物繊維のとれる歯ごたえの良い食べ物もあわせると、完全栄養食の弱点は補強できますので、休日や時間のある時で良いですので意識して食べるとより良い食生活になるでしょう。

 ちなみに大人用の粉ミルクを勧めているのは、育児用ミルクは乳糖を含むため、大人が飲む場合には下痢をする可能性があるからです。

■おわりに

 他にも色々な食費節約術はあるかと思いますが、大切なのは自分に合った方法で長く続けられることです。1週間分の献立を考え必要な食材を購入する方法は食品ロス減も期待できるので、私も参考にはしていますが、仕事の帰りが遅くなったり、家族が外食してきたりで、毎回実行するのは困難だったりします。3~4回分ぐらいの献立を決めておき、後は臨機応変に対応できる日持ちする食材を購入というように自分のスタイルに合わせたアレンジをしています。

 これは私の失敗談ですが、節約を意識しすぎていた頃、食事が全然楽しくなかったけど我慢していたと後で聞かされ大いに反省したこともあります。

 物価上昇と賃金の上がらない不景気で皆さん大変な思いをしておりますが、景気回復を願いつつ、食事の楽しさを忘れず健康的な暮らしができる一助になればと願います。

管理栄養士、健康科学修士

管理栄養士、健康科学修士。病院、短期大学などを経て、現在は社会福祉法人に勤務。ペンネーム・道良寧子(みちよしねこ)名義で、主にインターネット上で「食と健康」に関する啓もう活動を行っている。猫派。著書:新装版管理栄養士パパの親子の食育BOOK (内外出版社)3月15日発売、共著:謎解き超科学(彩図社)、監修:すごいぞやさいーズ(オレンジページ)

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